学園存亡の危機? 〜 リシアンサス 〜
震天 さん
時刻は夜。
場所は俺の部屋。
そして、俺の部屋には本来いないはずのシアの姿があった。
「稟くん、今日は私……」
「ああ、わかってる。絶対に寝かさないからな」
「稟くん……」
「シア……」
シアが俺達の家に泊まることになった。
まぁ、神王のおじさんも公認だから別に何にも問題はない。
問題があるとすればシアの方か。
「じゃあ。はじめるぞ?」
「うん……」
なぜこんな事になったのか。
それは今を遡ること数時間前……。
「なぁ、シア。キキョウの得意科目ってなんだ?」
「どうしたの急に?」
昼休み、皆で食事をしている時に何気なく聞いてみる。
「いや、性格は少し違うだろ? なら、得意な科目も違うのかなって」
「どうだろう? キキョウちゃん、なにか得意な科目ってある?」
「わからない。あたしずっとシアの中にいてみてただけだから何が得意とかは、
ちょっと……」
初めての人には少しわからないか。
そんな人のために少し説明しよう。
シアの中には魔族としてのもう一人のシア、キキョウがいる。
まぁ、二重人格と考えてもいいが、基本的には少し違う。
詳しい事はゲームでもやって確認してくれ。
そして、肝心なのはこの二人の見分け方。
シアは俺のことを「稟君」と呼ぶのに対し、キキョウはは普通に「稟」と呼び捨て。
それと、シアは若干控えめなのに対し、キキョウは結構積極的。
後は口調だな。
「それがなにか関係あるのですか、稟様?」
まぁ、普通はなさそうに感じるよな。
ところが、そろそろ大いに関係してくる。
「得意科目が違うなら、それなりに対策はできるんだが……」
「一体何のことを言ってるの、土見君?」
「忘れたのか? もうすぐなにがあるか。はい、樹」
「バーベナー学園2学期中間テストだな」
「……」
シア(今はキキョウか)が固まった。
ついでに麻弓も固まった。
「シアの苦手科目をキキョウが得意だったら、赤点なしで済むだろうな、って思
っただけだ」
「シアさんが赤点取ったらなにかあるんですか?」
「楓、別にギリギリ補習を免れるなら別にいいんだ。問題は、ギリギリアウトに
なった場合だ」
「稟、アウトになったら何が起こるというんだ?」
そうか、こいつらは知らないのか。
バーベナー夏の陣で起こったかもしれない事を……。
「そうだな。簡単に言えば、バーベナー学園の存亡がかかっている、とでも言っ
ておこう」
「土見君。シアちゃんが補習を受けるぐらいで学園がなくなるなんてこと……」
「あ、ありえる……」
「どうかしたんですか、シアさん。震えてますよ?」
「あぁ、そう言えば。前のテストの時、稟の家に押しかけていたよね。お父さん」
今思えばもう少しで死ぬところだったよな。
娘を思うあまり人を殺していた、なんてシャレにならんし。
「なんかあったの?」
「『いけねえ! このままじゃ家族の危機だ! かくなる上は今から神族最強特
殊部隊を召喚して……』。さて、ここで問題です。神王のおじさんはこのあと、
1.学園ごと世界を消滅。2.学園を瓦礫の山に。さて、どっちを言ったでしょう?」
「……まさかとは思いますが……、1?」
「正解だ、楓」
「と言うより、スケールの違いだけだけど、破壊活動はするのか」
うむ、よく気が付いたな、樹。
神王のおじさんは見た目通り、そういうことが得意そうだ。
神なのに。
「つまり、シアちゃんのテストの結果次第では……」
「この学園は無くなるな」
その場にいた全員が真っ青になる。
「そ、そっか。私が補習受けなければ学園は平和なんだよね?」
「でも、実際ギリギリだからねぇ」
「あぁん、言わないでよ、キキョウちゃぁん」
シアとキキョウが代わる代わる表に出てきて喋っている。
「まぁ、さっきも言ったけど、あたし自身勉強した事ないから何が得意かはわか
らないけど」
「でしたら、私が何か練習問題を作ってあげましょうか?」
「それはいい。それで何が得意かわかるだろう」
「私も手伝います」
「俺様―」
「却下」
こいつにだけは頼ってはいけない。
少なくてもこの3人は樹の魔の手から守らないと。
そういうわけで楓たちに作ってもらった練習問題をやってるわけだ。
ついでに、俺や麻弓もやっている。
俺達も補習予備軍だもんな。
で、結果は……。
「……問題、解決されなかったね」
「まさか、まったく同じ点数で、間違えてるところも同じで、解答も同じって言
うのは予想外だったぞ」
まるでコピーしたかのようにまったく同じ。
ある意味すごいな。
「私たち、別にそれぞれの答えを見てたわけじゃないのにね?」
「不思議な事もあるもんだね」
「呑気な事を言ってる場合か!」
ますます学園の存亡が危うくなってきただけだし。
まぁ、先にそれがわかっただけでもよしとするか?
「どうしよう……」
「どうしようもない。これは猛勉強する以外ないな」
「うぅ、私意志弱いんだよね……」
「あ、それはあたしも」
だから、喜ばしい事じゃないんだ、キキョウ。
そういうことがあって、しばらくシアは家に泊まり、俺と楓とシアの3人で勉強
会することになった。
楓は俺たちのコーヒーを淹れてくれている。
「稟くん。コーヒー持って来ました」
「おぅ、サンキュ」
「ありがとう、カエちゃん」
「どうです、進んでますか?」
楓に渡されたコーヒーを一口飲む。
それに俺が顔をしかめる。
別にコーヒーが苦かったわけじゃない。
「いや、やっぱり補習予備軍の俺達が集まったところで限界がある」
「特に英語がさっぱり……」
「楓、頼む」
「出そうなところ重点的に」
「わかりました。では、教科書の68ページの……」
楓大先生に教わりながらテストまで勉強会を続けた。
「ところで、シア。神王のおじさんはどうしてる?」
「うっ……あんまり思い出したくないんだけど……会議してた」
「……別にいやなことじゃないと思うけど?」
「ですよね……?」
俺と楓が顔をあわせて首を傾げる。
「学校を潰す会議でも?」
それを聞いた瞬間、俺も楓も凍った。
「……どういう処置を?」
「お母さん達と連携して封じ込めました」
「お見事」
どういう封じ方をしたのかは知らないけど、しばらく動けないなら、まぁいいだろう。
そして、試験当日。
「……奇跡が起きた」
楓に教わったところはほとんど外れずにそのまま出てきた。
楓が優秀のなのがよくわかる。
というより、これなら楓はいつも100点でもおかしくなのに。
「稟くん……」
「シア、どうだった?」
最初は浮かない感じの表情だったが、にっこり笑ってVサインを出した。
「自分でも信じられないくらいの正解率だったよ。これで苦手教科の赤点はなく
なりそうだよ」
「そうか。いやぁ、楓様様だな」
もし、勉強会をまったくやっていなくて、自力で勉強しただけだと……。
すでに最低一つは落としていただろう。
最悪二つとも。
そうなると学園は……怖くなるのでやめておこう。
「稟様、シアちゃんどうでした?」
「もう、ばっちり!」
「これで学園がなくなることはなさそうだ」
「いいなぁ……」
俺達が話していると補習ほぼ確定の麻弓がやってきた。
「私も土見君たちの勉強会に参加すればよかった」
「またやばいのか?」
「今日のはすでにだめね」
まだ初日だぞ?
英語と物理が終わっただけだぞ?
後何教科残ってると思うんだ?
普段から「学校の勉強なんか社会に出てからなんの役に立つのよ!?」とか言っ
てるからだ。
最低でも、赤点をとらないレベルにしておくべきだったな。
「ねぇ、今日も勉強会やってるんでしょう?」
「うん。試験が全部終わるまでは」
「私もさすがに何回も補習受けたくないのよ。お願い参加させて」
「どうしました?」
そこへ楓が帰ってきた。
なにやら飲み物を買いに行っていたみたいだ。
「楓〜、私も勉強会に参加させて!」
「は、はい……」
と、言うわけで勉強会に更にメンバーが増えた。
「わ、私まで参加してしまって……」
「まぁ、さすがに楓一人に3人の面倒見させるわけにもいかないし、ネリネ一人
をのけ者にするのもなんだしな」
それに、優秀な講師は多い方が良いに決まっている。
「明日は数学と歴史だっけ?」
ここにいるほとんどが苦手な科目だな。
「楓、リンちゃん。私たちに全部覚えさせるような事はしないでね」
「私も。さすがに全部覚えれる自信ないし」
それに対しては俺もまったく同意見だ。
教科書全部覚えられたらこんな苦労はしないのだから。
「では、出そうな所を予想して覚えていきましょうか」
「その間、私は数学の練習問題を作りますね」
優等生二人は教える担当を決めて勉強会をはじめる。
「それにしても、楓はすごいな」
「え? な、何ですか、急に……」
「そう言えばそうだね。カエちゃんが教えてくれたところほとんどそのまま出て
きたし」
「楓ってば、優等生だもんね」
「そんな事ありませんよ。稟君のためになるならと思って予想したんです。外れ
なくて何よりでした」
「楓、土見君のことが関わると完璧超人だもんね」
その分、自分のことになるとすごいドジっ子になるけど。
勉強会は夜遅くまで続いた。
なんだかんだで試験も終わり、テストが帰ってきた。
「どうだい、稟。今回の結果は」
「ふっふっふ。今回はお前に半分以上勝っている自信がある」
「お、言うねぇ。このバーベナ―学園の頭脳、緑葉樹様に挑戦するというのかい?」
「別に勝負してもいいぞ。この間のように俺が勝つけどな」
あの時は本当に奇跡だったが、今回は楓やネリネという強力な助っ人のおかげで
それなりに高得点を叩き出したのだ。
「言ったな。なら……」
「「勝負!」」
バンッ!
同時にお互いの答案用紙を出す。
ITUKI 87 VS RIN 90 WINNER
「なっ!」
「ふっ。これが現実さ」
「だが、まだ所詮一教科。これ以上は……」
「稟くん、稟くん!」
「ん? どうしたシア?」
「見て見て!」
シアが今回のテストを見せてくる。
点数のところを見てみると……。
「……樹。シアにも負けてるぞ?」
「な、なにぃっ!」
シアの点数は俺より上の93点。
「自分でも信じられないよ!」
「お、俺様が……」
結局帰ってきたテストのうち、俺が樹に負けたのはなんとたったの一教科のみ。
シアに関して言えば全教科樹に勝ったのだ。
楓とネリネは当然。
そして、麻弓は初めて補習を受けずに済んだ。
この結果に、樹はかなり沈んでいた。
樹の伝説も新たに始まる俺の伝説に色褪せるな。
「楓〜! 楓のおかげだよ、ありがとう!」
「そ、そんな……麻弓ちゃんが頑張ったからですよ」
「これで学園がなくならなくて済むな」
「ほんと、一安心だね」
こういうのもやっぱりこういうのだろうか?
火事場のクソ力、と。
人間やればできるものだ。
この後、当然のように神王と魔王の2大おじさんが宴会を開いたのは言うまでも
ない。
Fin.
女の子と試験勉強……女の子と試験勉強……ぶつぶつぶつ……。
はっ。しまった。あまりのうらやましさのあまり、つい。(ぇ
学生時代のテストは憂鬱なものですが、学生にしかない良いイベントでもあるわけで〜。
残念ながら、私はそんな羨ましい経験はないわけですが。
共学だったはずなのに、おかしいなぁ……。
まあ、テスト前に勉強しなかったのがイケナイんでしょうか。( マテマテ
楓みたいに良い教師役がいれば、私だって今頃官僚に……。
これからでも遅くはないので、是非私にもイロイロ教えてください。(えー
無断転載厳禁です。
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