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 支えてくれる人 〜 カレハ〜

                    震天 さん



 (何で俺なんだろうな)

学校の授業中、俺は窓の外を見ながら考えていた。
この一言にどれだけの意味が込められているんだろう。
色々あるのは間違いない。
体育祭の勝利の女神に抜擢されたりしたのは……まぁ、置いておこう。
とにかく、一番気になるのは、シア、ネリネ、楓たちがなぜ俺なんかを好きにな
ったのか、ということだ。
シアが神王のおじさんとはぐれた時に俺が一緒に遊んであげた。
ネリネ、厳密にはリコリスだが、リコリスとも一緒に遊んだ。
楓には、嘘をついた。
楓の事については8年間、ずっと顔をつき合わせていたから覚えていて当たり前
だ。
だけど、シアとネリネ、リコリスのことは、あの頃の俺は自分のことで精一杯だ
ったから忘れてしまっていた。
それなのに、彼女達は俺のことを思っていてくれた。
なぜだろう?

「つっちー」

何で俺なんかを……?

「つっちー」

つっちー……?

「え?」

窓の外に向けていた目を声のしたほうに向ける。
目の前には仁王立ちしている紅女史の素敵な笑みがあった。

「あ……」
「授業はとっくに終わってるぞ、つっちー。まさかさっきの時間、ずーっとそう
 やっていたわけじゃないよな?」
「え、あ、その……すみません」
「はぁ〜、つっちー。とりあえず、今日は掃除を一人でやる事で許してやるが、
 今後気をつけろよ」
「はい……」
「ちょっと待ってください、紅女史!」
「ん?」

なにを思ったのか、樹が「異議あり!」的な勢いで立ち上がった。

「どうして俺様が授業をサボったときはタイヤ付きうさぎ跳び30kmで、稟は掃
 除だけなんですか!?」
「緑葉」

紅女史が俺を指さしてまず一言。

「成績が決して良い訳ではないが、充分に信頼がおける人物」

成績が良くないのは認めるけど何で他人に言われると釈然としないんだろう?
次に、紅女史が樹を指さしてもう一言。

「成績は良いが、信頼がおけない上にもっとも世に放ってはいけない人物」

紅女史が腕を組む。

「区別をつけるのは当然だろう?」
「世に放ってはいけないというのは、やっぱり、俺様がかっこよすぎるから……」
「簡単に連絡事項をするぞ」

いいように解釈した事を述べようとした樹を紅女史が軽くかわす。
紅女史が簡単に連絡事項をし、放課後になる。
今日の掃除当番は俺になったから、俺はまだ帰れないけど。

「稟君、掃除手伝うよ♪」
「え?」

掃除をしようとしたところへシアがやってきた。
シアだけじゃない。
ネリネと楓も来ていた。

「いや、いいよ。これは俺の罰だし」
「でも、皆でやったほうが早いよ?」
「でもなぁ……ばれたら皆だってやばいぞ?」
「稟様のためならそれくらいなんて事はありません」
「でも、皆だってなんか用事があるんだろ? なんか悪いよ」
「稟君のことが最優先ですよ」

どうにもこの3人には俺が大変な事になると手伝いたくなるようだ。
でも、少し一人で考えたい事もあるし、今回は……。

「……ごめん。やっぱりこれは俺の罰だし、やっぱり俺が受けなきゃ。だから、
 頼むよ」
「……頼まれちゃ、仕方ないよね」
「では、私たちは先に失礼します」
「稟君の好きな物、用意して待ってますね」
「あぁ、ありがとう」

シアたちが教室から出て行く。
それを確認すると、俺は掃除を始める。
しばらくして、教室の半分を掃除し終わった。

「ふぅ……教室って結構広かったんだな」

机を移動させて、残っている半分を掃除し始める。
そんな時。

「あら? 稟さん?」
「! カレハ先輩?」

教室の外からひょっこり顔を覗かせたカレハ先輩に気付く。
手にゴミ箱を持っているところを見るとゴミを捨てに行く途中だったようだ。

「……ゴミ捨てに行くのにこの教室の前通る必要ないですよね?」
「それが、いつものように考え事をしていましたら、いつの間にか……」

あぁ……妄想ね。

「でも、稟さん。他の皆さんは? 帰られてしまったのですか?」
「と言うより、授業中ぼーっとしてて、罰なんですよ」
「まあ……あ!」

何かを思いついたような声を出すカレハ先輩。

「では、私もご一緒しますわ」
「……は?」
「後は残り半分のようですわね。手早く終わらせてしましょう」
「いや、あの、カレハ先輩? これは俺の罰であって……」
「後、稟さんの悩み事を聞かせていただけると嬉しいですわ」
「っ!?」

……ばれてた?
それも、今さっきあったばかりのカレハ先輩に。

「なにを考えていらしたのですか?」
「……そんな大した事、いや、大した事あるのかも。何で皆、俺の事を……」
「それは、皆さん稟さんの良い所をいっぱい知っていらっしゃるからですわ」
「……それが全部、俺自身のためだとしても?」
「……稟さんが皆さんになにをしてあげたのかそれは私にはわかりません。でも、
 稟さんがしてあげた事は皆さんの心の助けになったのは事実ですわ」
「……俺は、そんな大した人間じゃないですよ」

謙遜でもなんでもなく、本当にそう思う。
別に俺が手を差し伸べなくても、誰かが手を差し伸べたはずだ。
あの時の俺は、ただ、自分の心の溝を埋めたくてやった、ただの自己満足だ。

「稟さんは立派な方です。もっと自分に自信を持ってください」
「……でも、俺は……わからない」
「?」
「別に、俺じゃなくても良かったんじゃ……」

俺がそこまで行った時、景色が歪んだように見えた。
その直後、頬に痛みを感じた。
視線を元に戻すと険しい表情をしたカレハ先輩がいた。
この痛みは、カレハ先輩が俺を叩いたからだ。

「……カレハ先輩?」
「そこまでです。それ以上言うのは、私が許しません!」
「……」
「……稟さん。あなたにどんな考えがあったのか知りませんが、皆さんの気持ち
 を裏切らないで下さい」
「……そうですね。すみません」

俺はカレハ先輩から、そして、今までバカな事を考えていた俺から逃げるために、
また掃除を始めた。
逃げたと言うか、逃げていた自分と向き合う事にした、と言ったほうが良いか。

「それにしても、初めてですよ」
「え?」
「母親以外の女の子からこんな風に殴られるのは」
「……あーっ! ごめんなさい、稟さん! 痛かったですか? 痛いですよね?
 すぐに治し……」

治癒魔法をかけようとするカレハ先輩の手を止める。

「……稟さん?」
「別に責めてるわけじゃないですよ。むしろ、感謝してます。目を覚まさせてく
 れて」
「……」
「この痛みは、いやな痛みじゃなくて、もう少し、感じていたいから……」

まぁ、カレハ先輩がこういうことするとは思わなかったけど、おかげで目が覚め
たの事実だ。

「さ、早く終わらせましょう。いつまでもカレハ先輩をつき合わせるのも悪いで
 すから」
「私のことは気にしないで下さい」

カレハ先輩が手伝ってくれた事もあって、その後の掃除はすぐに終わった。
俺達は一緒にゴミを捨てに行った。

「あの、さっきは本当にすみませんでした」
「いえ、ホント、全然気にしてませんから」
「……でも、少し腫れています」

カレハ先輩の少し冷えた手が腫れて熱を帯びていた部分に触れて、それがとても
心地よくて、ついカレハ先輩の手に自分の手を重ねてしまった。

「り、稟さん……!?」
「……しばらく、このままでもいいですか?」
「……はい」

どの位経ったのかわからない。
そんな時間の感覚が完全に抜けていた。
それでも、一瞬な様で、ずっと前からこうしていたような感じがした。
そして、俺は名残惜しむかのように、カレハ先輩の手をゆっくり、本当にゆっく
りと解放した。

「……もう、よろしいんですか?」
「……はい。本当に、ありがとうございました」

その後からはなにを喋って良いのかわからず、お互い目も合わせないまま、一緒
に帰り、別れる所まで来た。

「じゃあ、私はここで」
「はい」
「……」
「……」

久しぶりに目を合わせたような気がした。
カレハ先輩と目を合わせた事なんか何回もあるのに、今は、なにか違う。
その正体を考えるのも面倒で、気付いたらカレハ先輩を抱き寄せていた。

「……嫌がらないんですか?」
「嫌がる必要がありませんから」

そう言って、カレハ先輩も俺の背に手を回す。

「俺、本当は酷い奴ですよ?」
「でしたら、私のほうがもっと酷いかもしれませんよ?」
「……カレハ先輩……」
「名前で呼んでください。そんな、他人のように言わないで」
「うん。カレハ……俺の傍に、いてくれるか?」
「はい。私は、あなたの傍にいて、あなたをずっと支えます」

成り行きでこうなったのか、ずっと前からこうなる事を望んでいたのかはわから
ないけど、今、本当にカレハが愛しいと思った。
俺の中にはもう、あの時の馬鹿なことを考える気はなかった。
考える必要も、もうないのだ。
俺にとって、本当に大切な人が、ここにいるのだから。

                                     Fin.


「父さんにだって殴られたことないのに!」
と、思わず違うモノを思い出してしまいました。(笑

重みのあることですよね。「親以外」って。
だからこそ、カレハ先輩が──なのでしょう。
そりゃ、思わず抱きしめたくもなります。
……や、私もカレハ先輩に抱きつきたひ。(ぇ

震天さんへのリクエストもお待ちしておりますよー……と書いてみる。(笑

<<Comment by けもりん>>



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