SHUFFLE! SS

 愛する理由 〜 芙蓉 楓 〜

                    震天 さん



お母さんが死んだ。
どうして?
何が原因でそうなったの?
何もわからず、ただ、お母さんが死んだという現実を見なくなってしまった私。
もう、生きるのが嫌になってしまった。
そんな時、私の幼馴染が言いました。

「俺のせいなんだ。3人が死んだのは」
「!?」

驚きました。
事故から数日経った日のこと。
いつまでも生きる気力を見せなかった私に対し、幼馴染がそう告げました。
しかし、その言葉を理解するのに少し時間がかかってしまいました。

「俺が、無理を言って3人に引き返してもらったんだ。どうしても会いたくなっ
て。その途中で……」

まだ理解できていない。
いえ、理解できていたかもしれません
ただ。それを簡単に信じる事が出来ませんでした。
もし、それが本当だったら。
しかし、彼が決定的なことを告げた時、私の中に何かが生まれました。

「俺のせいで3人が死んだ。俺が殺したも同然なんだ!」
「っ!?」

憎しみ。
それが私の中に生まれたものでした。

「……して……お母さんを帰してよ! 稟の馬鹿! 稟なんか―」

今思えば、それは言ってはいけない事でした。
しかし、行き場のない私の悲しみと怒りはそう言わずにはいれませんでした。

「稟なんか、死んじゃえば良いんだ!」


それからでした。
私は幼馴染を、稟くんを憎む事で生きる気力を取り戻しました。
そして、朝起きて、階段を降りようとしていた稟くんをみて、

「稟が殺したんだ……お母さんを……稟なんか……」

気付けば、私は彼を突き落としていた。
彼は驚きながらも突き落とした私を確認すると微笑んで見せました。

どたどたどたどたっ!

「はぁ、はぁ……」
「どうしたんだ!? 稟くん!? 大丈夫かい!?」
「っ! は、はい……なんとか……」

殺したかった。
お母さんを殺したような人は死ねばいい。

「楓! なんて事をするんだ!」
「稟がお母さんを殺した! 稟も死んじゃえばいいんだ!」
「何を言っているんだ! 稟くんは―!」
「おじさん!」
「!?」
「いいんだ。こうなるかもしれないという事はわかっていたから」
「しかし……」

突き落とされたのにまだ笑ってる。
それがかえって私を馬鹿にしているように見えました。
人を殺しておいて笑っている。
それが無性に腹立たしく思いました。

「楓」
「なによ!?」
「これからも、俺を憎んでくれ。お前のお母さんを殺した俺を……」

浅はかでした。
このときの稟くんの言葉の意味をちゃんと理解できませんでした。
そう、わざと自分を憎ませようとしている、稟くんの言葉の意味を。
しかし、その時の私はちゃんと理解できるだけの冷静さをもっていませんでした。


それからしばらく、私は稟くんを殺そうとしました。
階段から突き落としたり、料理に毒を入れようともしました。
でも、どうしても殺せなかった。
そんな時に、クラスメイトにいわれました。

「どうして楓ちゃんにはお母さんがいないの?」

6年生の時だったでしょうか。
ある程度成長して、少しは憎む気持ちも治まっていた頃です。
彼女にとっては何気ない一言ですが、私にはとても辛い一言でした。
そして、私はこう言ってました。

「稟くんに殺されたの。だから私にはお母さんはいない。絶対、許さない!」

再び湧きあがってきた感情。
それは抑える事が出来ませんでした。


家に帰り、私はカッターナイフを手にしていました。
目的は一つ。
稟くんを殺すため。
そして、そのチャンスは早く訪れました。

「ただいま」

彼が帰ってきた事を確認すると、ナイフの刃を出し、彼に投げつけました。

「!? ぐあっ!」

それは彼の肩に深く刺さりました。
血が出て倒れこむ幼馴染。
しかし、何か府に落ちませんでした。
投げた距離は交わせないほど距離が短かったわけでもありません。
なら、こう考えるのが自然です。

「なんで、避けなかったの?」

避けられなかったのではなく、避けなかった。
私の中で仮説が浮かんできました。

「俺は、楓に恨まれて当然の事をした。これは……当然の、報いだ」

それでもまだ笑っている。
どうして? どうしてそうなってまで笑えるの?
その時、幸か不幸か、お父さんが帰ってきました。

「ただいま。なっ! どうしたんだ!? なにがあった!?」

ドアをあけると肩にナイフが刺さって倒れていた稟くんを見てお父さんは驚きま
した。

「楓! お前、自分が何をしたかわかっているのか!?」
「だって、稟は……」
「稟くんは―!」
「おじ、さん……それは、言っちゃ、いけない……俺は、大……丈夫……だか、
ら……」

そういって、稟くんは気を失ってしまいました。
お父さんが急いで救急車を呼び、稟くんを入院させました。

「楓、なんてことを。こんな事をしても母さんは帰ってこない。それに、母さん
だってこんな事を望んでいない」
「稟が殺した。お母さんを」
「……稟くん。すまないな。私はもう、これ以上黙っている事は出来ない」

お父さんが稟くんに謝るようにして、口を開きました。

「あの事故は稟くんのわがままで起こった事故じゃない」
「……え?」

信じられませんでした。
今までそう思っていた事を簡単に否定されました。

「でも、稟が……」
「あれは彼の提案でね。生きる気力を見せないお前に、少しでも元気になって欲
しくて吐いた『嘘』なんだ」
「嘘?」

お父さんは溜息を一つつくと、更に続けました。

「医者に言われたんだ。楓に生きる気力を、生きる目標を持たせないと、本当に
死んでしまうと。だから彼はこういった。『俺を憎むことで楓が少しでも元気を
取り戻せたら』と」
「!? そ、そんな……」

お父さんの口から出た言葉は、衝撃的でした。

「『自分はどうなっても構わない。楓に生きてもらえるなら、それでいい』。彼
らしいといえば、彼らしいが。だが、彼もこうなるとは思わなかったのかもしれ
ないな」
「だったら……だったら、事故の原因は何!? 稟の、稟くんのせいじゃないな
ら、一体……」
「それは……」

稟くんをチラッと見て、首を振る。

「それは私の口からは言えない」
「どうして!?」
「私だってお前には真実を言わなければいけないと思う。だが、それをいって彼
の頑張りを無駄にしたくないのだ。いずれ、真実を知るとは思う。だが、今は言
えない。わかってくれ」
「……」

眠っている稟くんを見ました。
それから、今までの事を思い返してみました。
稟くんはどうしていたのか。
私になにを隠そうとしていたのか。
どうして、あんなに傷ついても笑っていたのか。

『これからも、俺を憎んでくれ。お前のお母さんを殺した俺を……』

わからない。
稟くんが何を考えていたのか。
どうしてあんなことを言ったのか。
だけど、一つだけわかった事がありました。
それは、私が稟くんにひどい事をしてしまった事。
ただ、私のことを考え、傷ついてまで私に生きてもらいたかった稟くん。
私は、そんな稟くんを、

「殺そうとした……」

そう呟いた時、私の目からは涙が零れ落ちていました。
私はもう少しで取り返しのつかないことをしてしまうところだった。
いいえ、すでに取り返しがつかないほどひどい事をしてしまった。
許されるなんて思えないほどのひどい事を、私は恩人にしてしまった。

「私は、私はっ!!」

死にたかった。
こんな事をしてしまった私は生きる価値のない人間だ。
でも、稟くんはどうしても、私に生きて欲しかったみたいです。

「楓……ずっと……一緒……」
「え?」
「……約、束……ずっと……」

約束。
まだお母さんも稟くんのご両親も生きていた時。


「ずっと一緒にいような」
「うん!」
「約束だぞ?」
「もちろん。私、稟くんのお嫁さんになってあげるから」


遠い日の約束。
稟くんは忘れずに覚えていた。
それなのに……私は……。

「楓。稟くんはこういう子なのだよ。自分がどんなに傷ついても、目の前で悲し
んでいる人を放って置けない。だから……」
「稟……くん……」
「彼を、許してやってくれ。真実を必死に隠し続けた彼を」
「私……稟くんに……ひどい、ことを……」

私は泣き続けた。
稟くんにしがみついて。
許されようとは思わない。
私なんかのためにここまでしてくれた稟くん。
そんな稟くんを、私は……。

「ごめん、なさい……稟くん……」

もう、憎まない。恨まない。
私はこの人だけを愛し続ける。
どんなに憎まれても、恨まれても、私は彼に尽くしていきたい。
たとえ許されなくても、私は彼の傍にいたい。
それが私に出来る償い。


それから、全てが変わりました。
私の全てを彼に捧げるために。
もう、彼に無理をさせないために。
私は稟くんを愛し続けます。

「稟くん、おはようございます。今日の朝食は稟くんの好きななめこ汁ですよ」

これからも、私にお世話をさせてくださいね。



                                            Fin.


震天さんからいただいてしまいました〜。
や、どうしましょう。一見様からのメールなんて初めてです。
しかもSS付きで……。
感謝感激。
あ、次も是非。(マタカイ

『愛する理由』ですが……ああ、私が今書いてるSSと大いにネタかぶり……。
本編でもちろっとだけ触れられた、楓と稟の過去のお話です。
どのへんが……というのは、私のが書き終わるまで少々お待ち下さい。(苦笑
終わりの抜きかたも良いですね。
思わず「私の世話もしてくれ〜」と言いたくなりました。(ぇ
なんかこう、楓ちゃんの愛情たっぷりです。

ありがとうございました〜♪

Comment by けもりん


[2004/04/24 追記]
私のSSも公開しましたので、どこが被ったか解説を。
<< 「だったら……だったら、事故の原因は何!? 稟の、稟くんのせいじゃないなら、一体……」>>
ズバリこの一文です。
理由があるからなんですよね。
私の方は終わりを書いていたのですが、こちらで始まりを書かれてしまっていて大焦りでした。
……ネットを通じて精神を読み取られた模様です。(ぉ


無断転載厳禁です。
show flame