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  聖姫の誕生祭 〜 シア 〜

                    震天 さん

 ……俺の前にはたくさんの数字が並んでいる。
 その内、俺はある数字を思い浮かべながらその部分とにらめっこをしている。
 その下にはある文字が書かれている。

「……問題だよなぁ〜……」

 そうなのだ。
 今抱えている最大の悩みだ。

「……とにかく、どうにかしたいよなぁ〜……よし、明日の帰りにでも商店街を
 うろついてみるか」

 そう決めると俺は早々にベッドにもぐりこんだ。



 翌日の放課後。
 帰り支度をしている俺にある少女が近付いてきた。

「り〜ん君♪ 帰りましょ♪」
「シア……」

 彼女の名前はリシアンサス。
 神界を統べる神王・ユーストマの一人娘……って、今更説明も必要ないか。
 俺は立ち上がって鞄を肩に担ぐとシアに向かってこう言った。

「悪い、シア。俺、しばらく一人で帰るから」
「え……?」

 シアが一瞬、寂しそうな顔をする。
 うぅ……なんか、俺の決意が鈍るな……。
 でも、仕方ないよな……。
 シアも渋々納得してくれたようだが……。

「そっか……無理言ってごめんね、稟くん」
「あ、いや、その……来週には、一緒に帰れるから……」
「……うん。楽しみにしてるね、稟くん♪」

 シアは最後には笑顔で教室を出て行った。
 ……結構、無理してたな……。
 ……それより、俺も早く教室を出よう。
 どうにも周りから賞賛と怒りの眼差しで見られている気がする。



「……商店街に来たら何か思い浮かぶかと思ったけど……決定的に欠けてるもの
 があったな」

 商店街をうろついていろんな店に入ってみて始めて気づいたものがあった。
 ……経験、か……。
 ま、手っ取り早くてお金もかからない方法は……俺が何か作れればいいんだが……。

「俺にはそう言ったスキルが無い」

 ……致命的?

「参ったな〜……」
「何が参ったの?」

 明らかに俺の言葉に対して聞き返してきた声の主を確認するため(声で確認する
までもないが)に振り返る。

「は〜ろ〜♪」
「亜沙先輩。どうしたんですか、こんな所で」
「……こんな所? それ、こっちのセリフなんだけど……?」
「へ?」
「だって、ここ……製菓材料売り場よ?」
「……スキルが無いって言ってるのに……」
「ん? 何のスキルが無いの?」
「いえ……」

 ……ん?
 ちょっと待てよ……亜沙先輩、お菓子作りも得意だったよな?

「あの亜沙先輩、教えてほしい事が……」
「ん? なになに? ボクでよければ何でも教えるよ♪ あ、でも……スリーサ
 イズはトップシークレットね♪」
「聞きませんって……そうじゃなくてですね、ケー……」
「ケー? ……なに?」
「え、えーっと……」

 言いかけて気付いた。
 亜沙先輩にこのことを言っていいのだろうか?
 この人の事だ、絶対に言いふらしてパーティにする。
 それだけは……今のところ避けたい。

「稟ちゃん?」
「……ケー……ケー……ケーキの美味しい店知らない、ですか?」
「……聞きたかったことって、ホントにそれ?」
「は、はい……」
「……ま、いっか。ボクのオススメはね〜……」



「た、ただいま〜……」
「稟君!? こんな時間までどうしたんですか?」

 帰ってきた時間が夕食時を過ぎていたせいか、楓はかなり心配したようだ。

「あ、あはは……聞く質問間違えて長々と……」
「……はい?」
「あ、いや、気にしないでくれ」

 靴を脱いでとりあえず着替えるために部屋に戻る。

「あの、ご飯はどうしましょう?」
「あぁ、降りてきたらすぐに食べるよ」



 部屋に戻って制服を脱ぐ。
 ふと、数字が並んでいるものに目をやる。

「……もう、あまり時間もないよな」

 最悪、明日にでも決めるか。
 あの二人への……。



 で、また翌日。
 散々歩き回った末、俺は駅で一休みする事にした。
 まったく持って決まらない。

「参ったな〜……」

 ……なんか、昨日も言ったな、このセリフ。
 とにかく、それだけ決め兼ねているのだ。
 なんとなく周囲をゆっくり眺めてみる。
 すると、なぜかあの場所が目に止まった。

「……待てよ?」

 あそこなら、あの二人に合う物があるんじゃないか?
 そう思うのが早いか、俺はその場所へ向って走り出していた。



 私の家のカレンダーを見て、時計を見てみる。
 今日は7月29日。
 時間は23:00を過ぎたとこ。
 いつもなら、もう寝てるけど……。

「なんか、眠れないなぁ〜……」
「最近この時間になっても寝てないじゃん」

 鏡に映る私が私に話し掛けてくる。
 彼女は私の妹、名前はキキョウちゃん。
 この娘の名前は私達が大好きな稟君につけてもらったの。

「……やっぱり、稟の事?」
「うん……私、嫌われちゃったかな?」
「それは無いんじゃない? 稟、理由もなしに人の事嫌わないでしょうし」
「でも……」

 Trrrrr……!

 私が言いかけたとき、私の携帯が鳴りました。
 ……こんな時間に? なんて疑問もあったけど、ディスプレイを見たとき、そ
んな疑問は吹っ飛んじゃいました。

「稟君からだ!」
「早く出てみたら?」
「うん!」

通話ボタンを押して耳にあてる。

「もしもし、稟くん?」
――あぁ。わりぃな、こんな時間に。もしかして、寝てた?
「うぅん、心配しなくていいよ」
「そうそう。シアったら、最近全然寝てなかったのよ〜♪」
――え、そうなのか?
「もうっ! キキョウちゃん! それは言わないでよ!」
――あ、もしかして……俺のせいか?
「あ、ち、違うの……!」
――あ、まぁ、今日はその事に関しても謝りたいと思ってたんだ。それで、あの
……こんな時間に電話しといてなんだけどさ、1時間後に団地の公園に来れるか?
「え……う〜ん……うん、なんとかするっす。待っててね、稟くん」
――あぁ、じゃ、待ってるよ。

 稟君の声が聞こえなくなる。
 それと同時に、私の胸の中に安心がじんわりと広がっていく。

「よかった……」
「だから言ったでしょ? 大丈夫だって♪」
「うん。でも、どうしよっか?」
「あぁ〜……お父さんでしょ? 面倒よね〜」
「「はぁ〜……」」

 でも、稟くんからのお誘いっす!
 お父さんを殴り倒してでも向うっす!



 シアと約束した時間まで後10分。
 俺は公園の団地のブランコに座ってシアを待つ。
 あまり早くこられても困るけど、来てくれないともっと困る。
 ……今考えたら、神王のおじさんが障害物か。
 あのおじさんがこんな時間に溺愛している娘を一人で外に出すわけないよな、近
くでも。
 でも、そんな心配も無用に終わったのそれから5分後の事だ。

「稟君、お待たせ!」
「いや、待ってないぞ。時間より早いくらいだ」

 ま、ちょっと困った事になったけど、5分くらいならいっか。

「……ちょっと、話さないか?」

 隣のブランコに座るように勧める。
 シアは嬉しそうにブランコに座る。

「なんか、久しぶりだな〜。稟君とこうやってゆっくりお話するの」
「はは、そうだな。悪いな、なんか避けるような真似して」
「うぅん。あ、でも、私、稟君に嫌われたわけじゃないんだよね?」
「それは安心してくれ。俺がシアを嫌いになることはありえないから」
「それ聞いてすごく安心した」
「でも、そうした理由を、あたし達は聞きたいで〜す!」
「あぁ、それは……」

 公園にある時計に目を向ける。
 時計の針は12:00を指していた。
 ……時間だな。

「シア。手出して」
「?」

 シアは小首を傾げながら両手を前に出す。
 俺はシアの手にある花の小鉢を乗せる。

「これって……」
「シアとキキョウに誕生日プレゼントだよ。誕生日、おめでとう」
「……稟君、私達の誕生日、知らないと思ってた」
「明日、じゃなくて、もう今日だよな。今日の午後には、どうせ神王のおじさん
 が盛大なパーティするだろ? そこでだと、ちゃんと渡しにくくて。少しだけフ
 ライング」

 俺は静かにシアを抱き寄せる。

「稟君……」
「俺にできることなんて、これくらいしかないけど、今と、パーティの時に目一
 杯祝福してやるから。二人とも、これで勘弁してくれ」
「充分すぎるプレゼントっす♪」
「やっぱり、あたし達が好きになったナイト様は本物だったね」

 俺はしばらくシアとキキョウを抱きしめ、手を繋いで家に戻った。
 午後にはうるさくなるだろうけど、みんな心から祝福するさ。
 誕生日、おめでとう、シア、キキョウ。


む……。経験不足でお花ですか……。
さすがは稟くん、素質が高いというわけですね? くきーっ!(ぇ

いや、二人(もとい三人)で誕生日の日を迎えるなんて、羨まし経験をしてみたいものです。
……くきーっ!(マタカイ

な、なんとかお誕生日当日に公開が間に合ったようで良かったです。(汗


<<Comment by けもりん>>


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