「ふう・・・」
私は読んでいた本を閉じる。
時刻は夜の10時をまわっている。
かなり集中して読んでいたようだ。
伸びをしてベッドに身を投げ出し寝転がる。
「初音島、か・・・」
こういう時、よく故郷である島を思い出す。
さくら、美春、眞子。
そして・・・。
「兄さん・・・」
────今、何してるのかな。
もう私なんて忘れて彼女とか作ったりしてるのかな・・・。
・・・。
こんなことを考える自分が悲しくなって思わずうつぶせになり枕に顔をうずめる。
「はあ・・・」
やっぱり、ちょっとさびしいな・・・。
なぜか落ち着かなくなり、私はおもむろに自分の机を開けいろいろとあさりはじめた。
短すぎっ!なSS
『スピーカーの前の君へ』
-Absence makes the
heart grow fonder.-
written
by woody
last
updated 2004/03/19
がさがさ。
「・・・あ、子供の時に壊しちゃったキーホルダーだ」
がさがさ。
「・・・これ、風見学園の音楽会のパンフレットじゃないの」
私は物持ちがよほどいいらしく、本当にどうでもいいようなものまで出てくる。
「・・・あれ、これって」
小学校のとき誕生日で美春にもらったバースデーカードだ。
ちょっと皺がついてしまっているカードを久しぶりに開ける。
美春らしい女の子の文字でカラフルにいっぱい書いてある。
『大好きな音夢センパイへ♪』
こうやって改めて見ると恥ずかしい感じがする。
でも、私にとって大切な宝物に違いない。
もう皺がつかないようにもっと丁寧にとっておこう。
---------こうしていろいろ見ていたらいつのまにか心が暖かくなっていた。
「ふう・・・」
しばらく経って、また時計を見てみる。
「けっこう時間たったなー」
そこにふと目に飛び込んだ小さなラジオ。
中学のとき兄さんが最初聞いていて私も兄さんの隣で聞くようになった。
だけど、最近は看護学校の仕事などに追われてまったく聞かなくなってしまった。
ちょうど兄さんと一緒によく聞いていた番組がそろそろはじまる時間になる。
「あの番組まだやってんのかなー・・・」
周波数を合わせる。
ラジオはしばらくノイズ音が鳴った後、ノイズが消え音楽が流れ出した。
♪〜♪
・・・。
『はい、ということでrinoさんでDream 〜 the ally of 〜でした』
「あっ」
歌が流れ終わった後のパーソナリティの声は昔と変わってなかった。
「この番組、変わってないんだ・・・」
なんか嬉しかった。
『この歌はあまり有名ではないんですが大好きな歌なんです』
『さて、ここでリスナーさんからのおはがきをひとつ紹介します』
私はここのコーナーが好き。
このコーナーのテーマは自分たちで決める。
だから、告白する人がいたり、笑い話を言う人もいる。
兄さんは笑い話以外は興味がないらしく、恋愛話のときは退屈そうにする。
『えーと、初音島の方ですね』
「えっ」
おもわず声を上げる。
いきなり私の故郷の島の名前がラジオからきこえてくるとは思わなかった。
私の知り合いだったりして。
『テーマは「一番大好きな人へ」だそうです。』
『元気にしてますか?僕はなんとか学園でやってます。』
『体に気を付けていますか?もともと体が弱いあなたのことですから多少は無理してるかもしれませんね。』
どきん。
なぜか心臓がはねた。
『看護士という夢に向かって歩いていますか?』
『自分の意思で決めた道なのですから、それを目指しているあなたを僕は影ながら応援しています。』
心臓の鼓動が止まらない。
どうしてだろう。
誰が書いた手紙かもわからないのに。
『ご飯を作る練習はしましたか?』
「えっ・・・」
『次に帰ってきた時あなたが上達している事を切実に祈ってます』
くすっ。
心臓はドキドキいってるのになぜか笑ってしまった。
『このラジオを昔あなたと一緒に聴いていたことを覚えていますか?』
『昔は隣で一緒に聴いていたあなたが今は隣にいないのでちょっとだけ寂しいです。』
・・・。
『このラジオをあなたが聴いていないかもしれません。』
『だから、僕がどんなにあなたに想いをこうやって伝えても届かないかもしれません。』
『ですが、私はいつでもあなたが幸せになれることを祈っています。』
『少しだけ負けたくなったら無理をせず一歩引いてみるも大切です。』
『一歩後退してまた進むことによって人は強くなっていくのだと思います。』
『あなたが帰ってきたときに、一段と強くなったあなたを見るのを楽しみにしております。』
『あなたが目指している看護士という夢にたどり着けるようこれからも頑張ってください。』
・・・。
言葉がでなかった。
私は名前の所が流れるのを息が詰まるような思いで待った。
その時間は一瞬であったはずなのに。
私にはとても、とても長かった。
これをもしあの人が書いているのだとしたら--------。
このメッセージの宛て先が「私」だったら・・・。
『えーと、初音島の、ペンネーム・・・』
『「出来損ないの魔法使い」さん』
ぽたっ。
涙が止まらなかった。
あれほど私を想ってくれていたなんて。
私、前から知ってたもん。
兄さんの魔法。
私と兄さんの心はずっとひとつだったから。
兄さんは和菓子を創り出せて、人の夢も見る事ができる。
でも、兄さんはもうひとつ魔法を私にかけた。
一生モノの「恋」っていう魔法。
私にかけられたこの魔法は一生解けない。
いままでも、これからも。
『どうやら恋人にあてた応援メッセージのようですね。』
『この「出来損ないの魔法使い」さんが彼女が聞いていないかもしれないのに思い切っておはがきを送ってくれたようです』
『それでは今日最後の曲です。』
『「出来損ないの魔法使い」さんのリクエスト、19で『スピーカーの前の君へ』です。どうぞ。』
ということはハガキを送ったのは今日だけらしい。
やっぱり、これをただの偶然だと思いたくない。
ふふっ、明日の夜は思い切って電話でも掛けてやろうかな。
結局、ラジオでも言ってくれなかった『好き』って言葉と一緒に。
今日はぐっすり寝られそうだ。
心から大好きな「あの人」の優しい笑顔に包まれて。
ラジオからは女の人が詩を優しくささやくように読み上げていた。
『はい、19の『スピーカーの前の君へ』でした。この詩は聞いていて思わず泣いてしまいますよね。』
『あ、そういえば初音島といえば桜が散らない島として有名でしたねー。私も一度行ってみたかったです。』
『それでは、今日はこの辺で。』
『グリーングリーンでした。』
〜あとがき〜
『スピーカーの前の君へ』というのは19のアルバム「音楽」に収録されています。
ちょっと326が伝えたかったこととはニュアンスが違いますけど(汗)
ちなみに詩を読んでいるのは島本須美さんという声優さん(風の谷のナウシカ:ナウシカ役)だそうです。
それから「dream 〜the ally of〜」はダ・カーポの曲で一番好きな曲なのです。
めちゃくちゃいい歌ですよー。
あと、このラジオはグリグリのゲームをやっている方なら分かると思いますー。
つーか微妙にネタバレ?
兄さん・・・おやすみなさい・・・