Φなる・あぷろーち SS
大興奮!? 愛と変貌の喫茶店
震天 さん
――喫茶店プラーヴィ。
俺、水原涼の従兄弟、武笠春希が(趣味)で経営している店だ。
趣味で経営しているといっても、手抜きは一切ない(本人は指定席で本業をしているだけだが)。
だけど、ちゃんと店の売り上げに(程よく)貢献しているあたり、完璧な人間だと思う(中身は除くが)。
「涼。モノローグに余計な注釈が目立つが?」
「きっと気のせいですよ、マスター」
仕事中のため、マスターと呼んでいるが、俺は本来ハルと呼ぶ。
そのハルだが、もう歩く7大不思議といっても過言ではない。
その1:ここ最近なぜかずっと29歳。
その2:存在感はとてつもないのに近づいてくるときは気配を感じさせない。
その3:指定席からカウンターまで歩いてくるだけで、山のような注文を持ってくる。
その4:意外と可愛いものが趣味。
その5:なぜか百合佳さんと結婚まで至った。
その6:益田家に啖呵を切れるだけの度胸と政治力。
その7:驚異的な地獄耳と読心術の持ち主。
いくつかは不思議とまったく関係はないが、謎なことには変わりない。
そんなハルの下、プラーヴィでバイトしている俺はみっちり鍛えられた。
ちなみに、俺の妹、明鐘もここでバイトをしている。
と言っても、平日は学校で部活があるから、土曜のみのバイトになる。
これが自慢の妹で、ひいき目を抜いても、明鐘は可愛い。
「素でそこまで言えると、危ないわよ」
「……お前まで人のモノローグに入ってくるなよ」
こいつは守屋美紀。
ハル曰く、帰ってきた幼馴染。
声優を目指している元気すぎるやつ。
得意技はコブラツイスト。
「何で私の紹介のときだけ得意技が入ってるのよ!?」
「事実だろ?」
「もっとましなものがあるでしょ!」
「そうだぞ、水原。たとえば、花より団子とか」
「え、笑りんにまでそれを言われると……」
「いや、お嬢の言う通りだ」
で、こっちが陸奥笑穂。
名実共にお嬢様だが、それをまったく感じさせない。
俺はお嬢、美紀は笑りんと呼んでいる。
「それにしても、ここは相変わらず、客が偏って座っているな」
「特等席は指定席の隣だな」
「その指定席からご注文。コーヒーとミルクティー」
「って、百合佳さんは今日シフトじゃないでしょ?」
芽生百合佳さん。
学年でもバイトでも先輩。
宇宙のごとき包容力を持つ。
「そうだけど、ついでだし」
「……お姉ちゃん。それ、私の様子見も兼ねてってこと?」
少し不機嫌そうな声では言ってきたこの娘は芽生あやめちゃん。
百合佳さんの妹で、少しおっちょこちょい。
少し前、お嬢にパフェをぶちまけた経歴を持つ。
「というわけだし」
「うぅ……あのときの失敗はまだ消えませんか……」
「はい、百合佳さん。コーヒーとミルクティー」
「うん。ありがとう。あ、それと春希さんから伝言。みんな、閉店までちょっと残っててだって」
「みんなって、私と笑りんも?」
「そうみたい。でも、涼君は帰っていいって」
「は?」
「理由は聞かないでね。私はそれだけ伝えるように言われただけだから」
「う、うん……」
なんだろう?
ハルのことだから変なことは……あり得る……。
結局、帰るときになってもわからず、しかも、閉店後に明鐘と西守歌までやってきて、俺の疑問と不安は大きくなる一方だった。
翌日、バイトのときになって、昨日のハルの意図を知った。
今日は土曜日のため、明鐘がいて、あやめちゃんがいて、百合佳さんがいるのはまだ良い。
問題なのは、西守歌と美紀とお嬢だ。
さらにもう一つの問題点。
「ハル、ここの制服って、こんなだっけ?」
「土曜日は明鐘が入り、男性客の売り上げに多少貢献している。だが、もう少し伸ばしてみようと思ってな」
なんでも、メイド服をイメージした制服だとか。
でも、なぜにメイド?
「何でも、メイド喫茶とやらが流行ったようだ。それで少し反応を見てみようと思ってな」
「じゃあ、あの頭のやつは何?」
制服はまだ認めよう。
だけど、明鐘たちの頭には明らかに制服とまったく関係なさそうなものが乗っかっている。
「何かオンラインゲームでは女性キャラが身に着けているようだ。
何かのゲームでは猫耳を生やしたメイドもいたそうだ」
「……」
……なんでハルがそういう情報を持っているんだ?
ま、いいか。
とにかく、幅広い層を集めようという目論見だろう。
「またハル兄はこういう……」
「まぁまぁ。可愛いじゃない。こういうのも」
「でも、鐘ちゃん達はともかく、私にこういうのは似合わないだろうし……」
「確かに、美紀には似合わない――」
言い切る前に、美紀が俺の胸倉を掴んだ。
「……なんか言った?」
「いえ、何でも……」
「涼様涼様!」
……西守歌が楽しそうに俺の袖を引っ張って俺を呼ぶ。
ま、何が言いたいのかわかるが。
「……なんだ?」
「萌えます?」
「お前には何があっても萌えん」
「そんなぁ〜!」
「兄さん兄さん」
「ん?」
今度は反対側から明鐘が俺を呼ぶ。
「似合う、かな?」
「明鐘……お前はなんて可愛いんだ!」
思わず抱きしめてしまう。
「うわぁ……それはさすがに引くわ」
「ホントに仲良いですよねぇ……」
「涼。ラブシーンは控えろ」
「……やめろ、とは言わないのだな」
それにしても、お嬢のこういう姿も新鮮だな。
「にしても、この服は私のような女には似合わんだろ」
「それに関しては激しく意義あり! 笑りんは自分の綺麗さがわかっていない!」
「そ、そうか……?」
「そうですよ。陸奥さん、すごく綺麗ですよ」
「でもなぁ……」
「とにかく、その格好でバイトしてみろって。周りがちゃんと評価してくれる」
ま、その分、俺が一番大変そうだが。
で、案の定、店は大盛況。
ハルの話によると、少し前からネット上に知らせていたようで、かなりの人が店に来た。
それで、見た目華やかな女の子が多いものだから、一言話そうとひっきりなしに注文が来る。
閉店するころには、普段の3倍ほどの売り上げになった。
ただし……。
「「へにょ」」
「って、人のリアクションをパクるな〜」
「守屋。ツッコミに力がないぞ……」
「そりゃ、こんだけ働けば全ての力がなくなるわよ……」
「私も、もう限界ですわ……」
「でも、一番大変だったのって……」
「先輩ですよね。間違いなく」
俺は主にカウンター内でコーヒーを淹れたり紅茶を淹れたりと、とにかく、休む暇がほとんど、というか、全くなかった。
「……3倍か。悪くはないか」
「マスター……これで、今回のお給料は……」
「わかっている。皆、よくやってくれた」
「「「「「やったー!」」」」」
俺たちは今回のことに協力する変わりに、売り上げに比例して、時給を上げてくれるという条件があった。
これで少しは俺達の苦労も……。
「来週も頼むぞ」
「「「「「……へ?」」」」」
ら、来週、も(・)……?
ハルは結局、それ以外何も言わなかった。
その意味深な言葉を最後に、俺達のこの慌しい一日は終わりを告げた。
ねこみみめいど、ねこみみめいど、ねこみみめいど……。(ブツブツブツブツ
――はっ!? すみません、つい。(ぇ
や、メイド喫茶なるものには「お付き合い」で「数えるほど」しか行ったことないのですよー。(爽
普通の喫茶店にも可愛い店員さんがなかなかいないこのご時世、プラーヴィのようなお店は貴重です。
貴重なので……ええと、どこかに作ってください。通います。(笑
<<Comment by けもりん>>
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