「兄さーん、早く行くよー」
「おう、すぐ行く」
「早く早くー♪」
「待てと言うとろーが」
「だってー・・・楽しみなんだもん」
「ったく・・・」
春。
音夢は春休みで帰ってきていた。
そして俺も見事落第を迎えることなく春休みをエンジョイしていた。
なにより・・・
「ねー、まだなの?」
「やかましい!!弁当を俺に作らせるほうが悪い!!」
「だから私が作ってあげるって言ったのに・・・」
「いや、やっぱ俺が作る。ホント手伝わなくていいからな」
「むー・・・」
こんな穏やかな会話が音夢とできることが何より嬉しかった。
春ですねぇ・・・SS
春落葉〜fluffy flower〜
-Cherry blossom
bloom in whole island.-
written
by woody
last
updated 2004/04/03
あたり一面に桜の花びらの絨毯が広がっている。
その上を俺たちは一歩一歩踏みしめて行く。
俺たちが向かう先には桜公園。
「おっはなみ、おっはなみ♪」
「ゴキゲンだな、音夢」
「当たり前だよぉ、兄さんは楽しみじゃなかったの?」
「まあ・・・そりゃ楽しみだったけどな」
「でしょ?だったらこう言うときは素直に楽しんでおくものなの!」
「へーい」
以前は春夏秋冬いつの季節にも桜が咲いていたのでお花見をすることがあまりなかった。
だが、この桜が散るようになってからは普通と同じように春だけに咲くようになった。
それだけにいろいろとこの桜には感慨深いものがあった。
そう思っていた時に、
『ねぇ、兄さん?』
『ん?』
『明日かなんかお花見行かない?』
『お花見?』
『うん』
音夢にとってもいろいろと思うところがあるのだろう。
俺は即オッケーした。
『んじゃ、美春たちも誘っておくのか?』
『え?うーん・・・それもいいけど・・・』
『あ?』
『たまには二人で行きたいなぁ、なーんて』
そんな会話があった。
そして今に至る。
「しかし、こうして見ると意外と桜も風流だな」
「昔から綺麗だったじゃない」
「いやあ、なんつーか・・・昔は当たり前過ぎてたというか・・・」
「うーん・・・そんなものなのかな」
「そんなもんだ」
「でも兄さんが『風流』なんて言葉を使うと思わなかったよ」
「・・・それは皮肉か?」
「もちろん♪」
「んだとコルァ!」
「きゃっ!逃げろぉ♪」
「い、いや!ホントに待て!くっ、弁当が重くて走れん・・・」
・・・多少頑張りすぎてしまったようだ。
そして桜公園の門をくぐる。
俺の通学路である桜並木以上に桜が咲き誇っていた。
風に乗って花びらが舞っていくその様子はまさしく"桜の雨"と表現するに相応しかった。
「すごいね・・・」
「うーん・・・やっぱ改めて見るとなかなかいいもんだ」
「兄さん!早く行こっ!」
「お、おい、腕を引っ張るなって」
「場所どこにする?」
「音夢が決めていいぞ」
「うーんとねぇ・・・あそこ!」
音夢が指差した先には桜に囲まれたお花見にちょうどいい、そんな場所があった。
「おお、なんとご都合主義な」
「なに言ってるの?早くシート敷こう?」
読者の感情を代弁しただけなのに。
おそらく誰もが運動会とお花見時期に一番よく目にするであろう青いシートを敷く。
そして速攻でそこに突っ伏せる。
「あ゛ー、腰いってぇ・・・」
背骨をひねるとバキボキと鳴った。
「はいはい、お疲れ様」
そういいながら音夢が肩をもんでくれた。
きゅっきゅっ、と心地いいリズムで肩の疲れが緩んでいく。
「昔兄さんが私の肩揉んでくれたの覚えてる?」
「そういやあったな・・・妙に色っぽかったなお前」
「な!?そんなことは覚えてなくていいんです!!」
ぎゅうっ、と肩に一気に力が入る。
「イテェ!!?」
「あっ、ごめん」
「あーもういいから飯食おうぜ」
「あ、うんそうだね」
苦労して持ってきた弁当を袋から出す。
「兄さん・・・ちゃんと食べれるもの作ったよね?」
「当たり前だ。あんな早く起きて食えない物作ってたら相当バカだ」
「兄さんならやりかねないんだもん」
「ちょっと待てコラ」
「冗談ですよっ」
「目が笑ってないぞ音夢」
「さ、さーて開けるよ」
「おう、まあ驚け」
ぱかっ、と音夢がフタをあけた瞬間固まる。
「どうだ」
「兄さん・・・」
「ん?」
「これ・・・どこで買ってきたの?」
「失礼な。全て俺のお手製だ」
音夢がいない間に秘かに料理を練習していたのが今実ったというわけだ。
よく女の子が『好きな人においしいものを食べさせてあげたい』と言っていたのが今になってよく分かった感じだ。
「・・・ウソ」
「ふん、恐れいったか」
「・・・うう」
「はっはっは、天才とはこういう時に才能を発揮するものだ」
「・・・絶対負けないから」
「あん?」
「負けないからね!!」
「はいはい」
そういいながら音夢の頭を撫でる。
「楽しみにしてるからな」
「・・・え?」
「音夢が俺に世界一の料理を作ってくれるのをいつまでも待ってるからな」
音夢はすっかり意気消沈し、笑顔で、
「・・・うん」
と黙って俺の肩に頭を預け、この時間を過ごしていた。
弁当も食べ終わり、じっと二人で桜の花を見ていると。
「兄さん」
「ん?」
「桜、綺麗だね
「ああ」
「嬉しいな・・・」
「なんで?」
「だって・・・」
そういって俺の頬に軽くキスをして、
「こうして兄さんと二人だけで綺麗な風景を見てるんだもん」
「・・・そうだな」
そういって音夢を後ろから抱きしめる。
「いつか・・・」
「ん?」
「いつか・・・ずーっとこうやって一緒にいられるようになれたらいいね」
「ま、そのうちな」
「ホント?」
「そのうちな」
「ずっと一緒にいられるかな?」
「そのうちな」
「むー・・・濁さないでよ」
「そのうちな」
「・・・えいっ」
むにー、と俺のほっぺを左右に引っ張る。
「いへへへへへへ」
「あはは、変な顔ー」
「だえおへいあー!!(誰のせいだ)」
「あはははは!!」
「むぐー・・・」
そのとき、
「あれ?朝倉」
「はん?(あん)」
「なにやってんのよ、こんな所で」
「あれ、眞子」
眞子が立っていた。
「おはへほほはひひへふんは?(お前こそ何してるんだ)」
「・・・音夢、そろそろ手を離してやりなさい」
「え?あっ!」
音夢は顔を赤らめた。
「んで、眞子はなにしてんだ?こんな所で」
「ふふん」
「実はねー・・・」
「音夢先輩と朝倉先輩がお花見してるっていう情報を手にいれたんです!」
眞子の後ろから美春が現れた。
「「でも・・・」」
眞子と美春は顔を見合わせ、
「「お邪魔だったみたいねー」」
「そ、そんなことないよ・・・えっと、その」
音夢が慌てふためく。
俺は思わず軽く笑った。
「ははは」
「な、何がおかしいんですか?」
「眞子、美春」
「なに?」
「一緒にお花見するか?」
「うん!」
「じゃみんながあっちで用意してますので早く来てくださいねー」
そう言って美春と眞子は走って行った。
俺と音夢はお互い目を合わせ軽く笑いあった後、
「やっぱりみんなでお花見したほうがおもしろいよね」
「まあ、でもたまにはまた二人でお花見しような」
「あ、うん!!」
「音夢せんぱーい、朝倉せんぱーい!なにしてるんですかー!!早くー!!」
「おう、今行く!」
そう美春に返してみんなが待つ方へ。
------音夢の手をずっと握ったまま。
風が僕等の頬を撫でる。
そして空を見上げる。
上を見上げれば桜の花びらが流れるように散っていく。
途切れることなく、輝きを失うこともなく。
それは、まるで。
春に訪れた落葉を思わせるように----------。
〜あとがき〜
ゴメンナサイ。
ラブラブとかいっておいて思いっきりほのぼのでしたね。
でもお花見でラブラブもどうかな?と思って。
お花見行ってないなー、とか書きながら思ったり。
ちなみに「萌のみの丘」様に送るSSは違うやつです。
風が気持ちいいね、兄さん・・・