「えーと・・・しょうゆにみりん・・・っと」
放課後の商店街。
相沢祐一は珍しく一人で買い物に来ていた。
と、いうのも帰る途中に叔母である秋子からの電話により命を受け商店街に降臨した、というわけだ。
「よっし、買うものはそろったし。帰るとしますか」
「ありがとうございましたー」
店員からの接客マニュアル通りの挨拶を背にうけ自動ドアを1歩踏み出すと。
「あれ?祐一?」
「お、名雪か」
やはり、この男に単独行動、という行動コマンドは許されないようだ。
全員のSS書いてやるぞー!と意気揚々フェスタ 第1弾SS
時計に願いをこめて・・・
written
by woody
「どーしたの?祐一が
一人で商店街にいるなんて」
やたらと『一人で』のところを強調する名雪。
「秋子さんに買い物頼まれただけだ。お前こそなんでいるんだよ」
「私?私は時計を買いに来たんだよ」
「はぁ?また時計か?家にいっぱいあるだろうが」
「まぁ、そうなんだけどね」
「それにいくら時計があったってどうせ起きられないんだしな」
「ひ、ひどいよ祐一ぃ・・・」
「いや、ホントの事だし」
「ちょっとはフォローしてよー・・・」
「なんじゃそりゃ」
そう話しているうちに商店街を抜け、住宅街の路地に入る。
「しかし、なんでそんなに時計を欲しがるんだ?」
「え?祐一憶えてないの?」
「なにを?」
「え、あ、ううん、なんでもないよ」
「・・・ヘンなヤツ」
名雪は少し考える仕草をしている。
「・・・そっかぁ、憶えてないんだ」
-------------------------------------------------------------------------------
夕方。
祐一と名雪は2人で仲良く遊んでいる。
突然かかる祐一の母、春那の声。
「ゆうー、そろそろ帰るわよー」
祐一は母の呼ぶ声に返事をしてからすっく、と立ち上がる。
「だってさ名雪、おれそろそろ帰るから」
「え?・・・もう、かえっちゃうの?」
「うん。だって母さんが呼んでるし」
「やだ、かえらないで」
「そんなこと言ったって・・・」
目が潤んでいる名雪をどうしていいかわからない祐一の上から叔母の声がかかる。
「ほら名雪、祐一さんもちゃんとおうちに帰らないといけないのよ」
「やだっ、ゆういちはここにすむの!!」
優しく諭す秋子を涙をこぼしながら睨む名雪。
「あらあら・・・困ったわね」
「ぐすっ、ゆういちといっしょにいるんだもん・・・」
「ふう・・・なあ名雪」
ずっと黙っていた祐一が名雪に優しく声を掛ける。
「・・・なに?」
すすり声をこらえて返答する。
「おれも帰らなくちゃいけないしさ」
「ぐすっ・・・」
また名雪が涙ぐむ。
「ああっ、泣くなって」
「だって・・・かえっちゃうんでしょ?」
「だからかわりにコレやるよ」
「・・・え?」
そういって名雪の手のひらに載せたのは腕時計。
「これは父さんが母さんにあげたものらしいんだけど」
「・・・」
名雪は黙って時計をみつめている。
「しょうがないからお前にあげるよ」
「・・・いいの?」
「そのかわりもう泣くなよ」
「・・・うんっ!」
名雪の顔は今まで祐一が見た事がないようなまぶしい笑顔を見せた。
「えへへ・・・ねぇゆういち、つけてみていい?」
「あ、ああ・・・いいよ」
笑顔に見とれていた祐一があわてて返事をする。
「えへへぇ、ゆういちにもらっちゃったぁ♪」
---------------------------------------------------------------------------
(あの時の時計、まだ動いてるんだよ)
名雪は心の中で祐一につぶやく。
「おっ、そういえば名雪」
「ん?なに?」
「時計といえば昔お前に腕時計あげたことあったな」
「えっ?」
名雪は信じられない、といった顔を見せる。
「あれさ、あの後おふくろに言ったんだよ、名雪に時計あげたって」
「ふーん・・・」
「そしたらおふくろなんか笑ってたんだよ。なんでなんだろうな」
「さーて、なんでだろーね♪」
そういって笑顔で名雪は大きく歩き出す。
「あ?なんか知ってんのか?」
「なーんにも?」
「ウソつけー!なんか知ってんだろ!」
「知らないよー♪」
(祐一はあの時計の意味を知らなかったのかもしれないけど・・・)
(いつかあの文字の通りになれるように・・・)
「私、がんばるからねっ!祐一っ!」
少年は知らない。
時計の裏にある文字が彫られていたことを。
少女は知っている。
時計の裏に刻まれし文字の意味を--------------------。
if you give to sweetheart this watch with tender loveing care, your wish
will come true.
(もしあなたが愛する人へ想いを込めてこの時計をあげれば、あなたの願いはきっと叶うだろう)
親より子に継がれし時計。
それはかつて、ある青年が恋人に捧げたブレゼント。
そしてまた、ここに一つ。
時計に願いを込め、少年に思いを馳せる少女が一人---------------。
〜あとがき〜
短ぁっ!
実はこの話、クリスマスっぽいのでクリスマスまでとっとこう、と思ってたのですが
使っちゃいました(手屁っ)。
名雪はどうもシリアスにもっていきにくいかな、と思ってたんですが
意外とサラッといけました。
でも、めんどいのでとうぶん名雪は書きません。
明日も書けそうです。
あははーっ、戻りますよーっ