「呉牛、月に喘ぐ」という言葉がある。

なにかを過度に恐れる、という意味なのだが。

人にはひとつやふたつは恐れている物がある。

例えばそれは動物であるとか、食べ物であるとかである。

そして、われらが相沢祐一にも弱点とも呼べるべき物が存在する。

数々の出来事を乗り越えてきた彼に怖い物などない、と彼を知る者は思っているだろう。

だが。

そこまで言わしめる彼にも苦手な物があった。

相沢祐一という人間はやはり只者ではなかった。

・・・いや、相沢家というべきか。

これは、そんな相沢祐一が恐怖に怯えるシーンを書きたいが一心で作成された極秘書類である。


                    著:相沢祐一に萌える会 東北支部長兼代表取締役

                                 美坂 香里










相沢母、登場SS



                         瓜の蔓に茄子はならぬ。

                           -It's yu-ichi's most fearful person.-


                                                                written by woody
                                                             last updated 2004/03/27







道にふりそそぐ太陽の光がすこしずつオレンジ色に変わりだした。

相沢祐一は帰宅部のため、学校が終わり次第速攻で帰途につく。

そうして今日も帰り道を一人で歩く。

「っくしょーい!!」

ぐずっ。

「っあ゛ー、なんだ?」

突然のクシャミ。

「ぶえ゛っくしょいっ!!」

ぐずずっ。

「なんだろ?風邪ひいてるわけじゃないのにな・・・」

「っくちょい!!ちきしょーめ」

「クシャミなんてな・・・縁起わりぃ・・・いや、待てよ」

ふとプラス方向に考えてみる。

「クシャミは誰かが噂してるっていうしな・・・」

うーん、と考え出す。

「たしか・・・クシャミ1回で悪い噂、2回でいい噂・・・」

「3回で・・・」

頭上に電球が光る。

「恋の噂か!?」

・・・相変わらず見ていて飽きない男である。

「うーむ・・・そいつ、いいセンスしてるな」

自分でいってりゃ世話はない。

「なーんて、そんなワケないしな」



しかし、先ほどのクシャミが何かの前兆であることに変わりはなかった。



「しっかし、さっきからイヤな寒気するのなんでだろう?」

ホント勘がいい男であった。



そうして居候先である水瀬家へ。

がちゃっ。

「ただいま帰りました、秋子さん」

「お帰りなさい、祐一さん」

「お帰り、祐」

「じゃ、行ってきます」

「って、ちょっと待ちなさいよ」

女性は祐一の頭を抱え込み、

「挨拶もせずにどっか行くような子に育てた覚えはないんだけどぉ?」

「・・・ゴメンナサイ、お母様」

そう祐一がいうと『お母様』と呼ばれた女性は腕を緩める。

「全く・・・あんた変わってないわね」

「母さんだって変わってないだろーが」

「当たり前じゃない。この齢でいきなり変わる方が怖いわよ」

「そらそーだ」

「んで、何しにきたんだ?」

「久しぶりに会った親に対して失礼ね」

「秋子さんに迷惑かけさせておいて何を言うか、この愚親が」

春那は現在アメリカ在住である。

「・・・愚親というのが気になるけど、ちょっと聞いてよ祐」

突然祐一に絡みつく祐一の母---春那。

「なんかあたしをおいてまた出張したのよ、あの飛行機バカは」

バカとは祐一の父---祐摩は国際航空会社のパイロットであり、世界中を飛び回っている。

「今週中に帰ってくるとか言ってたくせにおととい『帰れなくなった』ですって!さすがに頭来るわよ」

「はいはい、そーですね」

「ゆーうー、慰めてー」

「はいはい、よしよし」

その会話を聞いて、秋子は頬笑む。

「相変わらず仲がいいわね、姉さん」

「まーね。祐とあたしの最強タッグはそんなヤワな絆じゃないわよ」

「・・・俺としては今すぐ高級枝切りハサミでパッサリ切りたいのだが」

「・・・なにか?」

「なんでもありません、マイマザー」

「許す」

「それにしても・・・」

春那はまじまじと祐一を見回す。

「な、なんだよ」

「相変わらず女みたいな顔ねー」

「こんな風にしたのは誰のせいだ」

「いいじゃない、かわいいから」

「やめい!!顔をすり寄せるな!!」

「ただいまー、お母さん。部活の・・・」

部活から帰ってきた名雪が、祐一たちをみて固まる。

「あ」

「・・・」

「・・・」

静寂が流れる。

「・・・・・・・・ゆ」

名雪がそれを破る。

「ゆ?」

「祐一の浮気モノぉぉぉおおぉぉおおぉぉおおぉ!!」

「俺がいつお前のモノになったぁぁぁあああぁぁぁあ!!!?」

すぱぁん!!、とスリッパで名雪の頭をはたく。

「うにゅ」

「まったく・・・」

「うー・・・ひどいよ祐一ぃ・・・極悪人だよ・・・」

「なんでだ」

「うちに女の人を連れてくるなんて・・・」

「よく見ろ、タコ」

「え・・・?」

「はーい、名雪ちゃん♪」

「お、お、お、お・・・」

「発声練習か?」

「おば様!?」

「そうよん」

「あ、の、えーと、お久しぶりです」

「はい、お久しぶり」

「なに緊張してんだオマエ?」

「だ、だって・・・」

祐一に今の名雪の心境が理解できるわけがない。

「まったく・・・変に誤解しやがって・・・」

「だ、だって・・・」

「あらー、それは祐の恋人だとおもっちゃったのかしら?」

「・・・」

名雪は顔を真っ赤にしている。

「うーん、まだまだ私も通用するかもねー」

「勘弁してくれ・・・」

「でも祐の恋人もおもしろそうねぇ・・・」

「バカ言うな!親が言う事か!?それ」

「・・・そ」

名雪がなにかをつぶやいた。

「そ?」

「それは絶対にダメです!!」

「「・・・」」

名雪とは思えないほどの大声にビックリする相沢親子。

「あ、ご、ごめんなさい・・・」

「にゅっふっふー♪」

突然春那が妙な含み笑いをしながら名雪に近づく。

「そっかそっかー・・・」

「ど、どうしました?」

こっそりと名雪の背後に回り、


「まだ祐の事好きでいてくれてるんだ」


「!」

「大丈夫だよ、きっと祐も名雪ちゃんのこと好きだから」

「え?」

自分の耳を疑った名雪が春那の方へ振り向くと、

「さーて、今日は思いっきり手料理をふるまっちゃおうカシラ」

「うふふ、ひさしぶりですね。姉さんの手料理」

そういって二人はキッチンへ向かっていった。

そうして呆然と残された祐一と名雪。

「まったく・・・台風だなまるで」

「うん・・・そうだね・・・」

「ふう・・・なんか疲れそうだな、今日は」

そういいながらも祐一に笑顔がこぼれる。

やはり久しぶりに母親と会った喜びが出ているのだろう。

そして、名雪は・・・。

(私・・・いっぱい頑張るから・・・)

(見ててくださいね、おば様!)


この日の夕食は名雪にとっても、そして祐一にとってもすごく楽しい物となった。



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以上、第16偵察部隊からの報告でした。

これらをまとめた結果、相沢君のお母様を味方に付けた場合かなりのプラスになることが証明された。



そして、もうひとつ。




やっぱり名雪は真っ先に潰すのが最優先だ、ということが確認された。







                                         --------------以上、報告終了






                                         (相沢祐一に萌える会 極秘書類より)









〜あとがき〜
なんか本当に本能のおもむくままに書いてしまいました。
あるサイトよりお誘いがあった企画も執筆中なのですが、まあこれは途中まで仕上げてあったので
終わらせてしまいたくて仕上げました。
ぶっちゃけもう少しキャラに個性を出したかったっす。
ちょっとしたツッコミ等大歓迎。


                   「祐、おみやげの『草加せんべい』よ。」「どこ行ってたんだ、あんたは」