「ねえ、ゆうちゃん」
現在は授業の間の休み時間。
次の授業が音楽のため、音楽室へ移動中の祐一たち2年1組。
そんなとき、廊下で有希が祐一に呼びかけた。
「なんだよ」
「ゆうちゃんってこっちで音楽やってるの?」
「バカッ、しー!しー!」
ムリヤリ祐一が有希の口をふさごうとする。
「どういうこと?有希ちゃん」
「あらら、知らないの?」
「なにが?」
名雪と香里はまったく訳が分からない、といった顔をしている。
「ゆうちゃんってすっごい楽器がうまいんだよ!!」
「あー!有希!!」
「「へー・・・知らなかった・・・」」
名雪と香里は声を揃えて言う。
「って名雪、あなたも知らなかったの?」
「うん、初耳だよ」
「有希さん、なにがうまいの?」
「楽器だよ」
「いや・・・そうじゃなくて、何の楽器なの?」
香里に聞かれた有希はなぜか考える仕草をしてうなる。
「うーん・・・」
「何で考える必要があるのよ・・・」
しばらく考えた後、
「なんでも♪」
「「は?」」
再びなゆかおコンビが声を揃える。
「具体的に楽器挙げようとしたけどゆうちゃんなんでもできるんだもん」
「そうなの?」
香里は祐一に問う。
「うー・・・少しだけな」
「またー、謙遜しちゃってー」
「うるせっ、それは言うなっつったろが」
「・・・そだっけ?」
「・・・こんにゃろ、忘れてやがったな」
「ゆうちゃん、聞かせてよ」
「だからー、前から言ってるように・・・」
「祐一」
祐一の後ろで名雪の声がした。
「ん?」
「私も・・・聞いてみたいな」
「そうね・・・私も聞いてみたいわね」
「・・・わかったよ」
祐一はあきらめたような口ぶりでいう。
「やった!」
「授業終わったらだからな」
しかし、その言葉は有希たちに聞こえているか分からないぐらいはしゃいでいた。
短編も進めなきゃ・・・SS
Love Capriccio
-He has suprising
talent.- 〜第5話〜
written
by woody
last
updated 2004/01/22
「では、授業を始めます」
先生の高い声が響く。
「では、今日は『夜空ノムコウ』ですね。教科書8ページを開いてください」
ぱらぱらと教科書をめくる音が響く。
「じゃあいつもの通り、美坂さん。弾いてもらえるかしら?」
そのとき。
「先生!」
「あなたは篠原さんだったかしら。なんでしょう?」
「ここはゆう・・・じゃなかった、相沢君に弾いてもらいたいと思います!!」
有希は声を荒げて言った。
「あら、相沢君。ピアノ弾けたの?」
先生がみんなの視線とともに祐一の方を向く。
「えーと・・・すこし・・・だけです・・・」
そういうと、有希の首根っこをつかみ、
「バカッ!!授業が終わったら、っつったろ!!」
「だーってぇ・・・あたしの幼馴染はこぉんなにすごいんだぞ♪って伝えたかったんだもん・・・」
「うくっ・・・」
そういって目を潤ませる。
(う・・・)
祐一は有希の思わぬ反応にたじろぐ。
(罪悪感を感じさせる目はやめてくれ・・・)
うるるー。
(・・・)
うるるるー。
(・・・そうか)
祐一は考える。
(ただコイツは俺をたてようとしてくれたんだな、うん)
自分でムリヤリ自分を納得させようとしている祐一であった。
「相沢君?」
先生の声が響く。
「ああ・・・はいはい、弾きますよ」
そう祐一が言った瞬間に、
がばぁ!!
「のわっ!」
有希がおもいっきり抱きつく。
「ありがとー!!やっぱりゆうちゃん優しいよぉ!!」
「わかったからこんなところでひっつくなっつの!!」
「ホントは『私のダーリンはこんなにすごいんだぞ』っていいたかったんだけどね・・・」
「ん?なんかいったか?」
「ん、なんでもないよー♪」
「あ、相沢君?授業中なんだけど・・・」
「ああっ、すいません、ほら!離れろっつの!!」
「「じとー」」
「・・・って、香里と名雪もそんな目で見るな、俺が悪いことしてるみたいじゃないか」
「「ねぇ・・・早く弾けば?」」
名雪と香里の目はトルコ風アイスより冷たかった。
「は、はい・・・」
その空気を感じ取ってか、有希も素直に戻った。
(こ、こえー・・・)
「ま、まぁとりあえず相沢君が弾ける適当な曲でいいから」
先生は場をまとめるように言った。
「あ、はい」
祐一がピアノの椅子に向かってゆっくりと歩く。
「ふむ、興味あるわね」
「え?」
突然先生がつぶやき、名雪が聞き返す。
「成績優秀、スポーツ万能、そしてみんなに好かれる性格の彼だもの。これはモテないはずないわよねー」
意外と普段のこの先生の性格は軽いようだ。
それとは裏腹に名雪は最後の言葉を聞いて顔が曇る。
「そうですね・・・」
そんな名雪を見て、
「あらら・・・藪蛇だったかしら・・・」
そういって先生-----青山美晴は舌を出して目線を泳がせる。
祐一は久しぶりらしいピアノにゆっくりと向かう。
すると祐一が椅子に座った瞬間、祐一の顔が変わった。
それは音楽室にいた誰もが感じ取れた。
と同時にその部屋から全ての音が消えた。
〈!〉
突然響き渡る圧倒的な存在感。--------------祐一の演奏が始まった。
ピアノから溢れ出す音という色が次々と五感を染め上げていく。
時に力強さを。時にやさしさを。
そんな音の幻想世界に誰もがいつのまにか目をつぶっていた。
名雪はふと目を開け、祐一の方を見た。
すると、ピアノに座った祐一の姿が見えた・・・はずだった。
だが、名雪にはピアノに向かう想い人の姿が輝いて見えた。
本当に光を祐一自身が発しているように見えたのだ。
そんな祐一を見て、名雪はしばらく見とれていた。
だが、ふととなりを見ると。
そこには優しげに、その祐一の姿をじっと笑顔で見つめている有希の姿があった。
------いつもの祐一を見るかのように。
そのとき、名雪は思った。
(有希ちゃんは私の知らない祐一をいっぱい知ってるんだな・・・)
そう思ったとき、自然と涙があふれてきた。
なぜか涙をぬぐうことができなかった。
(私も、輝いてる祐一の隣で笑っていられるようになりたいな・・・)
そう思ったら、顔がほころんだ。
「かわいいよ、名雪ちゃん」
「えっ!?」
突然有希が名雪に話しかけた。
「今の笑顔、すごく綺麗だったよ」
「有希ちゃん・・・」
「・・・私もね」
「え?」
「私も最初はゆうちゃんのピアノ弾いてる姿見て、ずっと泣いてばっかりだった」
「・・・」
「でもね、ゆうちゃんが弾き終わった後言ったんだ」
「『泣いてるより笑っていてくれ。そのほうが弾きやすい』って」
「そんとき、私思ったんだ」
「『あんなに綺麗な音楽弾いていても私の顔を見てくれてるんだ』」
「『私が笑っていられたらゆうちゃんはもっと綺麗に弾けるのかな』って」
「・・・」
「たとえ本当は違っていてもいいの」
「それでも私は輝いてるゆうちゃんのそばでずっと笑っていたい」
「・・・うん」
名雪は小さくうなずいた。
「なんで突然先生に『ゆうちゃんに弾かせてあげて』って言ったかわかる?」
「え?」
「本当はね。ゆうちゃんのピアノ、名雪ちゃんたちにも聞かせたかったからなの」
「・・・どうして?」
「だって、ゆうちゃんのピアノ素敵だもん」
「ゆうちゃんのこと好きなのにピアノが聞いたことないなんてもったいないじゃない。ね?」
「・・・」
名雪は祐一のほうを見て、
「うんっ」
笑顔で答えた。
そして二人は再び祐一の方を向いた。
「・・・有希ちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
「ん!」
有希は名雪に輝くような笑顔で返した。
そして名雪は祐一を見て、
(有希ちゃん、か・・・)
(私もがんばらなくっちゃ!)
そして、とても長く感じた祐一の約7分の演奏が終わった。
ほとんどの人が涙を流している中、名雪と有希の笑顔が印象的だった。
「相沢君!!」
美晴先生が突然叫んだ。
「は、はい」
「素敵だったわー、先生感動しちゃったー」
「は、はあ・・・どうも」
「隠れた天才がこんなところにいるなんてねー」
「あ、あのこのことは内密に・・・」
「わかってるわよ!こんな素敵な曲を弾く人誰にも教えたくないわよ!」
「は、はあ・・・」
「でもなんで内密にするの?」
「あーと、いろいろありまして・・・」
「ま、秘密にしてあげるわ」
とりあえず胸をなでおろす祐一。
すると、席に戻るとき、祐一は名雪のところへ行き
「ありがとな、お前が笑っててくれたからすごく弾きやすかったよ」
「ホント?」
「ああ」
「・・・ありがとっ!!」
名雪はとびっきりの笑顔を見せた。------------ちょっと祐一がドキッとするぐらいとびっきりの笑顔で。
「ゆうちゃーん、私は?」
「まあ、おまえにも感謝しといてやる」
「なーによ、それー!!」
「・・・相沢君」
「おう、香里」
「あなたはまた私より先に行くつもり?」
「は?」
「負けないわよ!」
そんなやりとりを遠くで聞きながら名雪は、
(私も負けないからね!!有希ちゃん!)
恋愛狂騒曲はまだまだ終わりを迎えそうにない。
つーかいつラブラブSSになるのだろうか!?
〜あとがき〜
今回は名雪を中心に描いてみました。
有希もちょっといい場面を作ってみたり。
ほのぼの物もたまには、ね。
ちなみに夜空ノムコウは本当に教科書に載っています。知ってました?
でも実は小学校の教科書なんですね。
そこんところは寛容な気持ちで許してください。
あはは(;^ ^A
ゆうちゃん、戻るよおーっ