「
夜の静けさのなかで、わたしは千の人々の喝采より、
愛する人からの一言、二言が欲しくなるわ。
byジョディ・ガーランド(1922-1969)
」
リビングのソファーで私は本を閉じる。
以前の私なら絶対こんな本は読んでなかっただろう。
だけど、今はこんな言葉にも共感を覚えたりする。ちょっとだけ。
この本の表表紙には「愛の名言集」などと書いてある。
妹の部屋にあったのをこっそり借りてきたのだ。
ちなみに妹はキッチンでチョコ作りに奮闘している。
ここからでも栞がいろいろ試行錯誤しているのが見える。
ちなみに私は市販のチョコをすでに買ってある。
リビングでこの本を見つけたとき、夢見がちな栞らしいな、と思った。
でもそれ以上にそのときからずっとこの本に興味を持ってしまった自分がちょっと嫌だった。
それもこれもあいつのせい。
私をこんなに変えたのも。
栞をこんなに夢中にさせたのも。
みーんな、あいつのせい。
バレンタイン記念(1日フライング)SS
Love Capriccio
-All
strategies are permitted in love and war.- 〜第6話〜
written by woody
last
updated 2004/02/13
私はため息をついて、本に目を移す。
どのページにも愛についていろいろ語っている。
そこでたまたま目に入った詩が私の目に止まった。
「
やりかたやハウツーなんてない。
ただ愛することによってしか、愛し方なんてわからないんだ。
byオルダリ・ハクスリー
」
・・・。
ソファーから栞の様子を覗いてみる。
栞は一生懸命攪拌機でチョコを混ぜている。
ふーん、この人いいこと言うじゃない。と心の中でつぶやいてみる。
そう。
あいつを好きな女の子はいっぱいいる。
例えば鼻にチョコをつけながらも頑張っている妹もそう。
あいつの幼馴染で私の親友である名雪もそう。
・・・最近転入してきた有希ちゃんもきっとそう。
他にもいっぱいいる。
でも、あいつの愛し方なんてどこにも書いてない。
いくら探しても載っているわけなんてない。
だからみんなが苦労してる。
認めたくはないけど・・・私も、そう。
どうやったらあいつに振り向いてもらえるか。
それはやってみなきゃわからない。
だから私たちは精一杯あいつのそばにいる。
あいつがだれかを選ぶまで。
その中で私が選ばれないかもしれない。
でももしかすると選ばれるかもしれない。
だから私たちはその「もしかすると」のために自分ができることを信じてやるだけ。
やりかたもハウツーもないなら。
自分で私のことを好きにさせてみせる。
それだけ。
・・・って私はなにを言ってるんだろう。
私はただこの本に少し興味を持っただけなのだから。
もう内容もわかったし。
・・・。
・・。
・。
えーと、次の名言は、と。
「あの人が私を愛してから、自分が自分にとってどれほど価値のあるものになったことだろう。
byゲーテ『若きウェルテルの悩み』」
後ろからいきなり私が見ている詩が声になって聞こえた。
「!?」
「そんなこと言えるようになりたいですよねー・・・ついその部分は覚えてしまいました」
後ろを振り向くと。
「・・・栞?」
「はい」
「チョコは出来たの?」
「だいたいは出来ました」
「そう・・・びっくりさせないでよ」
「あはは・・・」
少し笑うと栞は突然言い出した。
「私があの人を愛してから、自分が自分にとってどれほど価値のあるものになったことだろう。」
・・・?
どこか違和感を覚える。
そうだ、さっきと少しフレーズが違う。
「・・・栞?」
「ば〜い美坂栞」
「・・・」
栞は優しい顔で言葉を紡ぎ始めた。
「私はこの間まで人を好きになれる、なんて思っていませんでした」
・・・私は思わず胸を抑える。
少し心が痛んだ。
「だけど、祐一さんは私にすべての希望を与えてくれました」
「生きる希望、笑う希望、悲しむ希望」
「そして、人を愛する希望」
「祐一さんはなにもかもを私にくれました」
「だから私は」
栞はそこまで言うと。
私も見惚れるぐらい素敵な笑顔で。
「そんな優しい祐一さんを好きになりました」
「それだけでもすごいことだと思うんです」
・・・。
死を宣告されていた栞にとってその一言はすごく重かった。
そんな妹を拒絶していた私にとっても。
「祐一さんを好きになれた事は私にとって一番の出来事です」
「いままでも、これからも」
「だから私はずっと祐一さんを好きでいたい」
・・・。
私は何もいえなかった。
私の想像でははかり知れないほどの恋。
やっぱり私では太刀打ちできないんだろうか。
「でも勘違いしないでくださいね、お姉ちゃん」
「・・・え?」
「私は祐一さんのそばにいたいけど・・・」
「祐一さんがもし私じゃない人を選んだのならそれでもいいです」
「だって祐一さんが選んだ人だから」
「たとえそれがお姉ちゃんでも、ね」
「・・・え?」
私はちゃんと声にする事が出来ない。
「私は本気で祐一さんにアタックする」
「だからお姉ちゃんも本気で、ね♪」
「・・・栞」
「もし遠慮なんかしたら許さないからね♪」
この瞬間。
栞が今までにない顔を見せた、気がする。
恋する女の顔、に。
「・・・ふぅ」
「お姉ちゃん?」
「・・・負けたわ」
そういって私は栞に手を差し出す。
「お互いライバルとしてがんばろうね、栞」
「うん!」
私はソファーから立ち、背伸びをする。
「さーて、私もチョコを作りますか!」
「はい!第1ラウンドです!!私のチョコの味見もしてください!!」
そういって栞は先にキッチンの方へ向かった。
そうよ。私だって相沢君のことが好きな気持ちは変わらない。
私たちを癒してくれたあのぬくもり。
抱きしめてもらったときのあたたかさ。
いつだってあの瞬間を忘れた事はない。
不器用で朴念仁だけど。
すごく優しいあいつ。
いままで、『今のところ最強のライバルは有希ちゃんだ』と思っていた。
同じクラスの私も。
幼馴染でいとこの名雪でさえも知らない相沢君をいっぱい知ってるから。
でも、さっきの栞の顔を見て思った。
『意外と最強のライバルは近くにいるのかもね』。
「おねーちゃーん!はやくー!」
「はいはい」
私は気合をいれるべく、大声で栞に向かって叫んだ。
「誰にも負けないんだから!!」
そのようすはさながらどこかの格闘ゲームのようだったとお母さんは言う。
そして迎えた14日。
すでに買ってあった市販のチョコはお父さんにあげた。
もちろん、「LOVE」のシールをはがして。
そして今、手のなかにある手作りの本命チョコ。
私は思い切り笑顔で渡してやろうと思う。
私のチョコを真っ先に食べさせるぐらいの笑顔で。
さあ、走り出そう。
チョコと笑顔と勇気を持って。
私を惚れさせた優しいあいつの元へ。
〜あとがき〜
今回は結構堅めな文ですね。
シリアスじゃん、なんていうヤボなツッコミはよして。
時間軸はちょうどバレンタインの前日って感じがうまく出せたらいいな、と。
あとヒロインなんですが、ある程度カノンヒロインズの中から数人に絞って有希とバトルさせることにしました。
前回が名雪だったので、今回は香里で。
あと、ヒロインになるのは誰かな??
このヒロインたちの回が終わったらいよいよ有希とのほのラブSSにじょじょに移行していこうかな、と。
注)今回はノートパッドで作ったのでいつもと文字のフォントが違うかもしれませんが気にせずに。
ゆうちゃん、戻るよおーっ