魔王家の一日 〜 フォーベシイ 〜
震天 さん
やぁ、諸君。
私のことは知ってるよね?
そう、ネリネちゃんのパパだよ〜。
じゃあ、私の本名、覚えているかな?
……覚えてない?
パパ、寂しいな……。
「あ、あの、お父様? 何をいじけてらっしゃるのですか?」
「誰も私のことを名前で呼んでくれないんだよ……」
「お父様の名前、ですか? ……」
「ネリネちゃん、何で黙っちゃうのかな?」
「い、いえ……」
なんか悲しい考えがよぎったけど、そんなものは抹殺しておこう。
「それより、ネリネちゃん。今日も可愛いね♪」
「あ、ありがとうございます」
「? そういえば、少しおめかしをしているようだけど、どこかに行くのかい?」
「はい。稟様と、その……デートを」
そう!
ネリネちゃんは子供の頃より想いを寄せていた稟ちゃんと結ばれたのだ!
いや〜、ここはラッパでもあったら吹きたいところなんだけどね〜。
「そうかそうか。ネリネちゃん、幸せかい?」
「はい♪ 幸せすぎるくらいです」
「うんうん。パパも嬉しいよ。そうだ! 今日は稟ちゃんを連れてきなさい。
パパが腕によりをかけてご馳走を作ってあげるから」
「え!? 今日……ですか?」
「? どうしたんだい? ネリネちゃん」
パパ、なにかネリネちゃんを困らせるような事言っちゃったのかな?
「あの……今日は稟様とレストランでお食事の約束を……」
「そ、そうなんだ。じゃあ、また別の機会にすることにしよう」
「はい。お願いします」
今日は私一人で食事になるのか。
パパ、寂しいな……。
「じゃあ、今日は帰りが遅くなるんだね? あまり遅くならないうちに気をつけ
て帰って―」
「あ、あの、その……今日は……」
ネリネちゃんがまた困ってる!?
どうしたんだろう?
「あの、今日は夕食後、稟様のお宅で勉強会をすることに……」
「勉強会……ああ! そういえばもうすぐテストだったよね」
「はい。それで、シアちゃんたちと相談したんですが、稟様のお宅で泊りがけの
勉強会をしようと。合宿のようなものです」
「!? つ、つまり……ネリネちゃんは、テストまで帰ってこない、と?」
「そ、そうなります、ね……」
ネ、ネリネちゃんが帰ってこない……ネリネちゃんが帰ってこない……ネリネち
ゃんが……。
「あ、あの、私、そろそろ時間ですので……行ってまいります、お父様」
ネリネちゃんが帰ってこない、ネリネちゃんが帰ってこない、ネリネちゃんが……。
「おーい! まー坊、今日上手い地酒が……って、どうしたんだ!? まー坊!」
「ネリネちゃんが帰ってこない、ネリネちゃんが帰ってこない、ネリネちゃんが……」
「お〜い、まー坊。ネリっ子がどうした〜? とりあえず帰ってこ〜い!」
「はっ! し、神ちゃん? どうかしたのかい?」
「どうかしたのはお前だろう? それで、ネリっ子がどうしたんだって?」
「……ネリネちゃん……?」
そういえば……私は何をしていたんだろう?
確か、ネリネちゃんが稟ちゃんとデートをすると行って、食事してくると行って、
それで……。
「ネリネちゃ〜ん! カムバ〜っク!」
「今はおめえがカムバックだろ!」
どごっ!
「はうっ!?」
な、なんか……すごく、鈍い音が……。
あ、あれは!?
綺麗なお姉さん達が手招きしてる!
こんな綺麗なお花畑にいるお姉さん達はさらに輝いて―
「おい、まー坊! 河だけは渡るなよ!」
河?
あー、確かにお姉さん達の前に河があるね〜。
それでも、この私の衝動は誰に求められないんだ!
今行きますよ〜! こんな河、飛び越えて〜!
―おう! 嬉しい事言ってくれんじゃねえか!―
……へ?
―まー坊! 早くこっちに来い!―
―上手い酒があるぞ!―
ぎゃぁー!?
綺麗なお姉さん達が神ちゃんに!?
「はっ!?」
「おっ。帰ってきたか」
「……」
わ、私は今、どこにいたんだろうか?
「ところで、帰って来る時なんかうなされてたが、どうかしたのか?」
「神ちゃんがお花畑で美人のお姉さん達が河に流れて……」
「? まぁ、なんかわからんがとりあえず助かってよかったな」
「ところで、神ちゃん。どうかしたのかい?」
「だから、それは俺のセリフだ。ネリっ子がどうしたって?」
「ネリネちゃん? ネリネちゃんは……ネリネちゃ〜ん!」
「それはもう長くなるからやめろって」
確かにそうだね。
私は神ちゃんにネリネちゃんの今後について話した。
「そうか、ネリっ子に先を越されちまったが、シアだってふられた訳じゃないか
らな」
「そうだね。シアちゃんも本当にいい子だから幸せになってもらいたいねぇ〜」
「ちげぇねぇ。それに、あの嬢ちゃんもプリムラも、稟殿の先輩も、幸せになる
権利があらぁ」
「いっそのこと、こちらで婚姻統制やっちゃおうか?」
「お、それなら一番手っ取り早くて良いな!」
「だろ?」
「じゃあ、早速……」
……………………あれ?
ネリネちゃんとそういう話になったんだっけ?
「お! そういえば、さっきまでまー坊が言ってた『ネリっ子が帰ってこない』
ってのはなんだ?」
「!? そ、そうだよ、神ちゃん! それを言おうと思ってたんだ!」
と言う事で、本当にネリネちゃんが言った事を話した。
「な、な、な……なんだってぇーっ!? そ、それはつまり、シアも帰ってこな
いってことかっ!?」
「そういう、ことになるんだろうね……」
「……」
「? 神ちゃん?」
急に黙り込んじゃって、どうした―
「せ、石化してるー!?」
え、えっと、この場合どうすれば良いんだ?
私は魔族だから治癒魔法はろくろく使えなんだよ、困ったことに。
ど、どうすれば……。
「とりあえず、このハンマーで……それっ!」
どがっ!
びきっ!
おっ?
どうにかひびが入った。
もう一息かな?
「これで……とどめっ!」
どがっ!
びきっ!
びきびきびきびきっ!?
「おぉっ!? 遂に神ちゃんが復活―」
ばらばらばらばら!
「……く、砕け散っちゃだめじゃないかー!?」
「……ったく、酷い目に遭ったぜ」
「そ、そうだね……」
まさか、あの状態から復活するなんて……。
さすがは私の盟友、神ちゃん!
「だが、冷静に考えてみれば、俺達は稟殿の家の隣に住んでるんだ。いつでも会
えるじゃねぇか」
「そうだったね。最近、ネリネちゃんとコミュニケーションを取れる機会が減っ
ちゃったから、つい……」
「そうか……俺もシアとの距離が離れちまったように感じちまうんだ。わかるぜ、
まー坊の気持ち」
「神ちゃん……」
「まー坊……」
「「今日は語り明かそう(じゃないか)!!」」
今日は昼間だからって気にしない!
酒を肴にシアちゃんとネリネちゃん、楓ちゃんやプリムラたちの幸せについて語
り明かした。
一方……。
稟とネリネは―
「そうか。なんかおじさんに悪いことしちゃったな」
「はい。私も最近、稟様と一緒にいることが嬉しくて、お父様の事をすっかり忘
れてました」
「まぁ、家に帰ればいやでも顔をあわせるから、そこまで気にしないよなぁ……」
「はい……」
お父様、私が出るときには少し正気ではありませんでしたから、少し気になります。
大丈夫でしょうか?
再び、ほんのちょっぴり戻って魔王様達。
「やっぱり、神界と魔界を統一したら、次は人間界だよねぇ〜?」
「おぅ! それで城は……そうだな。稟殿も住み慣れた人間界がいいだろう。
人間界にドドンとでっかい城でも建てるか!」
「そうだね! それで、しばらくは私たちがそれぞれを治めて」
「後は稟殿に任せて早々に隠居暮らしするか?」
「「わっはっはっはっはっ!」」
またまた稟達。
「……ヘックション!」
「大丈夫ですか? 稟様。風邪、ですか?」
「いや、誰かが変な噂でもしたのかも」
「あ、あの、今日は少し、冷えます、ね?」
「え?」
あ……今のはやっぱり、無理があったでしょうか?
今日はそれほど、寒くはないですし……。
「……そうだな。少し、寒いよな」
そう言って稟様は私の手を握ってくれました。
「あ……稟様の手、暖かいですね」
「ネリネの手は……少しだけ冷たいかな?」
「かも、しれませんね」
指を絡めて握った稟様の手は、心まで温かくしてくれました。
「じゃあ、テストが終わったらおじさんに何かお詫びとかするんだ?」
「はい。どうすればいいのか、よくわかりませんが……」
「そうか。俺にできることがあったらなんでもいってよ。ネリネの力になるから」
「はい」
「そうだ。それなら、おじさんに甘えてあげたら?」
「え?」
「それでも喜んでくれると思うよ? あと、一緒に何かをやったり……例えば、
料理とか」
「そうですね。私ももっとお料理を上手にできるようになりたいですし」
「じゃあ、決まりだな」
「はい!」
はいは〜い。
再びパパですよ〜。
ん? なになに?
作者の都合により、テスト期間は飛ばさせていただきます?(←カンペ読み)
そのほうがパパ助かるよ。
ネリネちゃんたちに差し入れを持っていったら、邪魔になるから帰って、とかで
ろくろくネリネちゃんに会えなかったんだもん。
パパへこんじゃうよね、ホント。
しかーし!
ネリネちゃんが今日は一日甘えてくれると言う事なのだ!
「と言うわけで、いらっしゃい、ネリネちゃん♪」
「あ、あの……いらっしゃいと言われましても……」
「どうしたんだい、ネリネちゃん♪」
「い、いえ……その、笑顔で膝を叩かれましても……」
昔に戻ってネリネちゃんを膝の上に載せて絵本でも読んであげようと思っている
のだよ!
さぁ、パパの胸に……じゃない、パパの膝の上へおいで、ネリネちゃん!
「あ、あの……それは、遠慮させていただきます……」
「そ、そうかい? そうだね。ネリネちゃんももう、立派なレディになったからね」
「そ、そんな……」
昔のネリネちゃんはまだちっちゃくって、いつもパパの膝の上に乗ってくれたん
だよねぇ。
「そうだ! ならいっそのこと、変身魔法で子供に戻るっていうのはどうだい!?」
「え、遠慮します……」
気付いたらネリネちゃんがかなり後ろに下がっている。
しかも、ネリネちゃんがパパを見る瞳、少し冷たく感じるんだけど?
「いやぁ、ネリネちゃんにそんなに見つめられるとパパ、照れちゃうなぁ!」
「……」
「ネ、ネリネちゃん? 今、なんて言ったのかな?」
「あの、お嫁さんに必要な事を色々教えていただきたい、と」
そ、それは、つまり……。
「花嫁修業だね!?」
「そ、そこまでたいしたものでは……ないとは言いませんが……」
「何はともあれ、ネリネちゃんがそういうのなら、なんでも教えてあげよう!」
理由はどうあれ、ネリネちゃんと一緒に家事をこなせる日が来るなんて♪
「じゃあ、洗濯からはじめようか」
「はい」
という訳で、洗濯の極意を教えるべきであろう!
「ネリネちゃん。新婚さんの家庭では、洗濯をするとき、あるとても重要な儀式
が行われる」
「重要な……儀式?」
「そう。一通り洗濯終えてからの事なのだが、その時は一言、稟ちゃんにこう言
うんだよ。『私も汚れてしまいしたから、稟様、洗ってください……』と!」
「あ、あの……お父様? もし、それを具体的に説明しようとすると……」
「うん。いろんな規制に引っ掛かるかもしれないから、残念ながら説明できない
けど。多分、ネリネちゃんの想像している通りだよ」
「それは、その……か、必ず、言わなければならないのですか?」
「そうだよ」
「!!」
ネリネちゃんの顔が赤くなってしまった。
これではいざ本番になったらどうするんだ!?
「……も、もし……その儀式を、行わないと……どうなるんですか?」
「行わないと、ごく普通のつまらない生活を送る事になる。そんな生活に、幸せ
という文字はないのだよ! だが、この儀式を行った家庭は子宝に恵まれ、この
上ない幸せな生活を送る事になるのだ!」
「そ、そうだったんですか!?」
「それに、稟ちゃんはネリネちゃんに恥をかかせたりしないよ。安心しなさい」
「は、はい!」
「ちなみに、この儀式に練習とかはないんで、ぶっつけ本番だよ。大丈夫! 稟
ちゃんを信じなさい」
「当然です!」
うんうん。
これでネリネちゃんも一歩、大人に近づいたというわけさ。
あぁ、早く孫の顔が見たい。
さて、ネリネちゃんとの洗濯のひと時を過ごせた事だし……って、あれ?
途中は?
……なに?
普通の洗濯の説明をするのは面倒なので飛ばす?
洗濯物干した後から始めてくれって……いいかげんだな。
「という勝手な都合により、いきなり干した後の事だ」
「は、はい……」
ほら、ネリネちゃんも困ってるじゃないか!
というより、次は掃除か……。
ここも極意を教えるべきだな!
「次は掃除だね。こういうことは大体休日にやってしまう事が多い。休日という事は、
稟ちゃんも日ごろの責務の疲れを癒すために、家でごろごろしているはずだ」
「楓さんの話でも、休日はそうしている事が多いそうです」
「だが、掃除をするには稟ちゃんにそうされていては、はっきり言えば邪魔なのだ。
そこで! 新婚家庭の重要な儀式、パート2!」
「ま、まだあるんですか!?」
「掃除というのは家に溜まったゴミを捨てる事だ。だが、ゴミは稟ちゃんの中に
もある!」
「……はい?」
ネリネちゃんが首を捻った。
うーん……ネリネちゃんにはまだわかりにくいかな?
だが、規制に引っ掛からないように上手い事気付かせないと。
「ネリネちゃん。生き物の3大欲求って、知ってるかな?」
「はい。食欲、睡眠欲、それと、その……性欲……です」
「うん。その通りだよ。前の二つは普段の生活の中で捨てる事は出来るけど、最
後の一つは、ネリネちゃんが掃除してあげるしかないのだ!」
「!? そ、それは……その……」
「この儀式には、夫婦の愛をいつまであつあつで保てるという効果がある。ネリ
ネちゃん、いつまでも稟ちゃんとラブラブでいたいよね?」
「あ、あ、あの……」
ふむ。これ以上さすがにだめか。
ふふ、これでまた、孫の顔を見れる日が近くなった。
よし、掃除も終わったね。
途中はまた飛ばすんでしょ?
しかし、ここはかなり問題なのではないか?
「あの、お父様」
「な、なんだい?」
「お気持ちは分かりますが、あからさまに顔を引きつらせるのは……」
そ、そんなに引きつってるかな!?
「それで、今回は何を作ろうか?」
「では、肉じゃがを」
「に、肉じゃが!?」
「ど、どうかしましたか!?」
「肉じゃが……食す者に必ず郷愁を感じさせる人間界最強の郷土料理! 一度こ
れを食した男性は作り手の老若男女を問わず求婚せずにはいられないという魔性
の料理!」
「あ、あの……何か間違ってませんか?」
「ん?」
でも、この間宇宙人の綺麗なお姉さん方が出てくる番組でそう言っていたと記憶
しているが?
心当たりがある人にはわかり、知らない人にはわからないことだな。
これはなかったことに……。
「まぁ、とにかく、肉じゃがだね? よし、パパが正確且つ、丁寧に教えてあげ
るから、ネリネちゃんはなるべく私の言った通りにやってみるんだよ?」
「は、はい……」
えーっと……中略。
「うん。綺麗に出来たじゃないか」
「はい」
「じゃあ、ちょっと味見を……」
ジャガイモをつまんで口に放り込む。
「あむ………………?…………っ!?」
「お父様……?」
「いやぁ、神ちゃん。私は昨日幸せだったよ」
「何でい、藪から棒に」
「昨日、ネリネちゃんと久々に親子らしい一日を過ごせたんだ。しかも……ネリ
ネちゃんがすごく美味しい肉じゃがを作れるようになったんだ!」
思わず踊りだしたくなる私の思いも察してくれたまえ♪
昨日はそのまま稟ちゃんを呼んで宴会をしたのさ!
今はネリネちゃんと同じ部屋で熟睡中なのだよ♪
「ほう。そいつはめでてぇじゃねぇか!」
「うん!」
あの後を省略した作者の意図はわからないが、まぁ、良いか。
「……ところで、あえて気にしないようにしてたんだけど、どうしたの? その
頭のこぶの数々」
「これか? ほら、前にシアたちの幸せとかで語り合っただろう?」
「うん。確かにしたね」
「その時話題に出た、婚姻統制をやっちまおうと思って、シアにそれを話したら……」
「お〜と〜う〜さ〜ん……そういう余計な事は……しないでって言ってるでしょう!」
「……の一言と共に、家の椅子を全て使って叩きのめされた」
「って言うより、神ちゃん……あれ、本気にしてたの?」
「俺はいつだって本気だぜ?」
「……」
私は神ちゃんに対する理解がまだ完全ではなかったのだろう、と実感した時だった。
……OHPに行って調べて見ましたが、キャラ紹介には「魔王」って書いてありました(笑
ネリネ・フォーベシイっていう植物があるらしいです。
……はい。そりゃもう忘れてましたさ。
魔法で子供の頃に戻るというのか可能なのでしょうか!?
や、可能であれば是非……。(ぇ
や、だって、ネリネの子供化ってことは、○○○○たんってことですよね。
や、○○○○たん萌っ!(ぉ
……幼いからぢゃないですよ?
愛しい娘は手元に置いておきたがる父親が多いかと思うのですが、
二世界の王は一味違うようですね♪
これも、娘の幸せを願ってのことなのでしょうか。
それとも……仲を邪魔して嫌われてるのを恐れてる?(笑
なんにしろ、仲が良いことは良いことです。
なので……私も是非シアと仲良く……。(マテ
投稿、ありがとうございましたー。
comment by けもりん
無断転載厳禁です。
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