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  爆弾をばら撒く少女 〜 リシアンサス 〜

                    震天 さん


初めて会った印象は可愛くていい子と言う感じがした。
喋ってみてもその印象はあまり変わらなかった。
変わらなかったが、唯一見落としていたものがあった。
そう、それはシア達が転校してきて初めての昼休み。
俺たちは屋上で昼食を取る事になった。
そのとき、事件は起こった。

「でも、いいの?」
「なにがです?」
「もっと盛大に『きゃあー、稟くーん、会いたかったあああーーーー!』とかい
 って飛びつたり、とか。土見君に会うため、なんでしょ? 今回の転校」

その言葉に、シアはネリネと顔を見合わせると照れたように……。

「やっぱりこっちではそれが当たり前なのかな? それじゃあ……」
「お、おい、シア?」

シアは少し躊躇いがちに俺に近づいてくる。
シア! 思い止まれ! それはいきなり爆弾を投げるような―!

「稟くーん! すっっっっっっごく、会いたかったあああーーーー!」

むぎゅっ!

止まってくれなかった。

「シ、シアちゃん!?」
「うわぁ、シアちゃん、大胆」
「り、稟くん……」
「羨ましい限りだな」

樹、殺気混じりに呟くのはやめてくれ。
マジで怖いから。

「稟く〜ん!」
「シ、シア。その……男としては大変嬉しい状況ではあるんだが……」

いや、そうじゃなくて。
まぁ、嬉しい事には変わりないが、周りの殺気が怖い。

「? 稟くん嬉しいの?」
「ま、まぁ、そうなんだが……」
「じゃあ、もっと抱きついていいよね?」

更に抱きついて来る。
それにともない、俺の顔は更にシアの胸に埋まっていく。
俺の理性はどこまで持つだろう?

「あ、でも、私だけ稟くんに抱きつくのは不公平だよね?」
「は?」
「リンちゃんも一緒に。リンちゃんもやりたかったでしょ?」
「は、はい。でも……」

ネリネ、頼むからシアを止めてくれ!
これ以上爆弾を放り投げられたらたまらん!
しかし、俺の心の叫びもむなしく、面白い事が大好きな麻弓が余計な事を言いや
がった。

「気にしなくていいのよ。こっちではこれが極々普通なんだから」
「なっ!」
「そ、そうなのですか?」

ネリネは楓に確認を取る。
頼むぞ、楓。
これ以上は俺が危ない!

「カエちゃんも一緒にどう?」
「え? は、はい」

そこで頷いてどうするんだ、楓。

「では、稟様。失礼します」
「稟くん、ごめんなさい」

ぎゅっ!

顔を赤らめながらも抱きついてくる二人。
それを外から麻弓が写真を撮っているのは言うまでもなく。



あの後、かなりの連中に追いかけられたが、無事に帰ってこれた。

「はぁ……明日学校に行くのが怖い」
「だ、大丈夫ですか?」
「正直、あまり大丈夫じゃない」

そして、その大丈夫じゃなくした一人が今目の前にいるわけで。

ピンポーン!

「誰だ? こんな時間に」
「私、出てきますね」

パタパタとスリッパの音を立てながら、楓がリビングから出て行った。
しかし、すぐに慌てて戻ってくる。

「り、稟くん、稟くん!」
「どうした?」
「し、神王様と魔王様が、お引越しの挨拶に……」
「はぁっ!?」

まぁ、ここから宴会に入るので簡単説明しておこう。
両隣の魔法ハウスに引っ越してきたのが神王様一家と魔王様一家という事だ。
今夜はその引越しの挨拶にきたらしい。
最早何度驚いたかわからないので俺はリアクションが薄い。
だが、シアのこの一言にはさすがに驚く。

「とりあえず、学園での挨拶も済んだので、今度は将来のお嫁さんとして挨拶に
 来ました」
「は?」
「将来の……」
「お嫁さん?」

ネリネも初耳なのか、かなり自分の耳を疑っている。

「おや、ネリネちゃんは違ったのかい?」
「え?」
「シアは稟殿の嫁になるんだ、って張り切ってたからな」

なんか話が恋人を超えて一気に飛躍しているような気がしてきた。

「あ、あの……」
「「ん?」」
「おたくらは自分の娘が俺みたいなのと結婚するのに何の抵抗もないんですか?」

今までの話を聞いていると、娘を溺愛しているようにきこえるのに。
普通、そういう親は娘が嫁ぐ時には泣いて嫌がるのに。
しかし、どういうわけか神王様と魔王様はキョトンとしている。

「シア」
「なぁに?」
「シアは稟殿が好きか?」
「うん!」
「ネリネちゃんは?」
「わ、私も……稟様が、好きです」
「「なら、問題なし!」」
「さいですか」

もういいや。
この人たちに常識は通用しない。
俺の持ってる常識は全て捨てよう。

「カエちゃんも稟くんのこと好きなんだよね?」
「えっ!? わ、私は……」
「好きなんだよね?」
「は……はい……」

また誘爆されてるし。
楓って結構流されやすいタイプなのか?

「じゃあ、皆で稟君のお嫁さんになろう!」
「皆……で?」
「あ、あの。普通はなれないんじゃ?」

なんか、返ってくる答えが予想できるのだが。

「それはまったく問題ないよ。神界は一夫多妻制だから」
「そうそう。俺なんか、妻は3人いるぞ」
「あぁ、そうですか……」

さっき常識を捨てようと決意したばかりなのに。
それにしても、なんで楓もこんなに誘爆するんだろうか?
自分の事だからか?



あの後、『親子の杯を交わそう!』とか『祝言だ!』とか言って無理矢理酒を飲
まされた。
つまりは、ほとんど寝てないのだ。
楓にも『大丈夫ですか?』とか聞かれたが、まぁ、なるようにしかならん。
学校をサボる訳にもいかないのでそろそろ家を出ることにする。
すると、シアがタイミングを計ったかのように隣から出てきた。

「ふぁぁぁぁ〜……」
「稟くん、おはよう!」
「おう、シア。おはよう。元気だな、昨日あれだけ飲んだのに」
「まぁ、あれくらいはお父さんの付き合わされていつも一緒に飲んでたから」

おいおい、未成年に酒を飲ませていいのか、王様。

「それに、お父さんがね」
「ん?」
「『稟殿を押し倒すには稟殿より酒に強くなくちゃいけねぇ』って言われたから」

その発言に俺はズッコケそうになる。

「いや、ちょっと待て!」
「?」
「お、押し倒すって?」

自分の娘になに教えているんですか、あのおっさんは!?
純真な娘を変な道に誘い込むなよ。

「何か間違ってるかな?」
「結構、間違ってると思いますよ……」
「そうだよな、楓。俺達が間違ってるわけじゃないよな?」
「ええ、多分……」

多分ってなんだ?
それは神王のおじさんだからあながち間違いじゃないとでも言いたいのか?

「う〜ん……おかしいなぁ。お父さんが『稟殿はああ見えて奥手みたいだから、
 夫婦の営みをするにはこっちから押し倒さないとだめかもしれない』って言って
 たのに」
「ふ、夫婦の営み!?」

これまたあっさりと爆弾を投げるな、このお嬢さんは。
ちょうど爆弾を投げられて固まっていると、反対側のお隣からネリネが出てきた。

「稟様、皆さん、おはようございます。……どうかなさいました?」
「え、え〜っと……」
「稟くんとね、夫婦の営みについて話してたの」
「……え?」

爆弾の連投。
シア、なかなか高度な技をお持ちで。
いや、そうじゃなくて。

「シア、間を端折りすぎだ。それじゃあ、誤解しか生み出されんぞ?」
「シアちゃんと、稟様が……夫婦?」
「り、稟君……」

ああ、案の定誤解してるよ。この二人。
っていうか、楓はさっきまで話を聞いていただろう。
なんで誤解する?

「リンちゃん、カエちゃん。心配しなくても大丈夫だよ。なんと言っても、神界
 は一夫多妻制だから」
「はっ! そ、そうでしたね。私も稟様の妻になれるのですよね」
「稟くんの……お嫁さん……」
「だぁぁぁっ! も、もう爆弾投げるのやめてくれ!」

俺は逃げるように学校へ向って走って行った。
学校に着くと、樹から早々に3大プリンセスの親衛隊が出来たことを告げられた。
麻弓曰く、俺は神にも魔王に凡人にもなれる男らしい。



それからほんの数日後。
魔界からやってきた人工生命体、プリムラに会った。
彼女の希望もあり、プリムラは俺達の家で暮らす事になった。
その翌日、学校でまたしても、しかも朝っぱらから事件が起きた。

「稟くん、稟くん。リムちゃん来たんだって?」
「なんだ、シアも知ってるのか?」
「もちろん。これでも神王様の娘ですから」
「土見ラバーズの皆さん、お知り合い?」
「なんだその呼び方は……」
「土見君の恋人達。間違ってないでしょ?」

言うに事欠いてなんてことを言うか、こいつは。

「激しく間違って……」
「きゃー♪ リンちゃんリンちゃん、恋人達だって、恋人達! いい響きだよ
 ねー」
「……はい。そう呼んでいただけるだけで、心臓が早まるのを感じます」
「……ぽー……」
「……」
「何か言いたい事は?」

否定しない辺り、この3人だよな。
俺の手には負えん。

「でも、私としては……」
「ん?」
「稟くんの新妻たちの方がいいな♪」
「……」
「……」

今の言葉はどれだけの威力を秘めているのだろうか?

「土見君……」
「……なんだ?」
「妻って、英語でなんて言ったけ?」
「まぁ、妻はwife(ワイフ)、でも、この場合複数になるから、wives(ワイヴス)
 になるな」

さすがは樹。
早い回答だな。
いや、そうじゃなくて、冷静にそんなこといってる場合か?

「なるほど、それでは改めて……。土見ワイヴスの皆さん、お知り合い?」
「言い換えんでも良い」
「きゃー♪ 妻達だって、妻達! やっぱりこっちの方がいいよねー♪」
「……は、はい。更に心臓が早まるのを感じます」
「…………」
「わぁー! 楓! 顔を赤くしたまま気絶しないでよー!」
「……」

爆発、そして誘爆。
この3人を一箇所に集めるのは危険すぎやしませんか?

「稟、何か言っておきたい事は?」
「……好きにしてくれ」

幸せという字は辛いという字によく似ている。
周りからの殺気が痛い。

「う〜ん……そうなると……やっぱり!」
「どうしたの、シアちゃん?」
「稟くん」
「ん?」
「今すぐ結婚しよっか!」
「な……」
「なにぃぃぃぃぃーーーーーーーーっっっっ!!!?」

シアはとっておきと言わんばかりに超特大の爆弾をご丁寧に放り投げてくれた。
全ての窓ガラスが割れて吹き飛んだとしても納得できるような大合唱が、学園
全体を覆った。
って言うか、本当に何枚か割れてるし。

「リンちゃんとカエちゃんも一緒にね。そうしたら、名前の通りになるからね♪」
「いや、なるからね、じゃなくて……」

この方は一体何を考えているのだろうか?
それにしても、なんか首のあたりがチリチリ痛いな。
そーっと、後ろを振り向いてみる。
そしたら、案の定、皆様が俺に向けて殺気を一斉射撃していらっしゃる。

「り、稟様と……結婚……」
「……ぽー……ふぅ……」
「だから楓! しっかりしなさい!」

シア、お前は一体、どれだけ爆弾を隠し持っているんだ?
頼むからもう爆弾は投げないでくれよ。

「土見! 貴様っ!」
「見損なったぞ!」
「3大プリンセスを全員モノにするとは!」
「最低だぞ!」

ぴくっ!

「今の発言、明らかに稟様を侮辱する言葉」

あ、やばい。
ネリネにスイッチ入ったか?
俺はもう知らんぞ。
シアの爆弾連投で俺にはもう、ネリネを止めるだけの気力はない。

「稟様を侮辱した方は前に。クラスメートの慈悲として、苦しむ間もない内に蒸
 発させてあげますよ?」
「リ、リンちゃんが……キレた?」

さすがにネリネのこんな姿を誰も予想していなかったのだろう。
全員固まっている。
蛇に睨まれた蛙、メデューサの呪縛。
魔界のプリンセスとしての貫禄だな。
ネリネ自信、特大の爆弾だな。
ものの例えではなくて爆弾そのもの。
そして、スイッチは俺を侮辱するような事。
クラスの全員はそれを知らなかったからあっさりと地雷ゾーンに踏み込んでしま
った。

「麻弓」
「な、なに?」
「スクープだ。撮りたいなら好きなだけ撮れ」

その日、教室は無残な姿へと変貌した。



更にそれから数日後。
またしても教室で事件は起こった。
麻弓がファーストキスについて楓に聞いてきた。
なんでも、隣のクラスの友達と少し議論になったらしい。
楓は当然、俺以外の男に振り向く事もなかったので経験なし。
次のネリネもないらしい。
しかし、俺は知っている。
キスの経験がある少女を。
今は教室にいないから安心……。

「あれ? みんな何話してるの? なーんか、クラスの雰囲気が怖いけど」

って、戻ってきやがったー!?

「キスって、どんな味なのかなって。このクラスはどうにも清純奥手派だらけの
 ようでして、誰も知らないのですよ」
「キスの経験? 私あるけど」

あぁ、またしても爆弾投入。
しかし、これはまだ手榴弾くらいの威力である事に、俺はまだ気付いていない。

「へぇー、シアちゃんあるんだ。結構いが……。……」
「なんだってえええええーーーーーーーーーーっっっ!」

いつぞやの再現だ。
これはまずいな。
シアが真実を口走る前に逃げる算段を……。

「8年前に、この街で、稟くんと」

そんな余裕はどこにあるんだろうか?
出来ればもう少し余裕くれても……。

「あの後の稟くん、激しかったな♪」
「「「「!!??」」」」

今度はダイナマイトですか?
いや、そうじゃなくて、俺、あの後何かしたか?

「私が待って、って言ってるのにどんどん進んでいくんだもん」
「シ、シア? な、なにを?」
「稟君が言ったのにね。一緒にイこうねって」
「一緒にイくだとぉぉぉっ!?」

今度はなんだろう?
ミサイル?

「一度だけ止まってくれたけど、すぐにまた……。あの後私必死になって……」
「土見君、8年前に何やったの?」
「お、俺は無実だ!」

それに俺ですら知らない事を口走っているんだぞ?
俺が知りたいくらいだ。

「ま、まぁ、若い時は一緒にイけないときもありますよ……」
「そういう問題じゃないでしょ! って言うより、リンちゃん、教科書逆さまだ
 よ?」
「え……あ、あの……これは……」
「楓ちゃん、大丈夫かい!?」
「え? わぁっ! 楓、気をしっかり持って!」

すでにミサイルのレベルを超えてるな。
核兵器に一気にランクアップか?

「つーちーみー!」

いや、皆さんが怒る理由もわかります。
しかし、本当に俺は何も知らないんだ!

「貴様! 見境がないにもほどがあるぞ!」

ぴくっ!

「お前は最低だ!」

ぴくぴくっ!

「お前のような奴は生かしておけん! 今すぐこの場で制裁を!」

ぷつん!

「ん? 何の音?」
「え?」

目を向けた先にいたのはネリネ。
ネリネは至上の笑顔をしているが、俺はそれに恐怖を覚えた。
そう、今回は完全にリミッターまで外れてしまったようだ。
こうなると俺ですら手がつけられん。

「稟様を侮辱しましたね?」
「え、い、いや……俺達は……」

逆上して以前の惨劇を忘れていたようだ。
地雷を踏むのではなく、不発の核兵器を気にせずどかどか叩くようなものだった。

「そうでしたね。侮辱ではありませんね。稟様に危害を加えようとしていたので
 すよね」
「ネ、ネリネ?」
「稟様、楓さん、シアちゃん、麻弓さん。危ないですから教室から出ていただけ
 ますか?」
「リ、リンちゃん……怖いよ?」

ズドォォォン!

ネリネの放った魔力は教室の窓側の壁を完全の消滅させていた。

「……」
「つ、土見君……出よっか?」
「だな」

俺達はネリネに言われた通りに教室から出た。
その直後、教室の中から爆発音や救いを求める悲痛な叫びが聞こえてきた。



この騒ぎの後、シアにさっきの話のことを聞いてみると、

「キスの後、ゲームセンターでスクロール系の二人で進んでいく格闘ゲームをや
 ったでしょ? さっきのはその話」

らしい。
シアには後で言っておこう。
過激な発言は控えてくれと。
だが、実際は無自覚であったためになくなることはなかった。
シアに近づくのが怖くなった。

                                            Fin.


またまた震天さんからいただいてしまいました〜。
……あう。震天さん書くの早いです。(汗
私なんて、次のヤツの構想にすら入ってませんに……。

シアSS〜です。
む。私がシア好きなのを読んでのことでしょうか!?(ぉ
シアの魅力は無邪気な天真爛漫さだと思うのですが……
や、確かにこの言動は参っちゃいますね。
「ラバーズ」では飽きたらず、「ワイブズ」を求めるあたり……可愛いのですが空恐ろしいです。(笑

まあでも、この爆弾は稟くんの自業自得です。
なんてたって、3人もプリンセスを独り占めしてるのですからっ!!!!!
いいぞ、シア。もっとやれーっ!!
……嫉妬めらめら。(マテヤ

ありがとうございました〜♪

Comment by けもりん


……ところで……スクロール系の二人で進む格ゲーでダブルドラゴンが思いつくのは……
じぇねれーしょんぎゃっぷ感じた方が良いでしょうか?(苦笑


無断転載厳禁です。
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