こんこん。
「エリスー、昼ごはんだぞー」
「あ、はーい。今行くねー」
「おう」
エリスの返事を聞いて階段を降りる。
もうすぐ新しい絵画展。
今日は日曜日なのでエリスはそれに向けて最後の仕上げをするため部屋で仕上げているところだ。
正直、エリスの絵の才能はとどまるところを知らない、とも言わんばかりに上達していく。
実際、ほとんど俺が技術指導をしたことがないのだ。
あるとしても、ちょっとした俺なりの「こうしたほうがいいんじゃない?」的な意見を言うことはあるだけだ。
絵を描いているときのエリスを見ていて、
『俺が先生やってていいんか?』みたいにヘコむこともあったりするのだがこれは誰にも言わないことにしている。
・・・だってなんか悔しいじゃんか。
まあ、それはいいとして。
今のエリスの実力なら。
優勝はできなくても、絶対にいいところまでは行く。
俺はそう確信していた。
人気ゲーム投票 7月度 SS
あなたの大きな、優しい手
-Do you have any
belief in gods?.-
written
by woody
last
updated 2004/07/01
「うーん、やっぱりお兄ちゃんのご飯は最高ー♪」
「そうか?」
「うんっ!やっぱり愛の力かなぁ?」
「・・・聞くな、アホ」
「うーん、おいしいー♪」
「そんなにうまいか?」
「うん!霧お姉ちゃんのもおいしいけど、やっぱり・・・ね」
「そうか・・・ん?」
さっきから人間ポリバケツなはずのエリスがあまりにも食の進みが遅い。
「どうした、食欲ないのか?」
「え?ううん、そんなことないよ」
とは言うものの、やっぱりどこか上の空だ。
「・・・エリス」
「え、なに?」
俺は立ち上がって、エリスの額に手を乗せる。
「あ・・・お兄ちゃん・・・?」
「やっぱりな」
想像したとおりなかなかの高熱っぷりだ。
「えへへ・・・バレちゃった」
「ったく・・・こんなになるまで根を詰めるなよな」
「だってさぁ・・・」
「まあ、気持ちはわからなくもないがな」
俺はタオルをキッチンで濡らしながら、
「今日はおとなしく寝とけよ」
「えー!?まだお昼だよ?」
「アホ、それで本番の日にぶっ倒れてたら意味が無いだろうが」
「うー・・・わかった」
「わかったらとっとと部屋に帰って寝た寝た」
「はーい・・・ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
薬箱から風邪薬を探しながらエリスの呼びかけに答える。
「・・・看病、してくれる?」
少し不安げなエリスの声。
「・・・俺がいま何をしているかわかるか?」
「うん・・・お薬探してる」
「なら安心して寝てな。ちゃんと行ってやるから」
「うん、いつまでも待ってるからね」
そういって少し足がおぼつきながらも階段を上がって行った。
「ったく・・・どこでああいうのを覚えてくるんだか・・・おっと、薬、薬っと」
「エリスー、入るぞー」
ひょっとしたら寝てるかも、と思ったが一応断ってドアを開ける。
ベッドの上でエリスは多少息を荒くして寝ていた。
「おいおい、大丈夫かよ・・・」
早速エリスの額に濡れタオルを乗せる。
すると、エリスが目を覚ましたらしく、目を開いてこっちを見た。
「お兄ちゃん・・・来てくれたんだね・・・」
「当たり前だろうが。約束しただろう?」
「うん、そうだね・・・」
「薬、飲むか?」
「うん・・・もらう」
「よし」
エリスに錠剤の風邪薬を渡す。
パキッと封が割れ、錠剤がエリスの口に放り込まれる。
「ほい、水」
「ん」
こくり、とエリスの喉が音を立てる。
「よし、これで大丈夫だろ」
「うん・・・できれば口移しがよかったんだけどなぁ」
「風邪はひいてもそういう事は言えるのな、お前って」
「えー、ホントなのにー・・・」
と、口ではいつも通りなことを言っていても目の焦点がやはり合っていないようだ。
「・・・もういいから寝てろ」
「うん・・・」
エリスは素直にベッドの中に再び入った。
「少しだけ・・・」
「え?」
「寝るまででいいから・・・手、繋いでくれる?」
いつもとは違う・・・どこか弱々しいような、すがるようなエリスの目。
それは、昔を見ているようで。
俺は何も言わずエリスの手を握った。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「なんかさ・・・懐かしいね」
「え?」
「こうして・・・お兄ちゃんと手を繋いで、お兄ちゃんに看病されて・・・お兄ちゃんの絵を眺めて・・・」
「・・・そうだな」
「あの時はね、ホントに嬉しかったよ」
エリスの心から嬉しいと言わんばかりの笑み。
「毎日毎日、私の所に来てくれて・・・ずっと手を繋いでてくれたよね・・・」
「お兄ちゃんの大きくて優しい手が私を助けてくれたの」
「それは今でも変わらないよ・・・今、こうして私の隣でお兄ちゃんがそばにいてくれてる・・・」
「止まってしまった私の心を、お兄ちゃんは癒してくれたんだよ・・・」
まっすぐ、ただ俺だけを見ているエリス。
「・・・俺はそんな大それたことをしたつもりはないぞ」
「お兄ちゃんには小さなことかもしれないけど、私にとっては大きなことなんだよ」
「すっごく、すっごく大きなこと・・・」
きゅっ、とエリスの手が強く俺の手を握りしめる。
「だから・・・これからも、そばにいてね・・・」
「お兄ちゃんが私の悲しみを溶かしてくれたように」
「私もお兄ちゃんが感じた楽しい事、悲しい事を一緒に感じたいから・・・」
「だから、ずっと私の手を握っていてね・・・」
エリスの瞳からはいつのまにか涙が流れていた。
「エリス・・・」
「お願い・・・お兄ちゃん・・・」
そして次に聞こえてきたのは。
「スー・・・スー・・・」
俺は苦笑いをする他なかった。
そしてエリスの、俺との思い出を大切にしてくれていることに素直に嬉しかった。
「そうだな・・・」
俺は寝ているエリスに静かに
答えた。
「お前が俺を必要としなくなるまで、俺はお前のそばにいるよ」
はっ、と身を起こす。
窓の外はすでに真っ暗。
どうやら俺もエリスの手を握りつつ寝てしまったようだ。
「どれどれ・・・」
エリスの額に手をやる。
「よし、だいぶ下がったみたいだな」
「そうだね」
「お前、起きてたのか」
「うん、たった今」
「よかったな、熱が下がって」
「うん、やっぱりお兄ちゃんの愛の力は強いね」
「風邪をひこうがひくまいがその危険思想は治らんな」
「えー?なんで危険思想なのよー」
ぷーっ、と頬をふくらますが、すぐに顔をほころばせ、
「ぷっ、あははっ」
「ははっ、だいぶ元気になったみたいだな」
「うん、看病してくれてありがとうね、お兄ちゃん」
「ああ、でも油断するなよ?」
「うん、その言葉に従って今日は病人らしくおとなしく寝ることにしますっ」
「ああ、そのほうがいいな」
そういってすっかり煖まった濡れタオルを手に取り、
「じゃあおかゆでも作ってきてやるよ」
「うん、とびきりおいしいのがいいな」
「いつも通りしか出来ないぞ」
「それがわたしにとってはとびきりおいしい料理なの!」
「へいへい」
エリスの部屋を出るとき、不意に聞こえた言葉。
「私は・・・これからもずっとお兄ちゃんのことを必要としてるんだからね」
あのとき起きて聞いていたのだろうか。
それはアイツにしかわからないけど。
俺は聞いていない振りをした。
だけどいずれ、その答えを出すから。
全てが片付くまで、待っててほしい。
それまではこのただの従兄妹という関係のままでいてほしい。
だから、それまで--------------。
〜あとがき〜
第1回人気ゲーム投票選出タイトルは「canvas2〜茜色のパレット〜」でした。
ほのぼのを目指したのですが、
なんですかこれは。
ごめんなさい!ホントだめだめだよ私!
つーことでかなり微妙な出来となりました。
まだ調子が戻っていない、っつーことでお許しを・・・ダメ?
お兄ちゃん、戻るんだよっ