「あーさーくーらーせんぱーいっ」

「んあ?」

本日は土曜日。

わが風見学園は第2、4土曜日以外は学校がある。

だか俺にとっては睡眠時間のほかの何物でもない。

そんなかったるい授業も終わり帰ろうとした矢先、門の前で誰かに呼び止められた。

「朝倉先輩っ」

「おお、美春か」

「はいっ、美春ですっ!今日もご機嫌うるわしゅー!」

「ま、まあな」

あいかわらずテンションの高さは変わらない。

「で、どうした?」

「はい?」

「いや、はい?って・・・なんか用事があったんじゃなかったのか?」

「・・・」

「・・・」

「・・・あっ」

「いや、遅っ!」

「あのー・・・それが、えーと・・・」

「で、なんだ?」

「・・・なんで呼んだのか忘れてしまって、たはは」

「・・・」

かったりぃ。

「思い出したら連絡くれ」

「はわわ〜っ、待っててくれないんですか〜っ!?」

「あいにく今日はそんなヒマがない」

「あーっ!」

「な、なんだよ」

「むぉしかしてぇ、白河先輩とこの後デ・エ・トなんですかぁー?」

「ギクッ」

「ををー!昭和を思わせるリアクション!」

「・・・そんなツッコミは入れんでいい」








   「もしも」シリーズ
  メカことり、あったら我が家に一台ほしいですSS




                         未だ見ぬ景色、貴方と



                                                             written by woody











「そっかー、デートなんですかー」

「まだ何も言ってない」

「ギクッ、とかいった時点で先輩の負けです」

「・・・はい」

「あ」

「?・・・なんだよ」

「思い出しました!先輩を呼んだ理由!」

「おお、そうか。でかした!で?」

「はい!白河先輩が『今日、忘れないでね♪』だそうです!」

「・・・それだけ?」

「はい!いやー、思い出せてよかったです!まだ美春は若年性痴呆症ではないということが証明・・・いたた!」

・・・つい反射的に美春のほっぺたをつねる。

どっかの「すかいなんたら」とかいうレストランの店員みたいに。うがーっ。

「このやろっ、このやろっ」

もちろん良心もシステム作動していてパワーリミッターはついている。

「痛いですよー、せっかく伝えたのにー・・・うぅ、美春は汚されました・・・」

「人聞きの悪い事を言うなっ!」

「それにしても・・・」

「ん?」

「幸せ、ですね。朝倉先輩」

「・・・まぁな」

「うらやましいですねー、わたしも幸せがほしいなぁっ」

「応援してるよ」


「子供のころからの夢は終わってしまいましたけどね(ぼそ)」


なにか美春がつぶやくように言った。

「わり、聞こえなかった。もっかい言って」

「いやぁ、夢は儚いものだなぁ、と。にゃっはっは」

美春の顔はどこか遠くを見るようだった。

「おっと、そろそろ行かないとことりが怒っちまうからな」

「あ、はい。アデューです!先輩」

「おう!じゃーな」






「ごめん、ちょっと遅れた」

「もう!遅いですよ純一君!」

「ごめんってば」

「もう遅れないでくださいね」

「おう。任せろ」

「説得力に欠けるなぁ・・・」

「・・・ひど」

「さ、行こ♪」

「・・・で、どこ行くのかそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」

いつもなら俺とことりで2人で行き先を決めることが多いのだが今日はことりが行きたい所があるという。

「ついてくればわかるよっ♪」



「しかし、寒くなったな」

「ねー」

「手袋もそろそろ必要かな」

「・・・」

「どうした?ことり」

「手袋は必要ないんじゃない?」

「なんで?」

「去年の私の手は暖かかったなー」

「・・・」

「今年も寒いなー♪」

「・・・」

ああ。

そういうことか。

「ずっと待ってるんだけどなー」

「・・・おまたせ」

そういって去年と同じ言葉を掛けつつことりの手を握る。

「待ってました!」







途中で話を交えつつ。

ゆっくり、ゆっくり歩く。





そうして桜公園をつっきり。

海が一望できる高台に着いた。






「ここ、か?」

「うん!」

ひゅおー。

「・・・寒いな」

しかもいつのまにかちょっと陽が暮れ気味。

「・・・うん、ちょっと計算ミス」

「で、なんでことりはここに来たかったの?」

そう聞いたがことりは答えようとせず、ずっと腕時計をにらんでいる。

「ことり?」

「・・・うん、そろそろ」

「なにが?」

「いいから見てて」

そういって海のほうを一緒に見せようとする。

しかし、どんどん気温は下がっていく。

「寒いんですけど」

そう訴えようとしたそのときだった。







今まで何気なく立っていたその世界は



瞬く間にその色を変えた。



それはかつて見た事のない世界。



海と空。



二つの異なったモノが幻想の世界を思わせる色のハーモニーを創り上げていく。



夕焼けに染まるオレンジ色。



さきほどまで青々と空を映していたセルリアンブルー。



夜と夕暮れの混じるときに空に現れる紫。



それらが見事に絡んで『海』と『空』の2つのキャンパスを染め上げていった。







「・・・綺麗」

「ホント、だな」

俺はしばらく声もでないほどにその自然の色の造形物にみとれていた。

ことりもおんなじ様子。

声を出す事さえためらわれたその景色に2人は寒さも忘れしばらく見入っていた。





そして数分にも満たないショーが終わり。

あたりはあっという間に暗闇に覆われた。

2人は何も言わずに帰り道を歩いている。

「あの景色、ね」

「ん?」

ようやくことりが口を開いた。

「写真で1度見たの」

「あの現象は気候とか海流とかの関係で1年に1度っきりなんだって」

「へー、普通の夕暮れとは明らかに違っていたもんな」

「そのときの写真を見てからずっと夢見てたの」

「なにを?」

ことりは一呼吸おいた後、

「いつか世界で一番大切な人とこの景色を見たい、って」

「・・・そっか」

「だから私、いますっごく幸せだよ」

「俺もだ」

「ありがとう、俺もすごく幸せだ」

「うん♪」

「また来年も来ようね」

「そうだな」

「でも」

「ん?」

「来年はもっと厚着して来ようね」

「それ、激しく同感」

「うー、寒い」

「そら、もっとこっちにきな」

「きゃっ」

そういって俺のオーバーコートごとことりを覆った。

「歩きにくいね・・・」

「俺はそれでもいいけどな」

「・・・私も」





秋も終わりをつげようとする11月。

寒空の下、空と海はひとつの奇跡を起こした。

それを見守った2人は。

町内でも有名なバカップル、として後世まで語り継がれた。




〜あとがき〜

悪い癖ー。悪い癖ー。
なんで最後でオチつけちゃうかなー、と自分を責めてみたり。
題名、今回もいろいろ考えました。
「恋人岬」とかつけてもよかったんですけどそれだと20年ぐらい前の歌でありそうだからやめました(笑)



                           朝倉先輩ーっ、戻っとぅわー(意味不明)