お米の持ち帰り方 〜 芙蓉 楓 〜
震天 さん
もうすぐ梅雨に入り、夏がすぐそこまできているある日の事。
「ただいま〜」
「お帰りなさい、稟くん。あの、それは?」
稟君が持っていた買い物袋を指して聞く。
「ほら、牛乳もうなかっただろ? だから買ってきた。ついでに、他に必要そう
な材料もな」
「それでしたら、私が明日、お米と一緒に買って来るつもりでしたのに」
「なに? 米もなかったのか?」
「はい」
ですが、お米と一緒に他の物も買うとかなり重たいので少し助かっちゃいました。
稟君には申し訳ないですけど。
次の日、授業が終わると稟君は早々に帰り支度を整えると、私の元へやってきま
した。
「おーい、楓」
「あ、稟くん。お疲れ様でした」
「楓、米買いに行くんだろ?」
「はい。稟君は先に……」
「俺も行く。米はさすがに重いだろ」
稟君は私の言葉を遮って言いました。
ですが、稟君にそんな荷物持ちをやらせるわけにはいきません。
タダでさえ、昨日色々買ってきて貰ったのですし。
「大丈夫です。これでも体力には自信があるんです」
「そうか。それは奇遇だな。俺も体力が有り余っているところだ。減らすついで
に、鍛えておかないとな。亜沙先輩に今朝言われたばかりだし。だから、荷物持
ちとして同行させてもらう」
「ダメです。稟君も分まで働くのは私の生きがいなんですから。それに、稟君に
荷物を持たせたりしたら、私は自分が許せません」
こう言うのは稟君もわかっているはずです。
それでも稟君はついてくると思いますが、それだけは譲れません。
だから、次の稟君の言葉にはかなり驚きました。
「なら、荷物を持った楓をお姫様だっこをして帰るのは良いんだな? 荷物は楓
が持ってるんだし」
「え?」
私が荷物を持って、稟君が……。
「ええ?」
私ごと、抱えて家に帰る……。
「えええっ!?」
稟君の言葉は、つまり……そういうことですよね?
「あ、あの、それは……」
「じゃあ、決まりだな。楓は荷物を抱えて、俺は楓を抱える。荷物を持たせても
らえないなら、もうこれしかないもんな」
私はすぐに結論を出す事ができず、俯いて考え込んでしまいました。
確かに、稟君には荷物を持たせるわけにはいきませんが、これはいいんでしょう
か?
憧れているシチュエーションであるのは間違いありませんが……。
……でも、この機会を逃すと、稟君にそうしてもらえる事は二度とないかも。
でしたら……。
「じ、じゃあ……それでお願いします」
「…………はあっ!? …………え、えーっと……楓、さん……?」
「じゃあ、稟君。早く行きましょう♪」
私は鞄を持って教室の入り口へ向いました。
顔に出てしまっているかもしれませんが、稟君にお姫様抱っこしてもらえるなん
て……♪
木漏れ日通りのスーパーで予定通りお米を買います。
「お会計済ませてきますね」
「あ、あぁ……」
会計が終わるといよいよ稟君に……。
そのことを考えると頬が熱くなってきます。
会計が終わり、スーパーから外に出ます。
「……」
「……」
「……えっと……楓」
「はい……」
「やっぱ、俺が荷物を……」
「私が持ちます!」
稟君に荷物を持たせるわけにはいかないという考えだけが先走って、この後のこ
とはまったく考えていませんでした。
「……今日に限って人通りが多いな」
「……やっぱり、恥かしいですね」
「じゃあ、俺が荷物……」
「私が持つんです!」
さっきもいいましたが、後の事はまったく考えていません。
稟君は少し考えた後、決意が固まったようです。
「わかった。俺も男だ。自分の言ったことの責任は取ろうじゃないか! 楓、後
戻りはできないぞ?」
「は、はい……」
「じゃあ、いくぞ」
そう言って稟君は私を抱え上げました。
周りの人はどうした事かとこちらを見ていましたが、なんだか祝福するような表
情をして行きました。
「あ、あの、稟君……重くないですか?」
「米の重さ足してもまだ軽いくらいだ」
「じ、じゃあ……なんでゆっくりなんですか?」
最初は気のせいかと思いましたが、自分で歩くより景色の変化が遅く感じました。
だからそんな事を聞いてしまったのですが。
「楓が俺に荷物を持たせたくなるかと思って」
「思いません」
「そんなはっきり言わんでも……」
「稟君は恥かしくないんですか?」
「恥かしそうに見えるんだったら、俺に荷物持たせてくれ」
「いやです」
そう言って、稟君の胸に頬を寄せました。
稟君の心臓の音、良く聞こえます。
「なぁ、楓……」
「はい?」
「それは俺の敵を増やす行為だと知ってやっているのか?」
「?」
周りを見回してみると学校の人たちが大勢いました。
皆さん、驚いているようです。
「私は嬉しいですよ。稟君にこうしてもらえて」
「……米を買う度にするか?」
「はい♪」
「な、なにっ!?」
「冗談です」
でも、ちょっと本気だったりしますけど。
またこうしてもらえる事を期待して、次も言ってみましょうか。
たまには稟君に甘えたいですから。
Viva!! お米!
あ、いやいや。Viva!!お姫様だっこっ!
お姫様だっこ、されてみたいですよね。(違っ
実は、熱で倒れたバイト先の社員さんをしたことがあります。
どんなに軽く見積もってもタマネギ二箱よりは重かったはず。(バイト先八百屋
でも、思いの外軽かったんですよ。
なので、プラス愛があれば軽いですよね?
……ちぇっ。(僻っ
私なら、毎回でも良いです。(ぉ
けど、実はオトコとしてはおんぶの方が背中で楽しめるという面も……。(マテマテ
<<Comment by けもりん>>
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