SHUFFLE! SS

 撮影会? 〜 カレハ 〜

                    震天 さん

 今、芙蓉家は異様な空気に包まれていた。
 その異様な空気の中、俺はなぜかここにとどまるように言われた。
 それはこの家の主、楓にいわれたからではなく、俺達のクラスメイト、麻弓に言
われてのことだった。
 
「う〜ん……楓はこの服も似合うと思うんだけど……」
「やっぱりリムちゃんは猫耳がよく似合う〜♪」
「まままあ♪ お二人がこうして抱き合うと……ままままままあ♪」
「……」
 
 俺はただ見てるだけ、シア、ネリネ、楓、プリムラは麻弓、亜沙先輩、カレハ先
輩にいいように着せ替え人形の如く扱われていた。
 シアはかなり楽しそうにやっている。
 ネリネは誰の入れ知恵か(一人心当たりはいるが)簡単に言いくるめられ、少々積
極的。
 楓は当たり前だが、いや、これが普通なのだが、顔を真っ赤にしながらもやって
いる。
 プリムラは……遊ばれてるな。確実に。
 
「なあ、なんで俺がここで傍観してなきゃいけないんだ?」
「土見君、奉仕されるならメイド服とナース服、どっちがいい?」
「無視かよ……」
 
 なんでこの3人が同時にうちに遊びに来ると言い出したのか、今ならなんとなく
わかる……。
 しかし……。
 
「稟くん稟くん! 見て見て〜♪」
「……うっ!」
 
 輝かしいまでの時期はずれな格好。
 なぜにこんな夏にサンタ?
 しかも、意図的にかなりスカートの裾が……。
 
「どうかな、稟くん?」
「い、いいじゃないですか……?」
 
 すごく目のやり場に困る……。
 いや、下の方を見るからだめなんだ!
 シアの顔を見るようにすれば……。
 
「すごく似合……」
「? 稟くん?」
 
 これは何の陰謀だ!?
 何であんなに胸の部分が開いてるんだ!?
 
「あ、シアちゃん良いじゃない。それでちょっとポーズとってくれる?」
「こうかな?」
「そうそう♪ ……よし、いい画が撮れた♪」
「見せて見せて♪」
「麻弓ちゃん、ボクにも見せて。うわぁ、可愛い♪ ねえねえ、焼き増ししてボ
 クにもちょうだい」
「もちろん♪」
 
 ……止められない……。
 
「大丈夫ですか、稟さま? お顔が赤いようですが……」
「いや、大丈……」
「? 稟さま……?」
 
 次から次へと、目のやり場が……。
 特にネリネの場合、胸が……。
 俺は目線を下に反らそうにも、さっきのパターン通りなら、ネリネのスカートの
裾も……。
 
「稟さま、少し失礼します」
「え、あ、ネリネ!?」
 
 ネリネが俺のおでことおでこをくっつけてきた。
 
「リンさん、次はこれに着替えてもらってもよろしいでしょう……まままあ♪」
「あ、カレハ先輩、これは……!」
「稟さんとネリネさんがもうすぐキスを!? そしてそのままお二人は愛の逃避
 行へなだれ込み、貧しいながらも幸せな家庭を築き、そして!」
 
 スイッチが入ってしまっては止める事はほぼ無理だ。
 しかし、このまま方っておいたら俺たち、どこまで進展させられ……。
 
「そのうち稟さんは魔王様に認められ、魔界の方々に祝福されながら王位に就き、
 そして……」
「なあ、あれ、止めて良いか?」
 
 こんなところに魔王のおじさんが入り込んで着たら、今すぐに祝言だ、とか言い
出しそうだし。
 
「稟ちゃん稟ちゃん! 愛しの楓の出番よ〜!」
「あ、あのですね、亜沙先輩! カレハ先輩の前でそんな事を……!」
「まままあ♪」
 
 ああ、またさっきとは別の妄想の海にダイビングしたよ、この人。
 
「あらら、カレハまたスイッチ入っちゃった?」
「その約4割は亜沙先輩のせいですよ」
 
 残りの6割は最初からこうだったし。
 
「大体、なんでこんな……楓!?」
「り、稟くん……」
 
 顔を真っ赤にしながらも、俺に助けを求めているような目をしているが、どこか
見て欲しそうな照れているようにも感じる。
 
「……」
 
 俺は言葉が出せない。
 
「どうかな? カレハがバイトしてるところの制服を着せてみたんだけど」
「た、大変結構なお手前で……」
「稟ちゃん、それ使い方間違ってない?」
 
 それ以前にこの異様な宴会じみた事に俺が参加させられているのが間違いなので
は?
 
「亜沙ちゃん! リムちゃんのお着替えが終わりましたわ♪」
「どれどれ……きゃー! リムちゃん、ぎゅってしていい♪」
「……もう抱きつかれてる……」
 
 プリムラは普段感情表現がなさすぎだから、何着ても慌てないんだろうが……。
 ……何着せられてるんだろう?
 
「亜沙先輩、プリムラに何を着せてるんですか?」
「ん?」
 
 プリムラになにやらオプションでもつけているのだろうか、亜沙先輩が壁になっ
てプリムラがよく見えない。
 しかし、さっき一瞬見えた白くて長いあれはなんなのだろう?
 
「出来た!」
 
 プリムラになにやらオプションをつけていたであろう亜沙先輩渾身の作品が出来
たらしい。
 
「それでは紹介いたしまーす!」
 
 そう言って、亜沙先輩が横に移動し、プリムラが姿を現す。
 
「いっ!?」
「テーマは『ロリの中にこそ最大のセクシー!? ロリッ子バニーガール』、リ
 ムちゃーん!」
 
 開いた口が塞がらない。
 こういう場合、どうすればいいのだろうか?
 
「プ、プリムラ……あのな……」
「ウサギ……」
 
 とってもシュールな返しが帰ってきた。
 じゃなくて……。
 
「プリムラ、嫌なら嫌だと断りなさい」
「? ……よくわからない」
「だよなぁ〜……」
 
 分かりきっているのだが、どうしてもこう言わずにはいれなかった。
 
「あのですね、プリムラにこんな露出度の高いものを……」
「時雨先輩、カレハ先輩!」
「「「?」」」
「どうどう!?」
「わぁっ!」
「まあ♪」
「……」
 
 可愛らしい天使の格好をしたシア、同じく可愛らしい悪魔の格好をしたネリネ。
 ただ、格好というのも、羽をつけただけだったり……するような格好なんだよな
ぁ……。
 
「さすがに、これは恥ずかしいかも……」
「あの、これも稟さまを喜ばせるための……?」
「は……?」
 
 俺?
 ……なんでネリネがああも簡単に言いくるめられていたのかよくわかったよ。
 それで楓もやってたのか……。
 
「二人とも、ちょっと抱き合ってくれる?」
「え、こ、こうかな……?」
「あ、あの……これで稟さまに喜んでいただけるんでしょうか?」
「それは心配ないわよ。ね、土見君?」
「……」
 
 自分でも顔が赤くなっていると分かっている。
 俺はそれを隠すかのように顔を反らす。
 って言うか、あれを直視するのは危ない。特に俺の理性が。
 
「稟くん、顔が赤いよ?」
「うわわわっ! その格好で近づくな!」
「え……? あ、きゃっ!」
 
 シアが自分の身体を腕で隠す。
 うぅ……確かに嬉しい状況ではあるが、このままじゃいつ俺の理性が崩壊するか
わからない。
 
「ふむ。土見君もそろそろ限界か……」
「それじゃあ、そろそろあれやる?」
「……あれ……?」
 
 俺は顔に手をあて、シア達を見ないようにする。
 まだ何かやるのか?
 これ以上は……。
 
「とにかく、土見君はこれに着替えてきて」
「は……?」
「ほら、稟ちゃん早く自分の部屋へ行って」
「え? ええ?」
 
 何がなんだかわからんが、俺まで着替えさせられるのか?
 
「あ、あの、なんで俺まで……?」
「ああ、もう! カレハ!」
「なんでしょう?」
「稟ちゃんを部屋を連行して!」
「まあ♪ 私がですか? ……まままあ♪」
 
 ……なんだか知らないけど、カレハ先輩が自家発電した。
 一体何がスイッチだったんだ?
 
「カレハ、どうかした?」
「それは私に稟さんのお世話を任せる、ということですか?」
「土見君のお世話?」
「私が稟さんお部屋にお通しして、お部屋には稟さんと私が二人きり。若い男女
 が密室で二人きりということは……まままままままままあ♪」
 
 ……なんか、やばい方の妄想の海に入ってないか?
 
「カレハ、それ、何色?」
「あえていうなら、ピンクでしょうか♪」
「稟くん、カレハ先輩と!?」
「だ、大丈夫です! 私はどんな事があっても、稟さまを愛し続けます!」
「え、あ、あの……?」
「稟くん、これからも私にお世話をさせてください!」
「稟……けだもの……?」
「おい……」
 
 この方々、ものすごく勘違いかなんかされてるんじゃあ?
 言い訳……じゃない、誤解を解く事が出来なさそうだ。
 ここは当初の通り、一人で……。
 
「さあ、稟さん。行きましょう♪」
「……って、既に成すがままか……」
 
 俺はカレハ先輩に引き摺られていった。
 カレハ先輩の華奢な身体のどこにそんな力があるんだろうか……?
 
 
 
 カレハ先輩に連れられて俺は自分の部屋にいた。
 
「カレハ先輩、意外に力あるんですね」
「あら、そんな事もありませんわ。稟さんみたいに逞しい方に本気を出されれば、
 私なんか……まままあ♪」
「は……?」
 
 また自家発電?
 
「そんな! 稟さんが急に私を襲うなんて!」
「襲いません!」
 
 妄想の海に飛び込む寸前のカレハ先輩を救出する。
 
「ああ、そんな! 稟さん激しすぎますわ♪」
「……救助失敗……」
 
 ここから引き上げるのはちょっと無理だな。
 仕方ない。先に亜沙先輩から受け取ったものに着替えるか。
 今はあの二人に逆らわない方がいいな。
 俺は着替えるために服を脱ぐ。
 それにしても、この白い服はなんだ?
 
「はあ……では、稟さん。そろそろお着替えを……」
「ん……?」
 
 上半身裸になった時、カレハ先輩が妄想世界から帰ってきた。
 背中を向けていたから別に何の問題もないと思うが……。
 
「稟さん、この傷は……?」
「え……? ああ、この傷ですか。これは……」
「……(ぺろっ)」
「っ!?」
 
 いきなり背中に電気が走った。
 正確には、カレハ先輩が俺の傷跡を舐めたのだ。
 
「カ、カレハ先輩……? な、何を……?」
「稟さん、痛くはないですか?」
「あ、あのですね……それは8年前の傷でして……」
「まあ……稟さんはこの傷を消そうと思いませんでした?」
「え……?」
 
 そうか……この傷は消そうと思えば消せるのか……。
 
「……いえ、良いんですよ。この傷は……」
「といいますと?」
「この傷は……なんていっていいのか分からないですけど、俺にないといけない
 んですよ。この傷がみんなとの絆みたいなものですから」
 
 今思えば、俺の馬鹿みたいな嘘から始まったんだよな。
 
「……稟さん……」
 
 カレハ先輩が俺の背中に身体を預けてくる。
 
「え……?」
「……稟さんの背中、大きいですね」
「……カ、カレハ先輩?」
「……」
 
 カレハ先輩が黙ってしまった。
 なんか、俺もドキドキしてきた。
 
「稟ちゃん、ちょっと遅く……」
 
 こういうときのお決まりパターン。
 なんか、誤解を呼びそうな時に亜沙先輩がノックもなしに入ってきた。
 
「……亜、亜沙先輩、これは……」
「ボ、ボクは何も見てないから……お幸せに……」
 
 バタンッ!
 
 ドアを物凄い勢いで閉め、大きい足音を立てて逃げて行かれた。
 このパターンはカレハ先輩が妄想モードに……。
 
「……まあ♪」
「……あれ?」
 
 顔を少し赤らめてるだけ?
 いつものカレハ先輩じゃない?
 
「……私、下で待っていますね」
「は、はい……」
 
 そのままスイッチが入らないままカレハ先輩は部屋から出て行った。
 
「……なんか調子狂うな……」
 
 俺はなるべく気にしないように着替えを始める。
 
 
 
「……はめられた……」
 
 着替えてる途中からなんかテレビや雑誌で見たことあるな、と思ってたら……。
 
「これ、結婚式で新郎が着るやつじゃないか」
 
 必要以上に白いからおかしいと思ったんだけど……。
 ……この扉の向こうの光景が見える気がするのは気のせいだろうか?
 
「……ここで止まってても仕方ないか」
 
 俺は意を決し、リビングへの扉を開ける。
 
「それっ!」
「?」
 
 リビングに入った途端、俺の腕に何かがくっついてきた。
 その直後。
 
 カシャッ!
 
「……へ?」
 
 真正面で麻弓がデジカメを構えている。
 今の音はシャッターの音か。
 
「はい、次!」
 
 麻弓の号令で俺の腕に引っ付いていた何かが消える。
 
「すみません、稟さま!」
「……は?」
 
 ネリネの声と共にまた何かが俺の腕に引っ付いてくる。
 そしてまたその直後。
 
 カシャッ!
 
「……」
「楓、もたもたしないの!」
「は、はい!」
 
 またさっきの繰り返し。
 しかし、今度は楓の声が聞こえた。
 俺は何がなんだかわからず、何も出来ずに突っ立っている事しか出来ない。
 
 カシャッ!
 
「次、ボク!」
「撮りますよ〜」
 
 カシャッ!
 
「は〜い、リムちゃーん。稟ちゃんと腕を組みましょうね〜」
「……組む」
 
 今度はプリムラか。
 
 カシャッ!
 
 ところで、ずっと気になってたんだが……。
 
「麻弓、お前、その格好は?」
「女の子に生まれてきたんだから、一度は袖を通したいじゃない。ウェディング
 ドレス」
 
 そう、カメラを構えているのに、麻弓はウェディングドレスを身に纏っている。
 ……かなり滑稽だな。
 
「ふむ、こんなものかな?」
「麻弓ちゃん、見せて見せて♪」
「どうぞどうぞ♪」
 
 よくみたらシアも着てるし、ドレス。
 いや、シアだけじゃない。
 ネリネも楓もプリムラも亜沙先輩も、みんな着ている。
 ……すごくおかしな光景だな。
 
「……って、待てよ?」
 
 俺の格好=新郎の着るタキシード。
 他の女子の格好=ウェディングドレス。
 麻弓がカメラに収めた時の状況=俺が誰かと腕組み。
 これらから導き出せる答えは……式場紹介のポスター?
 有り得ねぇ……。
 
「なあ、俺にもちょっと見せてくれないか?」
「ん? 良いわよ」
 
 デジカメは便利だな。
 撮ったらすぐに確認できるんだから。
 しかし……。
 
「なあ、この写真見て、他のやつはどう思うかな?」
「結婚式♪」
 
 だよな〜。
 どっからどう見ても新郎新婦じゃん。
 
「えーっと、削除するには……」
「ちょ、ちょっと土見君! それは止めて!」
 
 すぐさま奪還されてしまった。
 
「あのなあ! こんな写真とってどうするんだ!」
「シアちゃん達が見て幸せになるような写真を撮ろうと思っただけじゃない!」
「本音はどうなんだ!?」
「そんなの、土見君ファンクラブに売りつけるに決まってるじゃない!」
 
 ……あっさり白状したよ、こいつ。
 
「それで、みんなそれを着ているって訳か?」
「だってぇ、少しでも結婚する感じを味わいたかったんだもん……」
「申し訳ありません、稟さま」
「ごめんなさい、稟くん」
「それならそうと言ってくれれば……」
「快く引き受けてくれた、稟ちゃん?」
「いや、それは……」
「そういうと思ったから、こうしたのよ」
 
 ……実力行使ね。
 俺は心底疲れて大きなため息をついた。
 まったく、こんな場面、おじさん達にでも見られたら……。
 
 ばたんっ!
 
「!?」
「稟殿! てぇへんだ! 神界のやつらがさっさと戻って来いってうるさくてよ!」
「稟ちゃん、私はネリネちゃんが本当の幸せを掴むまでは戻れないのだが、魔界
 の者たちが早く戻れと!」
「「という訳で、早いとこシア(ネリネちゃん)と結婚でもして……」」
 
 いつにも増して訳のわからない登場の仕方をした上に、よりによってこんな時に
入り込んでくるか?
 ……しかも、状況とおじさん達が望んでる事が奇跡的に寸分の狂いもない。
 おじさん達はその状況を冷静に分析すると、俺にずんずん近づいてきた。
 そして、二人が俺の手を取り、
 
「稟殿、そういうことなら、今すぐ神界で結婚式をあげようじゃないか!」
「神界なら一夫多妻制だからね。みんな仲良く結婚すれば良いじゃないか!」
「「これで俺(私)たちも安心して神界(魔界)に戻れるってものさ! あーっ
 はっはっはっはっはっはっ!」」
 
 カレハ先輩並に妄想、もとい、誤解をして話を一気に飛躍させてる。
 
「「お父さん(さま)! 稟くん(さま)を困らせないでって言ってるでしょう!!」」
 
 娘達の活躍によりどうにかおじさん達の暴走は止まった。
 ……そういえば、カレハ先輩はどうしたんだ?
 
「亜沙先輩、カレハ先輩は?」
「ん? カレハなら、あそこにずっといるわよ?」
「え……?」
 
 亜沙先輩が指したのは台所の影。
 そこからなぜかカレハ先輩がこちらを伺っているように覗いている。
 
「カレハ先輩、どうかしたんですか?」
「それがね、稟ちゃんの部屋から出てきてからずっとああなの」
「……は?」
「稟ちゃん、まさかカレハにまで手を出したの?」
「なんですか、カレハ先輩にまでって……」
「シアちゃん、リンちゃん、楓、リムちゃん……」
 
 亜沙先輩が指折りで名前をあげていく。
 ああ、それ以上言わないでくれ……。
 
「あと……ボクとか……」
「……は? なんか言いました?」
「な、なんでもないの!」
 
 自分で言って勝手に怒ってる。
 訳分からん。
 とにかく、この人は放っておいて、カレハ先輩、ホントにどうしたんだろう。
 俺はカレハ先輩のほうに近づいていく。
 
「カレハ先輩、なんでそんなところに隠れているんですか?」
「あ、あの……私、こういう気持ちは初めてでして、どうしていいのか分からな
 いのです」
「は、はあ……」
 
 こういう気持ちってどういう気持ち?
 
「とにかく、そんなところにいないで、みんなのところに行きましょう」
 
 そう言ってカレハ先輩に手を差し伸べる。
 
「……」
 
 カレハ先輩は俺の手を眺めている。
 
「……カレハ先輩?」
 
 心なしか、少し恍惚の表情をしているようにも見えなくはない。
 ……それはさすがに自意識過剰か。
 
「……まあ♪」
 
 ようやく俺の手をとり、立ち上がろうとする。
 だが、
 
「うわっ!」
「え……?」
 
 ちょっと意識がトリップしてたので俺が引っ張られる形になってしまった。
 
「いっつ〜……」
「何してるのよ、土見君。……って、写真写真♪」
 
 麻弓が写真を?
 一体、今どんな状態なんだろう?
 そう思い、目をあけてみる。
 
「……まあ♪」
「あ、あの……これは、不可抗力というもので……」
 
 思いっきり、俺がカレハ先輩に馬乗りをしている状態だった。
 しかも、結構顔が近い。
 
「稟さん……」
 
 カレハ先輩が俺の頬に両手を添え、そのまま腕をゆっくり引いていく。
 
「え……?」
 
 だんだん近づいてくるカレハ先輩の顔に、俺の思考回路が麻痺する。
 そしてそのまま、俺の唇に柔らかい何かが触れる。
 いや、ここまで来てその何かがわからないほど鈍くはない。
 
「う〜ん……これじゃあ土見君がカレハ先輩を襲ってるようにしか見えないわね……」
 
 何かぶつぶつ言っている麻弓の声が遠ざかっていく。
 どうやら、この状況は見られていないようだな。
 そしてやがて、唇から感触が消えていく。
 
「カレハ先輩……どうして……」
「稟殿ー!」
「!?」
 
 おじさんのあまりにも意味がなさそうな叫びに一気に現実に引き戻される。
 そして慌ててカレハ先輩から退く。
 
「稟殿、頼む。俺の後継者になってくれ! 神界の重臣達がうるさくてよぉ」
「抜け駆けはずるいよ神ちゃん。わたしだって稟ちゃんの魔界の王になって欲し
 いと思ってるんだよ」
「お父さん! 数日神界に戻るだけなんだから、いちいち稟くんを困らせないで!」
「お父様も同じです! これ以上稟さまに御迷惑をおかけするようでしたら、私、
 三日間口を聞きませんよ!」
 
 さすがは対おじさん用最終兵器。
 ピンポイントで助けてくれるのはありがたい。
 
 
 
「それじゃあ、お邪魔しました♪」
「焼き増ししたら、学校で渡すね」
「かえちゃん、今日はありがとう」
「お騒がせしてしまって申し訳ありません」
「稟殿、しばらく会えなくなるが、その間、シアのことよろしく頼むぜ」
「稟ちゃんを魔界の時期王として紹介するために一緒に魔界に行きたいけど、ネ
 リネちゃんに口を聞いてもらえないと、パパ寂しいから、今回は諦めるよ」
 
 とりあえず、みんながそれぞれ挨拶をして帰っていった。
 
「それじゃあ、私カレハ先輩のお手伝いをしてきますね」
「ああ」
「……私も……」
 
 楓とプリムラが家の中に入っていく。
 カレハ先輩は今回使用した服の半分以上を持ってきたため片付けに少々手間取っ
ている。
 ビニール袋をたたむのは楓より早い自信はあるが、服をたたむとなるとな……。
 
「それにしても……」
 
 沈んでいく夕日を見てふと思う。
 今日のカレハ先輩の行動は少しおかしい。
 俺は指で自分の唇をなぞる。
 
「……感触はまだある、か……」
 
 そう感じると顔が赤くなってくる感じがする。
 
「それでは、失礼いたしますわ」
「!?」
 
 後ろでカレハ先輩の声を聞いて慌てて振り返る。
 
「稟さん、今日はありがとうございました」
「い、いえ……俺は、何も……」
 
 やばい、カレハ先輩の顔をまともに見れない……。
 変に意識しすぎか?
 
「あ、あの、カレハ先輩?」
「はい」
「あ、えーっと……送っていきます」
 
 さっきの事を聞こうとしたが、今はそういうだけで精一杯だった。
 
「ありがとうございます♪」
「うっ!」
 
 カレハ先輩の笑顔がいつもより輝いていた。
 
 
 
「……」
「……」
 
 会話がないままカレハ先輩を家に送る。
 もうすぐカレハ先輩の家なのになにも聞き出せないまま終わりそうだ。
 
「稟さん、ありがとうございます。ここまでで結構ですわ」
「そう、ですか……」
 
 はぁ〜……結局、カレハ先輩の真意は聞き出せずじまい……。
 
「明日からは、私も稟さんの恋人候補に入れさせていただきますわ♪」
「……は?」
「それでは」
 
 俺が聞き返すよりも早く、カレハ先輩は姿を消した。
 いや、俺が遅すぎたのだ。
 
「……帰るか」
 
 頭を掻きながら呟く。
 俺はもう一度カレハ先輩が通った道を見て家路についた。
 明日からの学園生活、また荒れそうだな。

ままあ♪
カレハ先輩ってば、ダイタンですっ。
それにしても、げに恨めしきは稟ですな。がるる。

惜しむらくは……色々な格好をしてるヒロイン達の絵がないところでしょうか。
是非欲しいです。
……にや。(邪

と、ちょっとコメント短いですが、後で足します。

Commented by けもりん

<< 2004/09/07 追記>>
と、良く読んだら、シアとネリネの格好って将に「羽根つけただけ」なんですね……。
普段の格好 + 羽根かと思ってたんですが……
実は普段の格好 - なにか + 羽根っ!!?
そ、それはやっぱり絵欲しi(殴

なにげに、こっそりシアがキキョウに変身しないかとかも気になりました。
魔族が天使の格好ってのも、アンバランスで漢心をくすぐられますよね!?

カレハ先輩の行動は……間違いなく明日からのバーベナ学園に、
新たな怨嗟の渦を巻き起こすに血がありませんね〜。
すくなくとも、ここに一人奥歯をかみつぶしそうなヤツもいることですし。
本編ではヒトのことばかりにスイッチ入っていたカレハ先輩。
自分にスイッチが入ると、どうなってしまうんでしょうか。
……くっ。稟め。(ぉ

○おまけ
……麻弓がドレス着てるのも、意味深ですよ!?
言い出しっぺは彼女ですしね♪


無断転載厳禁です。
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