SHUFFLE! SS

  チョコレートSHUFFLE! 〜 リシアンサス 〜

                    震天 さん



「バレンタインデー? なにそれ?」

私には妹がいます。
存在を否定されてたけど、稟くんから名前を貰った私の妹。
たまに私と入れ替わったりしてるけど、それに気付く人はほとんどいません。
それで、学校についてリンちゃんと一緒に廊下で麻弓ちゃんの話を聞いていたと
ころ、かってに出て来ちゃったんだよね。

「あの、バレンタインデーというのは具体的にはなにをする日なのですか?」
「簡単な事よ。好きな人にチョコを送って自分の気持ちを伝える日。人間界じゃ
 万国共通の常識よ」

そんなに有名なイベントだったんだ……。
しかも、内容だけ聞くと私たちにとってはとてつもなく重要な日じゃないかな。

「でも、なんで私たちに教えてくれたの? 私たちなら、多分お父さん達が……」
「シアちゃん。今どこに通ってるかわかってる?」
「え? バーベナ学園でしょ?」
「そう! 世に名だたるバーベナ学園よ! 普通なら違法なような事も許されち
 ゃうような学園よ! そんな一大イベントで、うちの生徒が黙ってるわけないで
 しょ?」

そういえば、この学園、イベントがある事にお祭り騒ぎがあったような……。

「だから、交換条件でバレンタインデーにおこるであろう戦争を教えてあげよう
 かと」
「せ、戦争……?」
「二人のチョコを渡す相手は当然土見君でしょ? 学園の生徒半分を敵に回して
 いる。去年はそれで大戦争が起こったからね……」

あの麻弓ちゃんがげんなりしてる……。
そんなにすごいんだ、バレンタインデーの戦争って。

「で、交換条件って?」
「実は私もチョコを作りたいのですよ。でも、私お菓子作りは得意じゃないのよね」
「でも、お菓子は私も得意じゃないよ?」
「私はお料理自体ダメなので……」
「だから、おねだりするなら人数が多いほうが成功率高いと思わない?」
「「はい?」」



「と、言うわけで、どうかご教授ください、時雨先輩!」

お昼休みになって、楓ちゃんとリムちゃんも誘って3年の時雨先輩達の元へおね
だりに行きました。
もちろん、チョコ作りを教えてもらうために。

「料理部の双璧たる時雨先輩とカレハ先輩なら、チョコ作りもお手の物かと」
「確かに、亜沙ちゃんはお菓子作りが得意ですものね」
「ボクは別に良いけど……ただで教えるわけにはいかないわよね〜?」
「どうすれば教えてくれるんですか、亜沙先輩」
「麻弓ちゃん、なにか取って置きはないの?」
「うっ! まさか、私の秘蔵ネタの存在が知られているとは……」
「「「「「???」」」」」
「それを今ここで公表してくれたら、教えても良いわよ♪」

何のことかよくわからないけど、そっちには私も興味ある。

「うぅ〜……わかりました! わかりましたよ……とほほ。これは高く売れそう
 だから一般ルートには出したくないのに……。これが土見君の取って置き丸秘写
 真だぁー!」

机に叩きつけるように一枚の写真を出した。
私たちが興味津々でその写真を覗き込むと……。

「うわっ♪ これは……」
「す、すごい……」
「まままあ♪」
「これが、稟様の……」
「稟君……」
「大きい……」

見るなり皆が顔を赤くして見つめていました。
なにが写っていたかは秘密です。
なんせ丸秘なんで♪

「こほん! ま、これだけいいもの見せてくれたんだし、教えてあげる」

こうして、バレンタインデー前日に時雨先輩のチョコ作り教室が開かれる事が決
定、今日は解散する事になりました。



で、その日帰ってからお風呂場でのこと。

「楽しみだなぁ、バレンタインデー。稟君喜んでくれるかな?」
「稟なら喜んでくれるわよ。シアは心配性ね」

鏡に映っている私が現実の私に話し掛ける。
でも、鏡に映っているのは私じゃないの。
これは魔法の一種で、鏡に写っているのは本来私が会う事ができない妹、キキョ
ウちゃん。
この方法ならいちいち代わらなくても話す事ができる。
一応、お父さんたちには内緒だけど。

「でも、私チョコ作った事ないんだよ?」
「あたしだってないわよ。でも、稟は気持ちのこもってるものなら何でも喜んで
 くれるわよ」
「だから、余計に上手に作りたいんだよ。稟君には純粋に喜んで欲しいから」
「まぁ、確かに、稟は人のために嘘つくことがあるからね。良いんじゃない、そ
 ういうのも。あたしは好きよ」
「じゃあ、キキョウちゃんも頑張って作るんだよね?」
「まぁね。でも、それじゃあ私たちだけ二人分作る事になるのよね……」
「いいの、いいの。身体は一つしかなくても、気持ちは別々だし」
「そうね。それじゃ、どっちのチョコが美味しいか稟に聞いてみよっか?」
「負けないもん!」

なんだかチョコ勝負する事になったけど、美味しいチョコを作るぞ!



「ボクとしては、皆の希望に合わせて教えていこうと思うんだ」

チョコ作り教室では時雨先輩が私たちの作りたいものを尊重してそれに合わせて
作り方を教えてくれるそうです。
その中で自分も作っちゃうからすごいよね。

「……で、シアちゃんは二つ作るんだよね? なんで?」
「え、えっと……」

とりあえず、稟君のことを好きな人たちばっかりだからなるべくわかりやすく説
明していく。
皆驚いていたけど、すぐに納得してキキョウちゃんを受け入れてくれた。
それから皆チョコ作りを開始しました。
それぞれに完成させて、明日の決戦に向けて早めに寝る事にしました。



2月14日、バレンタインデー当日。

「いよいよ来たね、バレンタインデー」
「麻弓によると戦争が起きるようだし、早く渡しちゃおう。今から出れば稟と一
 緒に登校できるんじゃない?」
「そうだね」

と、勢いこんで家を出てみても、稟くんは日直で先に行ってしまったようです。
リンちゃん、楓ちゃん、リムちゃんと一緒に学校へ向う事になりました。

「ねぇ、楓ちゃん。去年はどうだったの?」
「どう、といいますと?」
「戦争があったって聞いたから。どんな感じだったのかと思って」
「そ、それは、その……とにかく、すごかったんです……」
「今年も予想されそう?」
「麻弓ちゃんによると、去年よりひどくなりそうとのことです」
「そんな中でチョコを渡さないといけないって事か」
「大変そうです」

それより、どんな風に酷かったんだろ?
ちゃんと渡せるかな、チョコレート。



学校に着くと、麻弓ちゃんが言っていた戦争の正体がわかった。
チョコを渡す事自体はさほど難しい事ではなかったのです。
問題はその後でした。

「はい、稟くん。これ、私からのバレンタインチョコ♪」
「で、こっちがあたしからのチョコ。ありがたく受け取りなさい」
「稟君、これは私からです。これからも、いっぱいお世話させてくださいね」
「稟さま、あの、あまり上手にはできなかったと思いますが、私の気持ちです。
 受け取ってください!」
「稟……これ……」
「稟ちゃん。ボクの自信作、よぉく味わって食べてね♪」
「私のはまだ義理チョコですが、これからもよろしくお願いします」
「ありがとう、皆。味わって……食べたいところだけど、そのためにはまず逃げ
 切らないといけないんだ……」
「「「?」」」

稟くんはじりじりと教室の出口へ向う。
それと同時に、教室内でもなんだか動きが……。
次の瞬間、教室の男の子達が稟君めがけて走り出し、稟くんはそれを確認すると
教室から物凄い勢いで出ていっちゃった。

「な、何が起こったのですか?」
「プリンセス達+料理部の双璧+リムちゃんのチョコを強奪しようとする男子達よ。
 去年は見事に楓たちのチョコを守り抜いたけど、今年はすごい事になるわよ〜。
 なんと言っても、4大親衛隊も加わってるんだもん。大混戦必死よ」

麻弓ちゃんが呆れるように言ってるけど、それって私たちにとってすごく大問題
のような気が……。

「あの、私たちが稟様を守れば……」
「そうだね。リンちゃん、行こ!」



麻弓ちゃんが言っていた大混戦は想像を越えていました。
魔法を放つのは当たり前だけど、武器がどこからともなく飛んでくるし、幻覚か
も知れないけど、お父さんとおじさんがいたような気が……。
とにかく、その戦争は放課後も続き、稟くんがお家に着くまで続きました。
その戦争のなか、麻弓ちゃんは用意したチョコを誰の目にも触れないようにこっ
そりと稟君と緑葉君の鞄の中に入れていたようです。

「またネタよろしく〜♪」

と言うメッセージと共に。
何はともあれ、稟くんは私たちのチョコを死守してくれました。
夕食後、皆集まって稟君の感想を待つことにしました。

「今日はどっと疲れた……」
「お疲れ様です、稟くん」
「稟ちゃん。そういうときはチョコレートのように甘い物を食べると良いわよ」
「そうですね。それじゃあ、早速食べさせてもらいます。まずは……でかいな」
「それ、私……」

リムちゃんのチョコは稟君の顔と同じくらい大きなチョコで、白玉と黒玉をかた
どったチョコでした。
白玉はホワイトチョコを、黒玉はビターチョコで作られていました。
楓ちゃんのは稟君の好みに合わせたシンプルなハート型のチョコ。
時雨先輩はチョコレートのムースケーキ。
カレハ先輩はエクレアを。
リンちゃんはチョコアーモンド。
そして、私はチョコレートケーキ、キキョウちゃんはガナッシュチョコ。

「皆美味かったよ。でも、さすがにこれだけチョコ食べると鼻血が出そうだ」
「ねぇ、稟。シアとあたしのチョコ、どっちが美味しかった?」
「え? そんなの決められるわけないだろ? 皆チョコにたくさん気持ちを込め
 てくれたんだ。それに上下をつけることができるわけないだろ?」
「……そっか。稟ならやっぱりそういうよね」

それから皆で少しゲームを少ししてみんな帰っていくことになりました。

「あ、そうだ。稟君」
「ん?」
「これからも、姉妹共々よろしくお願いします♪」
「あぁ。こちらこそよろしく」

なんだか大変だったけど、稟君に喜んでもらえてよかった。
来年はもっと美味しいチョコを作れるように頑張ろうね、キキョウちゃん。



……ば、ばれんたいんっておいしいんでしょうか?
いつもながらに、ひがみたっぷりのコメントです。(笑

そういえば、キキョウの料理手腕はどうなのでしょう。
シアは上手いということになっていましたが……。
でもまあ、要は愛情が全てなので問題ないですね。
特にバレンタインのチョコレートに関しては。

なぜか混じっているお父様方が絶妙でした。(笑

<<Comment by けもりん>>


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