新しい候補 〜 カレハ〜
震天 さん
休みにやる事がないと暇なのだ。
そうなると、自然と木漏れ日通りに足が向く。
「稟さん!」
「?」
少しに間延びした声が俺を呼び止める。
「カレハ先輩。今日は一人ですか?」
「ええ。今日は稟さんにお願いがありまして」
「お願い……ですか?」
カレハ先輩が俺にお願いとは、かなり珍しいな。
「それで、どんなお願いなんですか?」
「はい! これから、私の家へ来てもらえますでしょうか?」
「……へ?」
いきなり家へご招待ですか?
それはさすがに……。
「稟さん?」
「あ、いや……その、良いんですか? 俺が、その……カレハ先輩の家にお邪魔
して」
「はい。妹に稟さんを紹介したいので」
「あ、紹介ですか。そうですよね!」
俺は何を考えていたんだろうか?
そりゃ、俺は健全な男だし、カレハ先輩も美人だし……。
これ以上はやめておこう。
色々引っ掛かりそうだ。
「そういえば、カレハ先輩、妹がいたんでしたよね?」
以前に妹さんへのプレゼント選び、俺も手伝ったんだった。
「はい。来年、バーベナ―学園に入る予定なんです」
「はは。あくまで、予定なんですね」
「はい……」
「あら?」
急にカレハ先輩の表情が曇る。
俺、なにか変なこと言った?
「どうかしました?」
「それが、最近になって、バーベナ―学園には入らないと言い出しまして……」
「どうして、また……」
「私と一緒に学校へ行けないからだそうです」
それはまた無茶な……。
そんな事じゃ、本当に登校拒否になりそうだな。
「そりゃ、3つ離れていれば……」
「もともと、人見知りをする方でしたので、外では私と亜沙ちゃんにしか……」
「それじゃあ、俺が行っても避けられるだけじゃあ……」
力になれる自信ないなあ……。
大体、俺が行っても……。
「とにかく、学園には稟さんのような方がいるということを知ってもらいたいだ
けですので」
「まあ、それで良いんでしたら……」
とりあえず、会うだけ会ってみるか。
今思えば、俺、カレハ先輩の家に来るの初めてだな。
「さあ、どうぞ。少々散らかってはいると思いますが」
「お邪魔します」
神族の中でも高貴な家系みたいだから、結構大きい家だな。
とりあえず、家に上がらせてもらう。
「……」
散らかってる?
どこが?
「今、お茶を淹れますので、リビングでお待ちください」
「は、はい!」
いかん、こういう家にはなれていないからどうしても緊張してしまう。
「……」
なんか、落ち着かないな。
「お待たせしました。ローズティーですが、構いませんか?」
「あ、はい。それにしても、大きい家ですね」
「そんな……シアさんのお家に比べれば……」
いや、あれと比較すればどの家も小さくなりますよ。
「それで、肝心の妹さんは?」
「それが……」
「?」
カレハ先輩が自分の後ろを見る。
俺もカレハ先輩の後ろを覗く。
「……あ」
「……」
カレハ先輩の服にしがみついている女の子がいた。
しかも、思いっきり俺を見て怯えてるし。
「え、え〜っと……」
「っ!」
カレハ先輩の後ろに隠れる。
俺、そんなに怖いか?
結構傷つくぞ……。
「リナちゃん、ちゃんとご挨拶を……」
泣きそうになりながら首を振る。
泣きたくなってくるのはこっちだ。
「困りましたわね」
「俺は傷つきました……」
初対面でここまで避けられると誰でも傷つくぞ。
「すみません。稟さん、あの、この子はいつもこうですのであまり気にしないで
下さい」
「は、はい……」
まあ、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが……。
とりあえず、自己紹介しておくか。
「俺は土見稟。カレハ先輩の後輩なんだ」
「……」
だめか……。
「……リア……」
「え?」
「リナリア……」
「リナリア、か。よろしく」
握手するために手を差し伸べる。
「……」
しかし、一向に握ってくれる気配はない。
「は、はははははは……はぁ」
乾いた笑いから溜息に持っていく。
我ながらおかしなコンボだ。
そうやって項垂れてると、手の先に何かが触れる感覚が生まれた。
「?」
「……」
顔を少し赤らめながら俺の手を握ってくれた。
しかし、カレハ先輩から離れていない。
「カレハ先輩、普段、彼女の事をなんて呼んでるんですか?」
「リナちゃんですか?」
「あ、わかりました。リナ、バーベナ―学園には来ないのか?」
「……」
リナがカレハ先輩の後ろに引っ込んでしまった。
しまった、直球過ぎたか?
「あぁ、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど……」
って、どういうつもりなんだ?
まぁ、今日は別に説得に来たわけじゃないし、これ以上は止めておくか。
「ごめん、やっぱりいいや」
「……?」
「どの学校に行くかは君の自由だし、俺がどうこう言う権利もない。君の行きた
い所に行けばいいよ。まあ、バーベナ―学園に来るとなると、俺が君の先輩にな
るわけだけど」
「……」
「まままあ♪」
「わぁっ!」
なぜだか知らないけど、カレハ先輩のスイッチが勝手に入っちゃったみたいだ。
「カレハ先輩、どうしました?」
「稟さん、リナちゃんのことをもうそこまで♪」
「は?」
「!?」
カレハ先輩の中ではもう、俺はリナの恋人にまで進んでいるんだろうな。
とにかく、俺の手におえなくなる前に退散した方がよさそうだ。
「と、とにかく、もしうちの学園に来るなら、これからもよろしくな」
「……はい」
「それでは、カレハ先輩。俺はこれで……」
「まあ♪ 稟さん、照れてしまわれているんですね。可愛いですわ♪」
うぅ、亜沙先輩の気持ちが今になってよく分かった。
亜沙先輩、心中お察しします。
とにかく、退散退散。
「お邪魔しました〜!」
俺は逃げるようにしてカレハ先輩の家を後にした。
休み明けの学校はどうしてこうもだるいんだろう?
「ふぁあぁぁ……」
「はーろー!」
「あ、亜沙先輩、カレハ先輩。おはようございます」
「おはよう♪」
「おはようございます。稟さん、昨日はありがとうございます」
「え?」
昨日?
昨日といえば……。
「ああ、いえ。俺は何もしてないですし」
「そんな事ありませんわ。あの後、リナちゃん、バーベナー学園に行くと仰いま
したわ」
「え、そうなんですか?」
なんで?
俺、なにかしたか?
「リナちゃんって言えば……カレハの妹だよね? な〜に〜、稟ちゃん。また?」
「またってなんですか? またって」
「言う? シアちゃんにリンちゃんに楓にリムちゃん」
「……参りました」
亜沙先輩の声が聞こえた連中が俺に向けて殺気を放ってる。
俺がなにしたって言うんだ?
「うぅ、カレハ先輩、亜沙先輩が俺をいじめる〜」
「喧嘩するほど仲がいい……まままあ♪」
だめだこりゃ。
「あ、あの……稟、先輩……」
「へ?」
後ろから俺を呼ぶ声がする。
というより、俺のことを『稟先輩』と呼ぶ人物は誰もいないはずだが?
疑問に思いつつ、後ろを振り返ると、昨日初めて会ったばかりの少女が俺のすぐ
後ろにいた。
「あれ、リナリア?」
「お、おはよう……ございます……」
だが、挨拶をしたらカレハ先輩の後ろに引っ込んでしまった。
「ああ、おはよう」
「リナちゃん、おはよ〜」
「おはようございます……」
「リナちゃん、学校はどうされたんですか?」
そうか、リナも今日は学校のはずだよな?
それが何でここにいるんだ?
「あの、その……稟先輩に、ご挨拶……」
胸の前で指を絡めながら照れながら言う。
「そのために……わざわざ?」
「あ、あの……ご迷惑……でした?」
「あ、そういうわけじゃないんだ! ただ、俺なんかのために……」
うぅ、周りに今までいなかったタイプだからどう接していいのか良くわからない。
「そんな……私は、ただ……」
「……」
「……」
お互い照れてしまって顔をあわせる事が出来ない。
「はい、カレハ」
「ままままままあ♪♪」
「あ……」
カレハ先輩の前でこのシチュエーションはまずかったか。
スイッチが2個も3個も入っちゃったみたいだ。
「と、とにかく、リナ。学校に遅れないようにな」
「は、はい」
リナもカレハ先輩の妄想少女モードは苦手らしい。
「それじゃあ」
「はい、また放課後……」
リナはそういうと自分の学校に向っていった。
「さて、俺も教室に……」
自分でもわかるくらいの棒読み。
亜沙先輩に捕まらないうちに早いとこ離脱……。
「り〜んちゃん♪」
「うぅ……」
できなかった。
「稟ちゃん、あのリナちゃんがボクたち以外に挨拶するなんて、普段はありえな
いのよ?」
「ソ、ソウナンデスカ?」
つい片言になってしまう。
本当、亜沙先輩は面白い事が好きだな。
「稟ちゃん、なにしたの?」
ギロギロギロギロ!
やめろ!
そんなに俺を睨むな!
俺は無実だ!
「亜沙ちゃん、稟さんはなにもしていませんわ」
「カレハ先輩!!」
カレハ先輩が俺をフォローしてくれるなんて!
またスイッチが入るのかと思ってたけど。
「本当?」
「はい! ただ」
「ただ?」
「リナちゃんが稟さんの恋人候補になっただけですわ♪」
ごつっ!
俺の顔は固い地面に埋もれていた。
というより、それはカレハ先輩の頭の中で、でしょう?
「稟ちゃん、朝から撃沈してていいの?」
「はい?」
「周り、気付いてる?」
「……」
恐る恐る周りを見てみる。
そしたら、皆さんが殺気を剥き出してらっしゃる。
「ボクたちがいなくなったら、稟ちゃんどうなるのかな?」
そう言ってこの場から離れようとする。
「あ、亜沙先輩、カレハ先輩。見捨てないで」
ここでこの二人と別れれば、多分、殺される。
そんなところをネリネに見られたら……。
「亜沙先輩、地獄絵図は見たくないですよね!?」
「そこまで発展する?」
「する可能性があるから言ってるんです!!」
もし、俺が殺されでもすれば、世界規模の戦争になりかねない。
……冗談抜きで。
「まあ、そこまで言うなら、今日は常に誰かと一緒にいることをおすすめするよ」
「稟さん、頑張ってください」
「まあ、死なない程度に……」
これから先、俺はまだまだ周りに振り回されそうだ。
まあ、リナみたいな子は初めてだから、しばらくは退屈しないな。
ただし、俺の幸せは常に死と隣り合わせにあるという事だけは忘れてはならない。
Fin.
ままあ♪
ついに震天さんがサブキャラにはいりました〜〜。(笑
このたびはカレハ先輩……というよりは、妹さんの方がメインかもですね。
そのリナリアちゃんですが……はい、私にも一人欲しいです。(ぉ
オリキャラとのことですが、こういうしっかり溶け込んでると思います。
それにしても……稟の学園生活はとってもピンチですね。
毎日が嫉妬と恨みつらみの中に違いありません。
来春からは、プリムラも学園に通い出したりするかもしれませんし。
それと、亜沙先輩の
「言う? シアちゃんにリンちゃんに楓にリムちゃん」
の台詞がままあ♪でした。
「……それと、ボクも」とか、もごもご言ってそうです。
今回もありがとうございました♪
無断転載厳禁です。
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