あるドキドキな1日 〜 キキョウ 〜
震天 さん
俺の手は既に汗でびっしょりだ。
こんなにも緊張するとは思ってなかった。
本で少し見たくらいの知識しかない。
「……(ゴクリ)」
息を呑む。
「……稟……」
キキョウが怯えた表情で俺を見る。
と言っても、部屋が暗くて表情は良く見えない。
「……良し!」
俺はどうにか覚悟を決める。
据え膳食わぬはなんとやら。
ここまで来たんだ。
後には退けないだろう。
「いくぞ……」
「うん……」
キキョウもどうやら覚悟を決めたようだ。
お互い初めてなのだ。
どうしても力が入る。
だが、俺は意を決し、禁断の場所へ手を伸ばす……。
はいは〜い!
ここからは稟に代わり、裏シアこと、このキキョウちゃんがストーリーを進めて
行くね。
えーっと、まずは時間を遡って、今朝、学校にいくときから。
「稟!」
「シア? ……じゃない、その呼び方はキキョウか」
おっ、さすがは稟。
日を重ねるごとに判断が早くなってるじゃない。
感心感心。
「あれ? 楓は一緒じゃないの?」
「楓なら、日直で先に行ったぞ?」
「そうなんだ」
う〜ん、学校の事に関してはシア並に知識はあるけど、日直のローテンションは
さすがに知らない。
「キキョウ、シアはどうしたんだ? いつもならお前、学校にいる間は引っ込ん
でるのに」
うぅ、痛いところを突いてくるなぁ、稟。
「まぁまぁ、今はちょっとだけ代わって貰ってるだけなんだから」
「……わざわざ代わって貰ってまで何を伝えたいんだ?」
「うん! 今日はちょっと、パーティをやろうと思って」
「パーティ?」
そのパーティが、最初の出だしに繋がるわけなのよ。
「それでね、結構盛大にやろうと思ってるわけ。だから、稟、楓とリム、その他
にも伝えて欲しいの」
「盛大に、ね。で、なにを伝えればいいんだ?」
う〜ん、あたしとしては内容をなるべく隠しておきたい。
だからと言って、詳しく説明すると出だしに繋がらないと、作者がうるさいだろ
うし……。
ここは、こういう世界ならではの説明方法をとらせて貰うとしましょう!
「うん。実は、かくかくしかじか、というわけなの」
「? まあ、詳しい事はわからないが、わかった」
良し!
これで突き通せるのがこの世界のいいところなんだよね。
「じゃあ、稟。あたしは後、ネリネと亜沙とカレハにあたってみるから、稟は他
をよろしく♪」
「あ、ああ……」
さて、これで後はメンツを揃えれば私は放課後まで引っ込んでよ。
再び、ストーリー進行を勤める土見稟です。
「……と、言うわけで集まってもらったわけだが」
「なになに? キキョウちゃんが企画してるパーティ、ってのは♪」
「ねぇ、土見君。これは呼ばないほうが良いんじゃない?」
麻弓、それには激しく同感だが、キキョウの言ったその他に入っているんだよ、
これも。
「まぁ、それに関してはノーコメントだ。それで、キキョウから預かった伝言を
そのまま伝える」
これまた、便利な世界で助かったよ。
「え〜っと、かくかくしかじか、だってさ」
「何やるつもりなんだろう、キキョウお姉ちゃん」
だが、これで伝わるというのも、おかしな世界だな。
「でもまぁ、せっかく呼ばれたんだ。大人しく、じゃない、ありがたく御呼ばれ
しようじゃないか」
はい、またまたキキョウちゃんでーす!
時間は一気に飛んで夕食時。
「さて、これで準備万端♪」
と言っても、ほとんどやる事無いんだけどね。
後は皆が来るのを待つだけ、か。
ああ、待つ立場になると時間の流れがこんなにも長く感じるなんて♪
ピンポーン!
「はいはーい!」
「……出てくるの早いよ」
それはそうよ!
玄関の前で待ってたんだから♪
「ささ、入って入って!」
「キキョウちゃん、俺様……」
「稟、いつまでも突っ立ってないで。ほら!」
「あ、ああ……」
なんか呼ばれたような気がしたけど……気にしない気にしない♪
「……」
「まぁ、土見ラバーズの皆さんは曲者ぞろいだから、緑葉君。悪いこと言わない
からやめておいたほうが良いわよ」
「いや、障害は大きいほうが燃えるってもんだよ!」
「……障害というより、相手にされてないって感じだよね、カレハ」
「そうですね♪」
「……」
「ん? 皆どうしたの?」
入り口で樹(だっけ?)が撃沈してる。
稟が言うには、あまり相手にしなくて良いって言ってたし、まぁいっか。
「よぉ、稟殿! 良く来たな!」
「待ってたよ、稟ちゃん!」
「……そうか、そうだったな」
稟、そこまで露骨に嫌がらなくても……。
「それより、そろそろ始めるから、皆座って」
「あ、ああ……だけど、このでかい鍋は?」
やっぱり気付くよね。
頭がいい人、勘の鋭い人ならもうそろそろ気付くと思う。
これが今回のパーティの目玉なんだよね。
「は〜い、電気消すよ!」
「は?」
ぱちっ!
「うわぁ、真っ暗ですね」
「しみじみ言う事じゃないぞ、楓」
カーテンも締め切って、電気も全部消しているからほとんど視界ゼロ。
これじゃあ、誰もここから逃げ出そうとしないよね。
「……キキョウちゃん。なんとなくボク、わかってきたんだけど、これって……
闇鍋?」
「ピンポーン! 正解でーす!」
出だしで18禁と期待した人、残念でしたー♪
困惑した人、ビックリした?
「じゃあ、皆。それぞれ用意したものを入れて」
一応魔法で鍋が見える程度の明かりをつける。
「……キキョウ」
「うん? 何、稟?」
「……後悔するなよ?」
稟がニヤリとする。
一瞬、背中に電気が走ったような、虫が背中に入ったような感覚に襲われた。
俗に言う、悪寒が……。
ドボン!
「……へ?」
なんか、やたら大きいものが落ちる音が……。
「……うっ!」
他の物が入るたびに、匂いがきつくなっていく。
もしかして、あたし、闇鍋を甘く見てた?
それなら、さっきの稟が言った後悔するな、発言に納得行くよ。
「……あの、誰から頂くんですか?」
「じゃあ、樹から」
「お、俺様から!? キキョウちゃん!?」
だって、この中で犠牲になっても良いのは樹、お父さん、魔王のおじさん、の3
人だもん。
その中でも、危険重要度が最高なのが樹だって話だし。
「食べてくれるよね? い・つ・き♪」
「!!!」
あれ?
ウインクしただけで樹の目の色が変わったような気配が?
「……キキョウ、樹の悪いほうのスイッチを入れるなよ」
「悪いほうの……スイッチ?」
何の事かよくわからないけど、なんとなく嫌な予感が……。
「男、緑葉樹! キキョウちゃんのために、闇鍋を食べてやる!」
「キキョウちゃんのためではないと思うよ、緑葉君」
麻弓は冷静なツッコミを入れるけど、聞こえてなさそう……。
「いただきまーす!」
ぱくっ!
「「「「おぉっ!」」」」
「……」
「「「「???」」」」
樹が一口、口に入れただけで動きが止まって、震え出した。
「樹?」
「我が人生に……一片の悔い……なし……」
ばたっ!
「……次、誰が食べる?」
麻弓、ナイススルー!
でも、こんな反応されたら、誰でも引くと……。
「私が食べる!」
「プ、プリムラ!? 気がおかしくなったのか!?」
あ、それはあたしも思った。
「おかしくなってないよ!」
「樹が倒れたのを見ただろう!? って言うより、樹は何を食べたんだ?」
それもそうだね。
倒れるほどの食材は入らないと思っていたのに……。
「……なんでしょう? このぶよぶよした物は?」
ぶ、ぶよぶよ!?
一体何が……?
「ああ、それは多分、私が持ってきたものだよ」
「な、なにを持ってきたの!?」
慌てて聞き返す。
「ん? これは魔界名物、食用スライムだよ」
「ス、スライム!?」
よ、よりによってスライム……あたしとシアが最も嫌いな物だ……。
「あ、あの……ネリネ、スライムって食えるのか?」
「中には、食べれるものもありますが、人族の方や神族の方には、口に合わない
かと……」
うぅ、そんなもの入れないでよ……。
「わかったか、プリムラ。こんなものが入ってるんだ。命は無駄にしてはいけな
い」
なんか、稟の言葉、重みがありすぎるような……。
「でも、スライムぐらいなんて事ないよ?」
「まぁ、リムは魔界生まれの魔界育ちだから、味覚は魔界よりだし……」
「そうそう、大丈夫♪」
そう言って、リムはなんの躊躇いも無く鍋に箸を入れて、なにかを掴んで食べる。
「ん? なんか……不思議な味が……ヒック!」
「……はい?」
何、今の?
「プリムラ、なんだったんだ?」
「さあ? わんかんらい」
「プリムラ?」
呂律が回ってない?
「なあに? おにいちゃ〜ん」
「……酔ってるぞ?」
なんで?
酔っ払う食材なんかあるの?
「あ、それ、ボクが入れたやつだ」
「何を入れたんですか、亜沙先輩?」
「ウイスキーボンボンに挑戦して、今日持って来たんだけど、入れちゃった♪」
……チョコが溶けずに残ってたの?
どんなチョコだったんだろう?
「次、俺が行ってみようかな」
お父さんも躊躇いなく、鍋の物を食べた。
暗いから何を掴んだかは感覚でしかわからないんだけど、少しは躊躇おうよ。
「ん? なかなか、噛み切れないな……なんだ、これ?」
「噛み切れない……それ、私かもしれませんわ」
噛み切れないようなものって何、カレハ?
「実は、今日の帰り、靴箱に手紙が入っていまして」
「それ、ラブレターじゃないの、カレハ?」
「はい。中を読みましたので、もうよろしいかと思いまして」
「まぁ、処分するつもりだったんなら良いじゃない?」
「よくないでしょ」
うん。
でも、どうすればいいのかもまた悩むところだけど。
「じゃあ、次はボクね」
なんか、皆あまり危機感持って無いみたい。
「ねぇ、稟」
「ん? なんだ?」
「なんで皆、普通に食べてるの?」
「それはだな……」
稟が倒れている樹を見て、酔っ払っているリムを見て、ラブレターと格闘してい
るお父さん(って言うより、食べる気?)を見て、今から食べようとしている亜沙
を見て、こういった。
「祭り好きと命知らずとマイペースなやつばっかりだからな」
これ以上に無い説明をありがとう、稟。
「よ〜し、時雨亜沙、いっきまーす!」
うぅ、闇鍋って面白いのか怖いのかわからなくなってきた。
「う……ん……これは、鶏肉、かな? でも、なんか香ばしいような……」
「香ばしい鶏肉? 楓、あれお前が持ってきたものじゃないのか?」
「みたいですね。今日、パーティをするという事だったので、ローストチキンを
作ってきたんです」
そのままで食べてみたかったなぁ……。
でも、鍋に調理済みのものを入れるのはどうかと……。
「それでは、亜沙ちゃんも食べましたので、私もいただきますわ」
カレハも全然躊躇しないね。
「では、いただきます」
うぅん、カレハにとっても苦手なスライムがまだ残ってるはずなのに、なんでそ
こまであっさりといけるのかな?
「……?」
「カレハ先輩?」
自分が何を食べてるのかわからない、って感じの表情だね。
「カレハ、なんだったの?」
「お餅、のようですわ」
「誰ですか、餅なんか入れたの」
「おお、それは俺だ」
そういえば、最近お餅にはまってて、大量に買い込んでいた様な気が……。
「まぁ、当たりのようですし」
「どうやら、はずれは私のスライムだけのようだね」
「カレハ先輩のラブレターもだと思いますけど……」
でも、まだ何人かの食材はわかってないのよね。
そういえば、あたし、なに入れたっけ?
「それでは、今度は私がいってみようかな?」
う〜ん、何だったかな……とにかく、まともなものは入れなかったはずだけど……。
「それじゃあ、いただくよ」
「あ、思い出した!」
ガキン!
「は? 何の音だ?」
「ああ、よりによって……」
思い出した瞬間にジョーカーを引くなんて……。
しかも、おじさんが……。
「キキョウちゃん、なに入れたの?」
「う……その、食材だったものを……」
「食材……だった、もの……ですか?」
実は、あたし料理をした事がなかったんだよね。
それで、シアに頼んで料理をさせてもらったら……。
「あの、ちなみに、なんだったんですか?」
「ギョ、ギョーザを作ろうとして……」
「ギョーザ……それがどうやったらあんな音が出る炭になるんだよ」
「だって、中華は火加減が命なんでしょ!?」
だから思い切って、私が出せる最大火力を……。
「「「…………」」」
あ、あれ?
楓と料理部のダブルエースが哀れむような目であたしを見てるんだけど?
「あの、違うのですか?」
あたしの代わりにネリネが聞いてくれた。
「つまり、火加減の調整に失敗したわけだ」
「最初は、そういうことありますよ」
「次はきっとうまくいきますわ」
これは、気を使って遠回しにフォローを入れてくれてるのね。
うーん、料理って難しいね。
「さて、後食べてないのは、俺と楓とネリネとシアorキキョウと麻弓だけか?」
「そうみたいね」
「では、次は私がいかせて貰います」
ネリネも大胆だね。
後当たってない人の食材は……。
稟、ネリネ、プリムラ、麻弓、あとは……最初に倒れた樹のか。
「えーっと……」
残っているのは当たりだけならありがたいんだけどなぁ……。
多分、それはないよね。
だって、まともな事やりそうにない人たちのしか残ってないもんね。
「これにしましょう」
何を掴んだかはわからないけど、なんだか嫌な予感が……。
「……? 味がありませんが?」
「味が……ない?」
なにかな?
味がしないもの……。
「あ、それ私〜!」
「リムちゃん、なにを入れたんですか?」
「ん? えーっと、この家の裏にあった菜園からちょっと拝借」
「うちの菜園? うちにはそんなものないぞ?」
うん。
それは私もシアも知らないし。
「……おい、まさか!」
「お、お父さん……?」
なんだかすごく焦った感じで出て行っちゃったけど?
だけど、すぐに戻ってきた。
その手に何かを持って。
「はぁ、はぁ。プリムラ、おめえが入れたのは……これか?」
そう言って持ち上げたのは大根のようなニンジンのような……。
「なんなんですか、それ?」
「これは……」
ばたっ!
お父さんが言う前にネリネが倒れちゃった。
「って、倒れたー!?」
「ネリネ、大丈夫か!?」
「あの、神王様。それは?」
「これは……マンドレイクだ」
「マン……ドレイク!?」
それ引っこ抜いた時に叫び声を聞くと不幸になるって言う毒草じゃないの!?
ネリネ大丈夫なの!?
その前に、お父さんもリムも叫び声聞いちゃったんじゃ……?
「まぁ、ネリッ子は魔族だから毒に対しては強い耐性があるから大丈夫だとは思
うが……」
「そんな事言ってないで早く治療してくださいよ!」
「待ってください!」
カレハがなぜか止める。
そして、お父さんに耳打ちをするとネリネを連れて部屋から出て行った。
「どうしたの?」
「亜沙先輩の前で魔法を使わないようにしたんだろ」
そういえば、亜沙は極端な魔法嫌いだったね。
それを考えての気配りか。
でも、人命がかかってるんだから少しは我慢しても良いんじゃない?
「残るは……4人」
「稟君。次は私が行きます」
「楓?」
「少しでも稟君にはずれの食材が当たらないようにしたいですから」
「さすが、土見君に対しては完璧な気配りです事」
それは確かに感心するよ。
あたしもそれくらい気配り上手になれたらなぁ……。
でも、残ってる食材、はずればかりのような気もするんだけど……。
特に、麻弓と樹の食材はトランプで言うとジョーカーだね。
「ちなみに、稟。稟は何を入れたの?」
「俺か? 俺のは……はずれ、に入るのかな?」
なんでそこで疑問に思うの?
自分で入れた食材でしょ?
「まぁ、楓に当たったらはずれだな。確実に」
「?」
「実は……」
「うっ!」
今の声……楓?
「楓? どうしたの?」
「あ、あの……お手洗い、借りてもいいでしょうか?」
なんだか声がすごく震えているんだけど……大丈夫なのかな?
「う、うん……良いけど……何が当たったの?」
「そ、それは……し、失礼します!」
よっぽど苦しいみたい。
答えれる余裕もなかったみたい。
「……土見君。なに入れたの?」
さっきの話の流れからいって、楓が当てたのは間違いなく稟の食材だね。
でも、楓があそこまで拒否反応を示すものって?
「えーっと……納豆だ」
「……はぁ?」
麻弓が気の抜けた声を出す。
かくいうあたしも心の中じゃ同じ反応だったりするんだけど。
「楓の奴、子供の頃から納豆だけが唯一苦手な食べ物でな。一粒でも食べるとあ
あなる」
「それはまた難儀な事だな。俺なんか、毎日でも食うぞ?」
「おじさんは基本的に雑食ですから」
「照れるぜ、稟殿よ?」
誉められてない事に気付いてない?
って言うか、楓、納豆なんてよくつかめたね。
「じゃあ、お先にいかせて貰うわね」
「あ、ああ……」
残ってる食材のうち、当たりっぽいのはネリネのものだけかな?
うぅ、何でよりによってあの二人のものが最後まで残ってるのよ〜。
「う〜ん、これに決めた!」
そして、一気に食べる。
「ん? なんか不思議な味が……でも、食べれない事も―」
そこで言葉が途切れる。
どうしたんだろう?
「……わ、私も……ちょっと……」
もしかして、またはずれ?
「……稟、今の……誰のだと思う?」
「……多分、ネリネだな」
多分って言う割にはかなりはっきり断定するんだね。
「どうして?」
「前に、アップルパイもらったんだけど……」
「……あ」
そっか、あの時はシアが稟に渡したんだっけ。
ネリネは渡したくなかったような感じだけど。
「不思議な味って感想、同じだったね」
「だが……これで俺たち、絶対変なものを口にする事になるぞ?」
「……なんで?」
「樹と麻弓がまともな食材入れると思うか?」
「……ど、どうしよう……」
急に危険度が増した気がしてきた。
「……稟、逃げない?」
「そうしたいのは山々だが……」
稟が自分の後を見る。
あたしも見て見ると、亜沙がこっちをみていた。
「見逃して……くれませんよね?」
「わかってるなら、話は早いよね、稟ちゃん、キキョウちゃん?」
「「うっ!」」
に、逃げれそうにない……。
「……どっちから行く?」
「……よし、俺から行く!」
どの道、二人とも食べなきゃいけないんだけど……それでもやっぱり後の方が良
いよね。
「……(ゴクリ)」
「……稟……」
稟がここまで怯えるなんて……。
あたしも、稟が倒れるところなんて見たくないよ。
稟が鍋の中にお箸を入れて、中のものを掴む。
そして……。
「……良し! 行くぞ……」
「うん……」
稟は意を決して、ものを口にする。
「……ぐっ!」
稟が震えている。
どうしたんだろう?
「うぅ……まだおなかが……ん? 土見君、どうしたの?」
「……か……」
「か?」
なんだろう、か、って?
「か……からぁぁぁぁぁぁい!」
「り、稟! 口から火が出てるよ!?」
って、それって一体どんなものなの!?
「あちゃー、私のだ」
「ちなみに、麻弓。なに入れたの?」
「麻弓特製、超激辛レッドスパイシーホット辛子蓮根よ♪」
うっ、名前聞いただけで舌がヒリヒリしそう……。
麻弓って、すごく辛党だったんだ。
「麻弓ちゃん。ちなみに、材料なんか教えてくれないかな?」
「もちろん♪ えーっと、まずは唐辛子、七味、粒マスタード、ブラックペパー、
辛子、12種類のスパイス……」
「あ、ごめん。やっぱりいいや」
「えー! せっかく、この味のよさが分かる人に出会えてと思ったのに……」
分かる前に稟みたいになっちゃうよ……。
稟、あまりの辛さに大量に発汗して気絶してるし。
「さてさて、キキョウちゃん♪」
びくっ!
「最後だから、豪快に行っちゃってよ」
豪快って……残ってるのは樹のだけだし……。
一番信用……じゃなくて、一番まとも……でもなくて、一番怪しいし。
「うぅ……シア、変わってよ!」
「だめだよ、キキョウちゃん。このパーティの主催者なんだから」
「だって、すごく怖いんだもん!」
「それは、私も怖いけど……」
「あたし達、何をするも一緒だよね!?」
「うぅ……今回だけは違うという事で……」
「お前ら、相変わらず器用だな」
稟の冷静な突っ込みが入ってきたけど、それだけではあたしの恐怖は拭えないの
よねぇ。
でも、あたしが言い出したことなんだから、やっぱり食べないとだめなんだよね
ぇ……。
「……うん! やっぱり、頑張って食べる!」
あたしがそう宣言した時、何人かが拍手をした。
稟はなぜか台所に行って水を汲んでたけど。
あたしは早く終わらせようとして気にせずにお箸を鍋に入れ、残っていた食材を
掴んだ。
「樹、起きろ」
稟が樹に水をかけて樹を起こす。
「はっ! 一体、何が起こったんだ?」
「知るか。それより……」
あたしは二人の会話を気にせずお箸で掴んだものを口に運ぶ。
「……ぱくっ!」
「お前、鍋の中に何を入れたんだ?」
「ああ。あれかい? 学食で食券買う時にさ、名前のない値段だけが書かれてる
スイッチがあるだろ?」
「そうなのか?」
「ああ。あるんだよ。それの正体を確認しないままそれに……」
「ふぁぁぁぁぁぁっ!」
「な、なんだっ!?」
わ、私が……叫んだ……の……。
キキョウの意識がそろそろやばそうなので視点を俺に移す。
「キキョウ、どうしたんだ?」
「り、稟……あたし、これだけは……舐められなかったはず、なのに……口の、
中に……」
「……は?」
「うっ!」
ぱたっ!
「キ、キキョウ!? 一体何を!?」
意味不明な言葉を残して倒れるなー!
「ねぇ、緑葉君。あれ、確認してないの?」
「ああ。おばさんがなぜかやたらニヤニヤしてたから確認してなかったんだ。怖
くて」
「そう……と言う事は、あれの正体知ってるの、私だけか……」
「麻弓ちゃん。キキョウちゃんが何を食べたのか知ってるの?」
「ああ……知ってるといえば知ってるけど……」
麻弓にしてはどうも歯切れが悪い。
いつもならはっきりと物を言う麻弓にしては珍しい。
「麻弓、一体なんなんだ?」
「……ごめん! 土見君! これの名前を口にするのはもう、人間としては出来
ないの!」
「……お前、半分は魔族じゃないか」
「それでも言えないのー!」
そう言って麻弓がシアの家から出て行こうとする。
……が、
「うわぁっ! イタッ! 今なんか踏んだ!」
「お、俺様の足がー!」
「……」
暴れまくってるなぁ。
視界がゼロの時にやたらと動き回るのはやめましょう……。
「それにしても、麻弓があそこまで拒絶する物ってなんだろうな」
あの麻弓をここまで怖がらせるものって……。
「あまり知らないほうがよろしいのでは?」
カレハ先輩の言うことももっともだ。
とりあえず、全員食った事だし、闇鍋パーティも終わりだな。
……まだ口の中が痛い……。
「キキョウちゃん。すっかりショックで倒れ込んじゃったよ」
「シアは正体知らないのか?」
「うん」
「そうか……」
キキョウが何を口にしたのかわからないまま、闇鍋パーティは終わった。
……もう闇鍋はやめておいたほうがいいな。
Fin.
あ、あれ? コメント忘れてました。(滝汗
……ええと、私のキキョウになにを食べさせたんですかっ!?(ぉ
や、一応キキョウも正体を知っているみたいですが……。
購買の謎メニューは定番ですね。(笑
にしても……キキョウも料理駄目ですか。
きっとネリネと一緒に作ったら大変なことに……。
闇鍋よりも怖そうです。(ぉ
<<Comment by けもりん>>
無断転載厳禁です。
show flame