今日も一日が終わった。
学校へ行き、授業を受け、カフェテリアで楽しくくつろぐ。
そんな、ありふれた一日。
だけど、やっぱり何かが違う。
どこか上辺だけの生活。
一枚の紙の上で過ごすような生活。
そう感じてしまう。
そして時折見えるあの夢。
全ての人が消えゆく夢。
あれは俺のなんなのだろうか。
できれば忘れてしまいたい。
しかし、記憶の片隅で俺に激しく警鐘を鳴らすもう一人の俺がいる。

・・・そう思う俺は精神に問題があるんだろうか?

* * * * * * *

そんな風に眠気の襲来を待つためにいろいろな事を考えていると。
こんこん、とドアを叩く音。

「どうぞ」

ドアが開くとそこには茉理が。
・・・。

「・・・」

じゃなかった。
いや、茉理には変わりないんだけど。
さて、整理してみよう。
パジャマ。
これはいつも。
どこか浮かない顔。
これは珍しい。
んで枕。
・・・枕!?
このたったひとつのアイテムで俺は一瞬で茉理の行動を悟る。
そして、トドメにこの一言。

「・・・お兄ちゃん」

つまり、いつもならありえない茉理がそこにいた。








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under the moonlight

                           -Today's moon do move east too.-


                                                                written by woody
                                                             last updated 2004/09/01










とりあえずドア前に立つ茉理の現在の心境を探るべく、自分の中にある質問をぶつけてみる。

「なあ、茉理」

「なによ」

「どした?」

「今日はこんな気分だから」

「あ、あー・・・あ、そう」

俺はなんとも言いようがなくなり、納得の声を出してしまう。

「ねえ、直樹」

「ん?」

普段どおりの呼び名。
さっきのは一体なんだったのだろう。

「一緒に、寝ても・・・いい?」

「・・・は?」

いや、枕を持っている時点でわかっていたのだけれど。

「ちょっと・・・思うところがあっただけ」

相変わらず浮かない顔はさっきから変わらない。
あんまり茉理の落ちた顔は見ていたくない。

「・・・ふう」

「・・・直樹?」

「ほれ、入りな」

「・・・いいの?」

「枕持ってきてるくせに今更聞きなおすか?普通」

「・・・うん」



手暗がりな部屋。
その空間を照らすは白い月明かりだけ。
そんな閉塞された空間の中に俺と茉理がいる。
それは昔にもあったことなはずなのに。
なぜか心が落ち着かない。
なんなんだろう、この感情は。
やたらとアップビートにリズムを刻む胸の鼓動。


「・・・」

「・・・」

ただ音のない時間が続く。
一切の聴覚を感じさせないだけにその月光が一際強く感じる。

「あのね」

「ん?」

突然茉理が切り出した。

「私内緒で鳥を育ててたの」

「・・・・・・はぁ!?ここでか!?」

「バカね、違うわよ」

「じゃどこで」

「公園の草むらの中で」

「ああ、そうだよな。ビックリした」

「最初ちひろとその鳥を見つけた時、その鳥は怪我してた」

「羽根はボロボロで、体は傷だらけ」

「それでもその鳥は一生懸命飛ぼうとしてた」

「私急いでうちに持って帰ろうって思ったの」

「そしたらね、ちひろはこう言ったんだ」

「人間の家の温かさを一度でも知っちゃったらもう外では生きていけないよ、って」

「たしかに人間の家は住みやすいかもしれない」


茉理はそこまで言って一息ついた。


「でもね」

「やっぱり、鳥は大空を飛ぶから鳥なんだと思う」

「空を飛ぶために生まれてきたのだから、人間の思い込みで鳥の幸せを決め付けちゃいけないよ」

「花も同じ。花は咲くために生まれてきた。一生懸命咲くために生きてる。そんな姿が好きなの」

「私も花にしてあげてることは水をあげたり土を変えたりすることぐらい。花を咲かせるかは花たち次第」

「だから咲いた時はすごく嬉しいの。自分で生きようとして花が開くのを見るのが」

「この子もせめて手当てぐらいにしようね、って」

「私初めてだったかも。あんなにちひろに諭されるのって」

「・・・」

「だけどやっぱり気になっちゃって。次の日放課後急いでその鳥の所に行ったの」

「そしたらもうその鳥は飛べなくなってた・・・ううん、飛ぼうとしなかったのかもしれない」

「・・・」

「ちひろの言った事は正しいと思う。私もそれでよかったんだと思う」

「だけどやっぱりなんか悔しいよ・・・」


茉理は軽く目の涙をぬぐった。


「命ってさ、儚いよね」

「どんなに強い思いがそこにあっても、どんなに生きたいと強く願っても」

「いつかは消えてしまうんだもんね・・・」

茉理は俺の胸に顔を押しつけ、弱弱しく笑った。

「あはは、ごめんね変なこと言って」

「でも今日ぐらい我慢して。今日だけだから・・・」

そんな強がりな言葉でもどこか淋しい色を浮かべていた。



「茉理」

俺はそんな小さな茉理の背中を軽く抱きしめる。

「な、直樹・・・?」

「確かに命はいつかは消えゆくものだよ」

「だけどな」

「永遠じゃないから生き物は頑張って生きれるんだ」

「永遠に続くものなら一生懸命生きる必要ないだろ?」

茉理の頭を撫でると、細くて柔らかい髪が俺の手を滑る。

「永遠じゃないから、限りあるものだから。」

「消えゆくものもあれば生まれていくものもある。そうして俺たちは生きている」

「よく言うだろ?『別れは新しい出会いを生む』ってな」

「きっとその鳥もさ、新しい命としてお前と出会うのを楽しみにしてるよ」

「ちひろちゃんもそう言いたかったんじゃないのかな」


「・・・うん」

「よし、もう寝ろ。明日も学校あるんだから」

「・・・悔しいな」

「あん?」

「なんか悔しいよ」

「ん、なにがだよ?」

「・・・直樹にカッコいいこと言われちゃったから」

「なんだそれ?」

「いいの!ほら、クサいセリフに余韻感じてないで早く寝る!」

「感じてねぇっつの!それはお前じゃないのか?」

「う、うるさい!おやすみ!」

「ったく・・・」

俺は改めて布団をかぶる。

すると、小さな声で。


「直樹」


「なんだよ」


「おやすみ」


「あん?」


「・・・ちゃんと『おやすみ』って聞いてないよ。おやすみ」


「お、おう。おやすみ」


「・・・うん」




なんだかんだでさっきまで泣きそうだった顔がもう笑ってる。

この笑顔を見ているとさっきまでの俺の苦悩がゆっくりと、流れゆく川のように消えてゆく。

きっと明日にはまたいつもの調子だろう。

うるさくて優しい従妹の新しい出会いを願って。


改めて。


「おやすみ、茉理-------」





〜あとがき〜
お久しぶりのSSですー。
つーことで今月は「はにはに」より茉理SSでした。
ほなみんのラブラブも書きたかったんですけど、
ぶっちゃけラブラブってなかなかネタが難しいんですわ。
ここでちょっと一言。

「なんか、もういろいろとごめんなさいね」

悟ったようにえらそうな事言ってますな。
でも、ちと最近思ったことがあったので。
ぶっちゃけ「どこへ行くの、あの日」のSSも執筆予定。




                               直樹・・おにい、ちゃん・・・