「朝倉、今年はドンチャン騒ぎ見せてくれるのか?」

そこそこ仲のいい同級生に悪態をつかれ、

「先輩、お願いですから仕事は増やさないでくださいね」

「へーへー、わかってますって」

美春関係で仲良くなった後輩の子に念を指され。


「ふっ!朝倉、いつもながら華麗ないなし方だな」

「うるへー、今日だけは寄るんじゃねぇ杉並」

「なにを言うか朝倉。俺はお前にも作戦完全遂行ミッションコンプリートのために一役・・・ぶはぁっ!」

「いいからだまらっしゃい。あと前みたいに俺を巻き添えくらわすのはやめれ」


そんな感じでとりあえず友に一発。


「ふう・・・」


なんかこのやりとりを何回もやった気がする。

む、「デジャヴー」ってヤツ?

・・・違うな。本当にやってるだけだ。

ひょんなことから杉並に一杯くわされ実行委員とバトってしまったイヤな思い出が頭によぎる。

そういや一昨年はその中にアイツもいたんだっけな・・・。

もうすぐ来るであろう誕生日にはプレゼントでも買っておこうか。

そう思って遠くの地で頑張ってる妹を改めてねぎらい、手にあるグラスを軽くかたむける。


ふと窓の外を見る。

少し曇った空と残り雪。

そんな情景を見るとまた冬がやってきたことを改めて実感する。

今年もとうとうやってきた。



あふれかえる生徒達の喧騒。


そしてステージから響くアナウンス。


「それでは、そろそろ始めたいと思います!───────」


今日は特別な日。


風見学園が歓喜と笑顔に染まる日。


マイクに通された司会の声で今年も始まる。


「やってきました!年に一度の!風見学園クリスマスパーティー!」











人気ゲーム投票12月度SS



                         Where the road divides

                        -today is annual happy day"St.Christmas eve"....-


                                                                written by woody
                                                             last updated 2004/12/01





「では、プログラムナンバー6。奇術同好会による──────」

なごやかに、それでいてにぎやかにパーティーは進んでいく。

しかし、俺の心はどこか落ち着かない。

我が最愛のことりの姿が見当たらないのだ。


『純一君、最初はちょっと一緒にいられないけど仕事は一緒にいようね!』


と、朝登校時に言われてしまったまま。

それ以来今日はことりに一切会っていないのだ。

だが、言われてしまったからこそ何も理由を聞けなかったのが気になる。

某サンデー推理少年ばりに推理ポーズをとってみる。


「朝倉せんぱいっ!なーにヒゲそってるんですか?」

「パーティーのど真ん中で誰がヒゲをそるかアホ」

「なんですかその言い草は!せっかく一人淋しそうな先輩を救ってあげたのに!」

「って美春じゃないか」

「あのー、誰だと思ってツッコんでたんでしょうかー?」

「いや、特に意識ナシ」

「もし暦先生だったらボコボコでしたよー?」

「恐ろしいことを言うでない。それに暦先生は死んでも俺に敬語使うような人じゃないから」

「あ、そういえばそうですね」

むしろそんな暦先生を見るほうがコワイ、とは間違っても言えない。なんせ希代の地獄耳だもん。

「あ、そうそう先輩」

「あん?」

家庭科部特製肉まんをほおばりながら返事する。



「白河先輩が今年もミスコンに出るみたいですね」



「んぐぅ!!?」

「あ、朝倉先輩!?どーしました!?」

「んぐ、んぐ・・・」


当然ながらのどに詰まらせ、息ができない。

「ああ、朝倉先輩!水!水!」

美春がペットボトルから透明の液体をコップに移し、俺に手渡す。ようやった美春。

ごく、ごく、ごく・・・。


「ぷはぁ」

「だ、大丈夫でしたか・・・?」

「ああ、ありが」

まで言ってなぜか肺に息が入らない。なんじゃこれは・・・。


「なんか、胸がいっぱいで・・・」

「え!もしかして美春の献身的態度に心打たれたということですか!ダメですダメです先輩にはことり先輩がいるじゃないですか!」


美春は真っ赤になりながらやたらと口が動く。


「いけませんそんな禁忌な恋はでも先輩が私でもいいのなら私はどこまでもお供いたしますいえお供させてくださいませ!」

「アホ!サイダー一気に飲んで息が出来なかっただけだ!」

「そんな!もう私のはかなき夢は終わりですか!?ダメです先輩もう一度グイッと一気飲みお願いします!」

「もうええわ!」



後ろで見ていたらしいさっちんの「漫才見てるみたい」を聞き、来年のパーティーに向けなぜか台本作りに燃えている奴が一人。

そんな熱くたぎった眼で燃える美春の首をつかんでさっちんはこちらに頭を下げた後去っていった。

うむ、できる子だあれは。



そんなさっちんの勇姿を見送った後、突然のブラックアウト。

そして、ステージに照らされるスポットライト。

古典的な照明効果で始まるのはもちろん、



「第3回!手芸部主催ミス風見学園コンテスト!司会は私、実行委員の天枷美春でお送りしますです!」

司会は将来の漫才脚本家だった。


「・・・いつのまに」

「いやー、私も出たかったんですがなんせ仕事が忙しくて!」


いや、聞いてないから始めなされ。


「では、早速スタートです!」



そして、十数人のドレスに身を包んだ女生徒がステージでまわる。

今年は質問係がが女の子(美春)ということもあって結構すごい質問にも答えてくれる。

そして・・・。


「では、最後の方の登場です!」

美春の情報が正しければここでことりが出てくるはずだが。

「本日飛び入り参加!現在2連覇と無敵を誇っているチャンピオン!三たび学園最強の歴史を塗り替えるのか!?」

リングアナか、お前は。


わーぱちぱちぱち。


俺のツッコミとは裏腹に、一気にオーディエンスボルテージが上がる。


「エントリーナンバー16!白河ことりさんですー!」

アマラントとビアンコのワンピースドレスだが、前のとはまた違ったデザイン。

また新しいことりの魅力を感じると共に、ことりの姿が少し遠くなった気がした。



「こんにちはー。よろしくお願いしますね!」

「おおっと、相変わらずすごい人気ですねぇ」

「ありがとうございます!」

「さて、白河さんといえば例の方なんですが、まだラブラブでいらっしゃるんですかー?」

「あは、去年も聞かれた気がするんですけどぉ、もちろんラブラブです!」

「おおっと、今度はすごいブーイングが!まるで暴動寸前のバスティーユ牢獄のようです!」

もし本当にここで革命が起きたらターゲットとなるのはもちろん俺だろうな・・・。

まさに首の絞まるような思いで震える手でサイダーをのどに通す。

「おっと、女性陣からも意外なブーイングが!これは白河さんへの挑戦状!?これについてどう思われますか!?」

え、なんで・・・?俺?

「一応言っておきますけど、私は誰にも譲るつもりはありませんからそのつもりでよろしくお願いしますね♪」

ことり・・・。

「おーっと!これはノロケられちゃいましたね!かーっ、照れる!」

オヤジかお前。


「では、最後になにかみなさんにメッセージ等ありましたらどぞっ!」

「そうですね・・・みなさん楽しいクリスマスをすごしてくださいね!」

「はい!ありがとうございました!白河さんはさぞ楽しいクリスマスを過ごされる事でしょう!」


なぜかやたらとステージから美春の視線を感じるのですが気のせいでしょうか・・・?こ、こらそんな目で見るな!


「では、集計が終了するまでごゆっくりご歓談くださいね!」


結婚式みたいなシメで美春の司会業が終了した。

これも漫才師としての第一歩だとしたらヤだな・・・。

そして10分後。

ことりの優勝が決定。なぜか3連覇のチャンピオンベルトが渡されていた。

ことりは苦笑しながらも握手で受け取った。



それからさらに30分ぐらいしてミスコン控え室である教室棟に向かう。

みんな体育館に集まっているので人はいない。

他の参加者が制服で体育館に戻ってきているのにことりの姿がないからだ。

もう着替えているだろうと思い少し心配で見にきてみた。

そして、『ミスコン控え室』の張り紙のあるドアの前へ。

軽くノックをしてみる。

すると「どうぞー」と、ことりが返事をした。



・・・は?

どうぞ?

「純一君でしょ?どうぞー」

「あ、ああ」


がちゃ、と扉を開けると。

そこにはいまだドレスに身を包んだままのことりがいた。

「ど、どうしたんだ?ことり」

「え?なにが?」

「いろいろ聞きたいことはあるけど・・・まずなんで俺だってわかったの?」

「絶対純一君だって思ったから」

「他の男だったらどーすんだよ・・・」

「大丈夫だよっ!私他の人と純一君の違いなんて目に見えなくてもわかるもん」

「そらすごい透視能力だ」

「でしょー、純一君限定だけどね」

と言って舌を出しおどけることり。

「ふたつめの質問。なんでミスコンに出たの?」

「んー、ちょっとドレス着たかったからかな」

「じゃあみっつめ。なんで着たかったの?」

「他の娘のドレス姿にだれかさんが移り気しないための対抗心?」

お互い笑いながらこんなやりとりは続く。

「最後にもうひとつ。なんで着替えてないんだ?」

「えー、ここまできてわからないかなぁ」

「え?」

突然ことりが俺の胸に飛び込んでくる。


「本当はあなただけに見てもらいたいからだよっ♪」


俺は何も言わずに胸の中にいる愛しい人をただ抱きしめた。



そのまましばらく経った後。


「えへへ、さすがにドレスは寒いね」

「あ、そうだな。着替えるだろ?外にでてるよ」

「えー?いてくれてもいいんだよ?」

「ことりのエッチ」

「あははっ冗談だよ!」

俺も思わずふき出し、

「はは、じゃあ扉の外で待ってるから」

「うん」

外面じゃあ平然としてたけど内心ドッキドキ。

あと、ああ言われたんだしどうせなら中に残ればよかった、とちょっぴり後悔?

そんなバカなことを思ってるうちに

「おまたせー」

「おう」

「緊張したら疲れちゃった」

「じゃあもう帰る?」

「そうしよっか。二人きりでいたいしね!」



昇降口で靴を履き替え外にでる。

耳を傾ければまだ騒がしい体育館の喧騒。

そして灰色の空に映える橙色の黄昏。

ちょっと歩いただけでも12月の寒さが顔や手にピリピリくる。

あまりの寒さにダッフルコートのポケットに手を入れるとすぐに潜ってくることりの手。

これも冬になるといつものこと。



ことりと一緒のいつもの帰り道、それはバス停の近くの曲がり角まで。

そんな10数分の短いクリスマスデート。

俺たちはできるだけゆっくり、ゆっくりと歩く。


途中いつも通る桜公園。

この聖なる夜の為にさまざまなイルミネーションが木々を照らす。

昨日まではなかったからどうやら今日の昼あたりにでも設置したのだろう。

赤、緑、白、黄色・・・さまざまな色の小さな光の集まりが人々に大きな感動を呼ぶ。

「綺麗・・・」

「ああ」

それは俺たちも同じ。

「こういう綺麗なイルミネーションが純一君と二人で見られるって幸せだよね」

「はは、去年もおんなじこと言ってたな」

「ぶー、ムードこわさないでよー」

「ごめんごめん」

そんな軽いやりとりを交わしつつも。

ゆっくりゆっくりと、春とはまた違った色で彩られた桜を見上げながら進む。


でも一歩一歩と少しずつ歩いていく。

それは出口に一歩ずつ近づいているということ。

本当に短いクリスマスデート。

顔は見てないけどことりもきっとうかない顔をしているんだろう。



そしてついに着いてしまった。

お互い声を発せずただうつむいているだけ。

ことりの手は繋がったまま。

でも顔を合わせられない。

顔を合わせたら言わなきゃいけないだろうから。

バスの時間も近づく。

そしてことりがとうとう、

「じゃあ、バスも来ちゃうし・・・そろそろ行くね」

「ああ」

「明日のデート楽しみにしてるね」

ああ、そういえば明日はデート行くんだった。

明日も会えるじゃないか。

何を不安に思う。

───そう自分に問う。

違う、そうじゃない。

数時間後に会えるとわかっていても。

その数時間の別れが惜しいだけ。



すっ、とことりの手が俺の手から抜ける。

右手の中にほのかに残ることりの左手のぬくもり。

それもどんどん冷えていく。

遠くむこうで聞こえてくるバスの音。

「じゃあね・・・」

「ああ・・・」



ことりが向こうを向き歩いていく。

近づくバスの音。

なぜか俺はただそれを見てるしかできなかった。

あたりはクリスマスライトの輝き。

だんだんと大きくなるバスのヘッドライト。

いろいろな光につつまれていくことりが遠く見えてならなかった。



バスが減速しだす。

ヘッドライトがことりを照らし出す。

そしてバスが静かに止まった。

だが、ことりは動かない。

バスは扉を閉め、そのまま道のむこうに去ってしまった。



「・・・ことり?」

「・・・えへへ」

ことりがこちらを向く。

その目にはうっすらと涙があった。

そして駆け出し、俺の中に飛び込む。

「あ、あのね」

「・・・」

「乗ろうか迷ってたらバスが行っちゃって・・・」

「その、淋しいから・・・次のバスが来るまで・・・一緒にいてもいいよね・・・?」

「・・・もちろん」

クリスマスデートはもう少しだけ続きそうだ。



そうしてさっきの公園へまた俺たちは歩き出す。



クリスマスナイト。

数多くの奇跡が生まれる、と数多くの恋人たちの伝説を残す夜。

そして、またここにも。


「・・・あ、雪」



色とりどりの世界にもうひとつ新しい色。

それは小さな島だからこその純白な白。

そして、イルミネーションがもっと輝く奇跡の「素」。

それはまるで、この公園にいる俺達の心にさらなる光を与えてくれるようで。


そして、隣にもその景色に劣らず瞬く俺の「光」。

ずっと笑顔で、そばにいてくれる愛しい人。

そしてつぶやく、「メリークリスマス。純一君」

だから俺も精一杯の気持ちを込めて、「メリークリスマス、ことり」



ことりと共に見たこの景色が、このクリスマスナイトが。

俺たちの思い出から消えることはないだろう───。

そう、そしてこの日を共に迎えるみんなに、


「メリークリスマス・・・」




〜あとがき〜
長っ!?あと、最後のセリフ甘っ!?
自分でも寒くなってきたかも・・・(笑)
つーことで今年最後のSSは「ダ・カーポ」SSでした。
別コーナーとしてあるにもかかわらずリクエストや票が多かったので選びました。
ヒロインは票数で多かったことり。
ラブラブでいこうとしたんですが、張り切りすぎて途中が長すぎてしまいました(汗)
ムダに美春のところが長いのに自分もびっくり。

このSSを最後に「heart beat players」は一時休止します。
3〜4月を目処に復帰を考えています。
4月からはもっとたくさん更新ができるようになりたいです。
それまでは今までの作品でお楽しみください。
では、また会いましょう!


                               戻りまーす