気持ちの変化 〜 麻弓=タイム 〜
震天 さん
なんてことはない。
いつもと変わらないごく普通な日。
「稟さま、楓さん、おはようございます」
「おはよう、ネリネ」
「おはようございます」
シアは今日、日直らしく、先に学校に向った。
それ以外はいつもと変わらない……。
「……」
「稟さま? どうかなさいましたか?」
「いや、慣れって怖いなぁ、と」
「?」
シアやネリネ、プリムラがこっちに来てから2,3週間経った頃か。
俺は見事に今の状況に馴染み始めていた。
考えてみれば、自分が居候している家の隣に神王と魔王がいるんだよな。
……最近、まったく違和感がないな……。
「ところで稟さま。数学の課題、終わりましたか?」
「……へ?」
「数学の……課題?」
数学って……確か、松島だったよな?
……補習好きの……。
「か、楓……?」
「わ、私も、今知りました……」
楓が忘れるなんて、珍しいな。
いやいや、今はそんな事を珍しがっている場合じゃない。
「そうだ! ネリネはやってるんだよな!?」
「は、はい。数学はあまり得意ではないので、あっているかどうか……」
「それでもいい! 俺達に救いの手を!」
「稟様のお役に立てるのでしたら、喜んで」
「ありがとうございます、リンさん」
「ありがとう、ネリネ! 救いの女神よ!」
俺は感謝の気持ちでネリネを抱きしめた。
カシャ!
「……な、何の音だ? ネリネ、分かる―」
「……ぽー……」
ネリネには刺激が強すぎたか?
顔を真っ赤にして意識が飛んでるよ。
「それより、さっきの音は?」
「多分……」
楓があたりを見回す。
なるほど、俺にも少しわかってきたぞ。
と、俺達が探し当てるよりも先に、向こうから先に出てきた。
「土見君! 今の場面、しっかり撮らせてもらったわよ!」
「麻弓……お前、そこでなにしてたんだ?」
「だから言ったでしょ? さっきの場面、撮らせてもらったって」
「……さっきの場面?」
「あ、今も継続中か」
麻弓が俺のほうを見る。
……ネリネの意識はまだ戻ってないな。
楓に任せるわけにも行かないからまだ抱きとめているけど。
「……麻弓、今、頭の中で練ってるものを聞かせろ」
「『衝撃のスクープ! 土見稟、魔界の王になる日は近い!』で、明日の記事は
決まりね」
……やっぱり……。
「あ、ちなみに」
「?」
「数学の課題があるって言うの、嘘だから」
「は? だって……」
ネリネを見る。
まだ回復してなかった。
「実はリンちゃんにそう言ってもらうように頼んだのよ。私にとってもリンちゃ
んにとってもいいことあるからって言って」
「……お前が犯人か!」
「あ〜れ〜!」
ネリネを楓に任せて麻弓を追う。
しかし、相変わらず逃げ足は速いな、あいつ。
「はぁ〜〜〜〜〜」
「稟くん、なんか朝からお疲れだね」
「これからのことを考えて憂鬱になっているだけだよ……」
明日、『NNN』の連中に追いかけられるな。
「何かあったの? リンちゃんもなんだか様子がおかしいし」
ネリネ、まだ熱が抜けてないのか?
おじさんにいつも抱きつかれてたから少しは免疫あるかと思ってたけど。
「大したことじゃないんだけどな……」
「ふぅん? なんかよくわからないけど……あ、それと、なんか麻弓ちゃん、す
ごくウキウキしてたよ」
「だろうな」
水を得た魚、薬を得たヤクザのようなもんだ。
あまり下手にあいつに近づかないほうがいいな。
それにしても、あいつ、ネリネに頼んでまでネタを……。
「……!? シア!」
「!? な、なに……? 稟くん?」
急に起き上がったからシアがビックリしてる。
「シア……麻弓に何か吹き込まれなかったか?」
「麻弓ちゃんに? ううん、私は見かけただけだから麻弓ちゃんとは話してない
よ?」
「そ、そうか……そっか。悪い、今朝の事があったからつい疑っちまった」
「別にいいよ。前例があるんじゃしょうがないよ」
……怒って、ない?
普通疑われたら怒るよな?
まあ、シアはそんな娘じゃないか。
「ホント、悪かったな」
お詫びと言うにはあまりにも稚拙だが、シアの頭を撫でてやった。
「あ……えへへ♪」
それでもシアは喜んでくれたようだし、いいとする―
カシャ!
「……おい……」
「? 今、なんか音がしたような……」
朝の事が鮮明に思い出されるな。
「麻弓!」
「うーん、『近日、神界と魔界の新たな王誕生! その名は土見稟!』って見出
しに変えたほうがいいかな?」
「ふざけるなー!」
登校時と同じように麻弓との追いかけっこが始まった。
「はぁぁぁぁ〜〜〜〜……」
「稟くん、大丈夫ですか……?」
昼休み、いつも通りのメンバーといつも通り屋上で昼食を取る。
だが、俺のテンションは明らかに低かった。
そりゃそうだ。『SSS』にも追いかけられる事間違いなしだからな。
「稟、ため息をつくと幸せが逃げるというよ。まあ、俺様他学園の男子一同、ど
んどんため息をついてもらいたいと思うけど」
樹のその言葉に周りの男子が全員頷いている。
「ダメです。稟様には幸せになってもらうんですから」
「そうそう。じゃあ、稟くんがため息をつくたびに私たちが幸せを運んであげる
よ♪」
「稟くん、なんでも言ってください。私、稟くんのためなら何でもします」
うぅ、そう言ってくれるのはありがたいけど、そういうのは周りに男子がいない
ときにして欲しいよ。
「今はその気持ちだけもらっておくよ。サンキュ、シア、ネリネ、楓」
「いやぁ、なんか照れちゃうね」
「私、感激です」
「……ぽー……」
カシャ!
「……2度あることは3度ある……」
もう考えなくても誰だか直ぐにわかる。
さすがに3度目にもなると苛立ちより先に呆れがやってくる。
「麻弓、お前も飽きないな」
「これが生きがいですから♪」
今に始まった事じゃないのは重々承知しているが、今日はやたらと集めまくって
るな。
この意欲を別のところに使えればいいのに、とか思わないのか?
「お前、それを生きがいにする前に自分の浮いた話の一つでも作れよ」
「うっ! 痛いカウンターを……」
「麻弓さんは好きな方いらっしゃらないんですか?」
「例えば……樹君とか」
「ぶんぶんぶんぶん! それはない。絶対にない!」
そこまで拒否するか?
相変わらず、嫌われまくってるな、樹。
「まあ、麻弓にもう少し胸があったら他の女の子同様に声をかけてあげるけどね」
「だから、熾烈に激烈に猛烈にお断りするって言ってるでしょ? それに、あん
たみたいなのと真面目に付き合う女の子なんていないわよ。いたとしたら宇宙よ
りも広い心の持ち主よね、絶対」
「それに関しては激しく同感だな」
「……全然誉められた気がしないね」
誉めてない。むしろ貶してる。
「麻弓ちゃんの好きなタイプってどんな人なんですか?」
「うーん……具体的に説明するとなると結構難しいよね」
「それでは、稟さまと緑葉様ならどちらが好みですか?」
おーっと、ここで俺の名前が出てくるのか。
「稟ちゃんと樹君じゃ性格の時点で勝敗が決定してるよね」
「? 亜沙先輩、それにカレハ先輩も……」
「今日もみんなで昼食? 仲良いわね」
「……嫉妬ですか?」
バシーン!
「痛っ!」
「今日もみんなで昼食? 仲良いわね」
「……否定はしません」
「まあ♪ 亜沙ちゃんも稟さんと仲がよろしいですわ♪」
「カレハ!」
……俺達以上に仲いいんじゃないか? この二人。
「ところで、麻弓ちゃん、顔だけでいうとどっちがいいの?」
「え……?」
「忘れるなよ。さっきまでお前の話だったんだぞ?」
「あぁ……忘れてませんか」
「それで、どっちなの?」
亜沙先輩は麻弓に聞くと同時に俺と樹を麻弓の目の前に差し出す。
「……どっちかって言うと、土見君よね」
「なっ!」
自分じゃなかった事がどうもかなりショックだったらしい。
「まあ♪」
「ほっほう……それは何ででしょうか?」
「顔の良し悪しで言うとわずかに緑葉君のほうが良いとは思うのよね」
「じゃあ、なんで稟君なの?」
「……瞳、かな?」
「瞳……?」
なんか訳分からん理由だな。
こいつはルックスより瞳で男を見分けるのか?
「まあ、もう時効だろうから白状しちゃうけど、緑葉君と初めて会ったときから
『こいつナンパしまくってるだろうな』って思ったのよね」
「おお、正解だ」
俺も初めてこいつと会った時、楓に声かける前に他の女子に声かけまくってたの
見たからな。
「人の性格って大体瞳に現れるのよね。まあ、私から見た感じだからほかはどう
か知らないけど。で、緑葉君に声をかけられた後、土見君にも声をかけられたの
よね」
「稟君、麻弓ちゃんを口説いたの!?」
「んな訳あるかっ!」
「樹君を止めに行っただけですよ」
俺まで病的色魔のレッテルを張られるところだった。
「それで、第一印象で土見君のことが……」
「……俺のことが……?」
「!? え、えーっと……」
「?」
なんか急に歯切れが悪くなったな。
なんか変な事でも言ったのか?
「ふーん、そういうことなんだ」
「大変な事になりそうですね」
「楓、頑張ってね♪」
「あ、亜沙先輩……」
「まままあ♪」
「???」
他のみんなは何のことか分かったようだ。
樹は未だに沈んでるから問題外だな。
「どういうことなんだ?」
「あ、あの、その……そう! 好印象を持ったって言おうとしたのよ!」
「へ、へぇ……」
そんなに力強く答えなくても……。
「……なにがおかしいんです? 亜沙先輩」
「な、なんでも……ぷくく……」
なんでもなくて笑うんですか?
……訳わからん。
昼休みが終わり、一番眠い時間帯の授業が終わった。
つまり、5時間目が。
俺は喉が渇いたので食堂で飲み物を買いに来た。
「ふぅ……5時間目に紅女史の授業が入ってるのは反則だよな……」
紅女史の授業で居眠りでもしようものなら確実に補習だ。
あるいは、素敵な笑顔に迎えられての紅女史とのデート。
「……あれについていける樹もすごいものだ」
思いながら自販機のスイッチを押す。
「あ、そういや次移動だったな。まぁ、間に合うだろう」
買った牛乳を飲みながら少し早足で教室に戻る。
「やべ、思ったよりもう時間ないし……」
走らないと間に合わないな。
そう思い、階段を上ろうとしたとき。
「どいてどいてー!」
「ん……?」
「ああああああああ! 違う! 間違い! やっぱりどかないでえ! って言う
より受け止めてー!」
……どこから聞こえて来るんだ?
この声、麻弓だよな?
「麻弓ー! お前、どこ―」
ドカッ!
探すまでもなかった。
麻弓は俺の進行方向から来て、勢い余って止まれなくなったところ、俺にぶつか
った。
そんなところだな。
「いてて……麻弓、お前俺になんか恨みでも……」
今まで目を瞑ってたから気づかなかったが……なんでこうなってる?
「いったーい! 土見君、起こして〜」
「だったらまず退け! 眼福というか目の毒だ!」
「ちょっと! 毒ってどういう意味よ、毒って!」
そんなの、俺の目の前にとんでもない光景が広がってるからに決まってるだろう。
どんな状況なのかはゲームをやった事があるやつはわかるだろうからこれ以上は
説明しないぞ。
「大体、なんで慌てて降りて来るんだ!? 次は上で授業だろうが!」
「筆箱忘れたのよ!」
……至ってシンプルな答えだな。
「ところで土見く〜ん。これだけいいもの見せてあげたんだから、見返りはあっ
て然りよね〜?」
「は? って、おい! ベルトを外すな!」
「残念でしたぁ。確認するまで当電車はノンストップでまいりまーす。乙女の大
事な場所を見た罪は、男の大事な場所を見せる事で払っていただくわ!」
「だからなんでそうなる!?」
「私がそう決めたからに決まってるでしょ!?」
勝手に決めるな!
って言うか、なんで急に自分主義なんだ!?
「だからやめろ! お前、俺の目の前にも簡単にカウンターできる状況になって
るの理解してるんだろうな!?」
「な! こ、こら、男と女じゃ見られる重みが違うんだかね! 見るんじゃなー
い! 目をつぶりなさい!!」
「軽い重いで犯罪行為が許されてたまるか! 思いっきり衆人環視に晒してやろ
うか!」
「だったらこっちも晒した挙句に観察記録取って夏休みの課題にしてやる! 男
の子がおきあがるまでの連続写真なんて、間違いなく学園史に残る発表よね!」
確かに、これで学園史に残らなかったらこの学園、いろんな意味でずれてるよな。
いや、今そんな事を言ってる場合じゃ―
キーンコーンカーンコーン……
「「あ……」」
しまった……今がどういう状況か忘れてた。
とにかく、少しでも早く行かない事には、下手すればさぼりとして紅女史とデー
トする事になる。
「麻弓、今はこんな事してる場合じゃない。とにかく、転がってでも良いから退
いてくれ」
「りょーかい」
麻弓は言われた通りに転がった。
俺が起き上がっても麻弓は起き上がろうとしなかった。
「どうしたんだ? 早く行かないと紅女史とのデートだぞ?」
「それが……起きたくても起き上がれないのですよ……」
「はあ……?」
「……足、挫いちゃって……」
麻弓にしてはらしからぬミスだな。
こいつくらい運動神経がよければ受身くらい出来そうなのに。
まあ、それはさておき、足を挫いているなら起き上がるどころか歩く事も出来な
いよな。
これ以上授業に遅れればかなりやばくなるんだが……見て見ぬフリも出来ないか。
「痛いのはこの辺か?」
「いっ! ……そ、そこが痛いのですよ……」
「……腱に近いな……放っておくと悪化しそうだな」
「……土見君、そういうの分かるの?」
「え、ま、まあ……昔にちょっとな……」
昔、しょっちゅう階段から落ちて今のこいつと同じ目に遭った事が多々ある。
おかげでこんな知識が増えてしまった。
「仕方ない、とにかく保健室に行こう。先生には俺から言っておいてやるから」
「……ありがとう」
「じゃあ、ちょっと持ち上げるぞ?」
「え? あ、ちょっ!」
麻弓が何か言い切るより早く、俺は麻弓を抱きかかえる。
「なんか言ったか?」
「つ、土見君……これ、すごく恥ずかしいんだけど……」
「心配するな。今は授業中だ。廊下に出てる奴なんかいないさ。それに、これく
らいで恥ずかしがるプライドもないだろう」
「土見君、今のすごく失礼な発言よ」
まあ、普通の女の子に言ったら泣かれるか怒られるかのどっちかだな。
「確かにそうだな。麻弓が相手だとそういうの考えないんだよなあ」
「それって私を女の子として見てないってこと!?」
「そうじゃない。お前が女だってことはよく知ってる。意外に可愛い一面も見せ
るしな」
「! い、意外って、どういう意味よ」
「お前、結構さばさばしてて周りの女子とは少し違うだろ? だから、どっちか
って言うと男子と付き合う感覚なんだよ。けど、お前が笑ってるところ見るとこ
いつもやっぱり女の子なんだなって思い知らされるよ」
「……」
まあ、色々トラブルを起こしたりトラブルを探しにいったりもする変なやつだけ
ど、俺としては気兼ねなく意見を言い合える存在として好意的だしな。
「……土見君、私がもう少しおしとやかになったら、もっと女の子らしく見える?」
「お前がおしとやか? やめとけやめとけ、今までのギャップでみんなから『変
なものでも食ったのか!?』って言われるぞ。今のままでいいじゃないか。少な
くても、俺は今のままのお前が好きだぞ?」
「!?」
そうこう言う内に保健室に着いた。
今両手が使えないから足でドアを開けちゃったけど。
「失礼します。……って、誰もいないのか」
麻弓をベッドに座らせる。
先生がいないんじゃな……呼んでくるのもあれだし。
俺がやるしかないか。
えーっと、冷やすものは……。
「お、あったあった。麻弓、これでとりあえず冷やしとけ」
「う、うん」
シップと包帯だけで良いかな?
あまり色々探って先生からなんか言われるのもなんだし、簡単に済ませて後は先
生に任せるか。
「とりあえずシップ貼って包帯巻くから靴下脱げ」
「オッケー。土見君、変な想像しないでよ?」
「誰がするか!」
全く……これだけ元気があるならあまり心配する必要もないな。
シップを貼って手早く包帯を巻いていく。
「へぇ、土見君慣れてるね」
「昔取った杵柄だな」
おじさんがいないときは自分でやるしかなかったからな。
素人療法とはいえ、ある程度知識はある。
「……よし、終わり。先生がきたらちゃんと治療してもらえ」
「土見君はどうするの?」
「今から授業……って、早く行かないと欠席扱いになるじゃないか! お前の事
は言っといてやるから、大人しくしてろよ!」
「う、うん……」
俺は保健室を後にして急いで教室に向う。
全力で走った成果か、どうにか間に合い、事情を話して授業にはいった。
授業も終わり、俺は麻弓のことがちょっと気になって保健室に立ち寄ってみる。
「……なに寝てんだよ……」
保健室にいる麻弓はベッドで爆睡していらっしゃった。
寝たいのはこっちなのに……。
そんな麻弓を尻目に、俺は保険の先生から麻弓の状態を聞いた。
ちなみに、保険の先生は神族なのである程度の怪我は治癒魔法で治せる。
麻弓の足も治癒魔法で治したらしい。
「……こうしてると可愛いんだけどな……」
麻弓の寝顔を見ながらそんな事を考える。
そういえば、こいつの顔をこんなに間近で、しかもこんなにじっくり見ることな
んてなかったな……。
「他人が寝てるのを見るとなぜか無性に『肉』と額に書きたくなってくるな」
そんな事をすれば俺の命は危ないが。
「……そうだ。今のうちにこいつのデジカメからあのデータを消せば」
あのデータ=今朝の出来事や昼での出来事。
俺は早速実践しようと手を伸ばすが、思い止まりやめる。
「……こいつが起きてから改めて交渉するか」
そう結論付け、近くの椅子に腰を下ろし、麻弓が起きるのを待つ。
「何も力一杯叩かなくても……」
麻弓を待っているとどうやら眠っていたらしく、先に起きた麻弓が俺を起こした。
だが、起こし方に問題があったが……。
「下校時間過ぎそうだったしね。それに、土見君一度寝たら中々起きないらしい
じゃない」
「楓から聞いたのか? それでも俺はあそこまで過激な起こされ方はしていない」
まあ、起こしてくれた分には礼を言うつもりだが……。
「あ、そうだ。なあ、麻弓。今朝や昼休みの時の写真の件なんだが……」
「ん?」
「あの写真……やっぱり公開するつもりか?」
「う〜ん……そうねぇ……土見君の出方次第、ってとこかな?」
「な、なに?」
つまり、今からの俺の行動によってはこれ以上酷い目に遭う事もあるってことか?
「まあ、そんなに構えなくて良いわよ。ここで一枚写真撮らせてくれれば良いか
ら」
「それだけ?」
「なあに? それ以上の事も期待しちゃうわけ?」
「あ、いやいや、滅相もない!」
「まあ、いい判断よね。それじゃあ」
麻弓が俺の隣に来てカメラを自分達に向ける。
「お、おい……?」
「はいはい、ちゃんとカメラ見てよね」
「あ、ああ……」
まあ、これだけで済むんなら別に良いか。
「うん。よく撮れてるわね」
「じゃあ、これで公開しないんだな?」
「さあ? それは明日のお楽しみ、ということで♪」
「なっ!?」
「うそうそ。あっちは公開しないから安心して」
俺はそれを聞いて安心した。
ホッと胸をなでおろし、麻弓を見ると既にかなり離れていた。
「土見くーん! また明日ねー!」
「まだ走るなよ! 完全に……治ったんだったな。でも、また痛むかもしれない
から無理するなー!」
「オッケー! じゃあねー!」
麻弓は腕をぶんぶん振りながら去っていった。
……思いっきり走って。
「人の話まるで聞いてないな……」
まあ、あれだけ元気ならいいか。
そう結論付け、家に帰ることにする。
だが、俺は麻弓の言葉の意味を理解していなかった。
翌朝。
今日はシア、ネリネ、楓と一緒に学校へ向う。
そして、学校へ着いたとき、
「土見ー!」
「?」
地鳴りと共にこちらに向ってくる影。
どうも一人二人の数ではなさそうだ。
「な、なんか、俺……やばくないか?」
逃げた方が良いかな?
逃げるべきか?
逃げるべきだろう!
俺が回れ右をしようとしたとき。
「稟くん、逃げなくてもよさそうだよ?」
「な、なに……?」
確かに、こちらに向ってくるやつらの顔を見るかぎり、怒りや憎しみの表情では
ない。
むしろ、祝福をしようとしているやつの顔だ。
「土見! 俺はお前を見直した!」
「はぁ?」
「お前の選択は、バーベナー学園の歴史に永遠に刻まれる事だろう!」
「な、何の事だ?」
いきなり訳わからん事を言われても困る。
どうやら俺の周りを囲んでいるのは『SSS』や『NNN』、『KKK』の面々である事
は間違いなさそうだ。
そんな中、俺は僅かな殺気を感知した。
「土見……お前、麻弓さんまで!」
「……は?」
とにかく、状況を理解していない俺は掲示板のところまで連れてこられた。
そこで見た物は……。
「なっ……!?」
「稟くんと……麻弓ちゃん?」
こんなの、いつ撮った?
「あ、楓、おはよう。どうしたの?」
この声は……。
「麻弓!」
「あ、土見君? そうよね……楓がいるもんね……」
「お前、どういう―」
「じゃあね、土見くーん♪」
「待て!」
逃げる麻弓を追う俺。
なにやってくれるんだよ、あいつは!
「ねぇねぇ、リンちゃん。これ、合成じゃないよね?」
「はい。でも、麻弓さんも稟様のことが……」
「それにしても、麻弓ちゃん。大胆ですね」
掲示板に貼られている写真は麻弓が俺にキスしようとしているところの写真だっ
た。
「土見……お前、麻弓さんまでっ!!!!」
……というわけで、私も殺気発しますよ!?(笑
『気持ちの変化』というタイトルが意味深ですね。
さて……どこからどこへ変わったのか……。
色々深読みが出来ると思うですよ。
「樹への気持ちを誤魔化していうちに、いつのまにか稟ことが好きになってた……」
っていうのと、
「諦めてるつもりだったけど、頑張ってみることにした」
ってののダブルワードかなと思う次第です。
そして……
アレはわざとで、
アレは嘘で、
アレは狸、
ですね?
ままあ♪(ぇ
Comment by けもりん
無断転載厳禁です。
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