大激白! 愛と偏見のお嬢様 〜 陸奥 笑穂 〜
震天 さん
新学期、俺は2年生になった。
去年から戻ってきた美紀は今年は同じクラス。
クラス替え早々、知った顔があるのは嬉しい事だ。
まぁ、他の男子は違う意味で嬉しそうだ。
うちのクラスには、そう、あの陸奥笑穂がいるのだ。
喜ばない男子はいないだろう、俺を除いて。
「おうおう、浮かれまくってるわね、うちの男子」
「仕方ないって言えば仕方ないんじゃないか? マドンナ、って言われてる女
子と同じクラスなんだし」
「その割りには、涼君は落ち着いてるじゃない。やっぱり、可愛い可愛い鐘ちゃ
んと一つ屋根の下だもんね〜。美人は見慣れてるか」
「その言い方はやめろ」
眠たい始業式が終わり、俺達は教室へ戻るところだ。
始業式のとき、今年入学の明鐘と目が合い、あいつが照れた顔をすると、明鐘の周り
の女子がざわついていたな。
今頃は質問攻めだな。
「はぁ〜。それにしても、気が重いわ」
「何がだ?」
「去年忘れた? 私達、出席番号が後ろのほうよ? 最初は面倒な委員会とか
押し付けられるんだから」
そういえばそうだった。
去年、俺は男子の出席番号が一番後ろだったから文化委員なんぞを押し付けられた。
ま、最初だけだったが、これがしばらく続くんだよなぁ……。
「とにかく、お互いガンバろ。同じクラスなんだし」
「そうだな」
教室に戻り、ホームルームの時、クラスの生徒の名前なんかが書かれたプリントを貰っ
た。
案の定、俺の名前の横には新学期早々、仕事が押し付けられていた。
「体育祭実行委員……これって確か、6月の体育祭が終わるまで続けさせられ
るんだよな……」
よりにもよって一番面倒なものを……。
そういえば、女子のほうの実行委員は誰だ?
「えぇと……あった。陸奥笑穂? あの陸奥か?」
教室をざっと見回してみる。
すると、すぐに見つかった。
結構目立つしな。
「……後で挨拶くらいしておくか」
でも、あぁいうお嬢様然としている奴は決まって、高飛車だったり傲慢だったりするんだ
よな……。
俺、そういうの嫌いなんだけど……。
で、休憩時間。
当初の予定通り、あの陸奥に挨拶する事にした。
変な偏見を抱いていた俺が予想していた返事とは全く違っていたので、拍子抜けする
事になるが。
「陸奥笑穂だな?」
「? 他人の名前を聞くのに、自分から名乗らないのは感心しないな」
「悪かったな。俺は水原涼。今学期、お前と同じ体育祭実行委員会を押し付け
られた相方だ」
「あぁ。何だ、それで声をかけてきたのか。それは済まなかった。では、改めて
名乗らせてもらう、陸奥笑穂だ。よろしく」
「……よ、よろしく」
「? どうした? 挨拶してきたのは水原が先じゃないか。気の抜けた返事をす
るな」
「あ、あぁ。悪い。ちょっとイメージとずれてたから、拍子抜けして」
まず、言葉遣いが全然お嬢様じゃない。
それとまだ把握してるわけじゃないが、性格は俺や美紀に近いものがありそうだ。
こいつ、見た目はお嬢様だけど、お嬢様じゃないのか?
「考えてる事が顔に出てるぞ?」
「ほう? もし本当にわかったら、エスパーだな」
「こいつ、変わってるなぁ。……どうだ?」
「フッ、甘いな。△だ」
「そうか……。良い線をついたと思ったのに……」
「見た目はいいのにな、がつかないとダメだ」
「そうやってさらりとお世辞が言えるとは。ナンパ師か?」
そんなレッテルを貼るな。
「まぁ、最悪、一学期は協力せねばならん。よろしく頼むよ」
それが、陸奥笑穂と初めて会話を交わした瞬間だった。
それからしばらくして、体育祭が近づいてきたある日。
「全く、面倒なものを押し付けられたものだ」
「そうだな。プログラムの作成を今日明日で仕上げろ、なんて無茶な話だと思
うが」
過去のプログラムを参照に、実行委員が次の準備をしやすいプログラムを組んでくれ、
なんて言ってきやがった。
大体、そんなものは結局、動く人間の頑張り次第じゃないか!
「ま、文句を言っていても仕方ない。とにかく、土台を仕上げなければいけな
いし……」
「いつまでも学校にいるわけにもいかないしな……」
「なんなら、家にくるか? 学校ほどではないにしても、家もそこそこ広いほう
だ。水原が来ても何の問題もない」
「そうか? んじゃ、お邪魔しようかな。あ、その前に……」
明鐘の携帯にメールを入れておく。
後、ハルにも連絡いれて、シフトをずらしてもらわないと……。
笑穂の家まで来て、俺は唖然とした。
「……でけぇ……」
「なに人の家を見て口を開けている? 変な奴に見えるから、とりあえず上がっ
てくれ」
笑穂に言われるまま家に上がる。
外見にふさわしく、中もまた豪華だ。
見た目と事実上、本当にお嬢様だったんだな。
「着替えてくる。その辺でくつろいでいてくれ」
笑穂は階段を上がって自分の部屋へ向っていった。
「うわぁ、こんな広いところを独り占め気分♪ お言葉に甘えてくつ……ろげる
かっ!?」
自慢じゃないが、俺は未だかつて、こんな広い部屋に置き去りにされた事は無い。
高そうな壷がおかれていたり、画が飾られていたり。
俺みたいな貧乏人が歩き回って何か弁償するような事になったら……。
「……へこむから考えるのはやめよう……」
それにしても、何気なく友達付き合いしていた笑穂だけど、お嬢様なんだよな。
しかも、それを鼻につけるようなこともしていない。
それでいて性格はさっぱりしている。
……変わった人間が俺の周りにはよく集まるな。
「待たせたな」
「遅いぞ、お嬢」
2階から降りてきたお嬢はフレアスカートにセーターと言う、明鐘と似たような格好で
やってきた。
それを見ると、やっぱり親近感がある。
「なぁ、水原。その、『お嬢』って言うのは何だ?」
「貧乏人のひがみだ」
「……やっぱり、お前も見方が変わるのか?」
「なにが?」
「私が、その……こんなお嬢様だと……」
「それでも、お嬢はお嬢だろ? 俺の知ってる陸奥笑穂は俺と気が合う友達だ。
それがどうかしたか?」
「……本気で言っているのか?」
「嘘をいう必要がどこにあるんだ? それより、さっさと終わらせようぜ」
「あぁ!」
「今思えば、あの時が初恋だったのかも知れんな」
「……お嬢、そんな昔話、なんで今になって……」
俺とお嬢が本格的に付き合い始め、新学期が始まる直前、俺とお嬢は遊園地でデー
トにきていた。
べただとは自分でも思うが、最後に観覧車に乗り、頂上が近づいてきた時に、お嬢が
今の話を始めた。
「それから更にしばらくしてからだったな。益田さんが来て、お前に私の縁談
話をして。そうそう、あれは本当に目眩がしたぞ!」
「俺がお嬢に付き合ってくれ、って言ったやつか?」
「なんだろうな。あの時は衝撃を受けたと同時に、なにか別の感情があった。
嬉しかったのかもしれないな。それから実際付き合ってみて、お前の言いた
い事、私の本当の気持ち、お前の大切さ。すべてに気付いた」
「……恥かしいから、そろそろこの話は終わりにしないか?」
「そうだな。じゃあ、これで終わりだ」
観覧車が一番下に近づき、降りようとした俺に、お嬢はそっと唇を重ねてきた。
一瞬、本当に一瞬だった。
「これからもよろしく頼むぞ、水原」
Fin.
お嬢様は……高飛車の方が好き。(ぇ
絵柄を知らないのですが、笑穂は青色のイメージを持ってます。
キリリと引き締まって、凛としてそうです。
しかもちとぶっきらぼう。
そういう娘さんは……お嬢様でなくともOKっ!(ぉ
駆け落ち同然に連れ出すのが正しい姿かと。(笑
Comment by けもりん
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