「天野さん、ばいばーい」

最近仲がよくなったクラスメイトに手を振り私はクラスを出る。

ふと窓の外に目をやると。

ぽつ、ぽつ・・・。

「やはり雨が降ってきましたね・・・」

誰に言うわけでもなく独り言が出る。

こういうとき天気予報というのはやはり役立つものだ。

人間の技術というのはここまで自然と立ち向かえるほどすごいのだろうか。

・・・ダメだ、ヘンなことを哲学めいて考え込むのは私の悪い癖。

「とりあえず傘を持ってきておいて正解ですね」

・・・はっ。

また独り言がでた。

まったくイヤな癖がついたものだ、と自分でも思う。

「まるで誰かさんみたいですね・・・」

・・・はっ。

(この癖、どうにかして直らないものでしょうか・・・)

私は思わず心の中で涙を流した。










来ました。美汐さんの一人称SS



                               Love Capriccio

                         -Outside is rainy,but my heart is fine.- 〜第3話〜


                                                                written by woody
                                                             last updated 2004/03/09






「よいしょ」

上履きからローファーに履き替える。

相変わらず外はしとしとと雨が降り続いている。

正直なところ私は雨が好きだ。

なんでだろう・・・なぜか心がすごく落ち着く。

ちなみに相沢さんに言ったらすぐに肯定されてちょっと腹が立った。

・・・ってなんで相沢さんがここで出てくるんだろう。

なんとなく嫌な予感が胸中をよぎる。

「とっとと帰るに限りますね」

私の勘はこういうときに限ってあたる事が多々ある。

いそいそと昇降口を出て正門へ向かう。

回りを見ると傘を差す生徒もいれば走ってぬれねずみになっている生徒もいる。

(ほら、あの人とか)

ふと後ろを見る。

「ぐわぁっ!!雨が降るなんて聞いてねーっつの!」

・・・。

やっぱり厄日かもしれない。

しかもふと視線が合ってしまった。

「あ、天野じゃないか」

「ど、どうも」

次に出てくる言葉はすぐに予測できた。

「わり、天野!傘ちょっと入れてくれないか!?」

「え、あ、ちょっと・・・きゃっ!」

そういって相沢さんはダッシュで傘に入ってくる。

問答無用で。

「ふぃー・・・助かった・・・」

「返事も言わないうちに入ってくるのは人間としてどうかと思いますが」

すると、相沢さんは顔を翳らせ、

「そうか・・・いきなりすぎたもんな・・・」

あれ?

なんかやけにしおらしい。

「え?あ・・・と、」

「悪かったな、誰か彼氏かなんかと待ち合わせしてたかもしれなかったのにな・・・」

「あ、いえ、それはないんですが・・・」

「仕方ない・・・この心に冷たく突き刺さる雨に濡れて一人寂しく帰るか・・・」

「わかりました!入れますから!」

「そーか!やっぱり天野は優しくて心が広いな!」

・・・やられたかも。

まったく、本当に世話が焼ける人だ。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




「しかしよく傘持ってきてたな」

「天気予報を観ていれば普通持ってきます」

「そーか?」

「もっと早く起きてくれば遅刻することはないのですよ」

「俺じゃない、名雪だ」

「・・・そうですか」

「なんだ?やけにあっさり食い下がるな」

「栞さんからいろいろと戦況報告を聞いていますから」

「・・・」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




「なあ、天野」

「なんですか?」

「これってさ」

「はい?」

「相合傘だな」

「・・・!」

顔が熱くなる。

せっかく考えないようにしてたのに。

「はっはっは、天野も相手が悪かったな」

「自分で言いますか、それを」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




私たちの横をさっきから走って帰っている生徒たちが何回も追い抜いていく。

「はっはっはぁ、傘がないやつは不憫じゃのぉ」

「・・・」

「なんだ天野、その訴えるような目は」

「いえ、別に」

すると後ろからまたばしゃばしゃと誰かが走ってくる音がした。

「ひゃー!!」

物凄いスピードで駆け抜けていった。

「あれ、篠原先輩ですね」

「ホントだな」

そのとき。

前を走っていた篠原先輩が急に止まった。

そしてこちらを振り向き・・・

「ゆうちゃーん!!!」

「いったいなんなんだお前はー!!!」

相沢さんへ一直線。

そして相沢さんの前でピタリと止まり、

「一緒に帰ろ♪」

呆然と立ち尽くす私と相沢さん。

「あ、天野っちだ!やっほ」

「ど、どうも御無沙汰してます、篠原先輩」

「ちっちっち、堅いなー天野っち」

「え?」

「有希でいいって。なんなら『ゆきゆき』『みしみし』と呼び合う案もあるけど」

「有希さんと呼ばせてください」

「おっけ」

こないだ以来、どうもこの先輩には頭が上がらない。

すると有希さんは私たちを見回して、

「いいなー、ゆうちゃんと相合傘してたんだぁ」

「・・・!」

「どうしても天野が俺と帰りたいとせがむもので」

「そ・・・そんな事言ってません!」

「ま、本当は俺が無理言って傘に入れてもらってたんだ」

「ふーん・・・ま、いいや。帰ろう」

「おう・・・ってお前」

「?」

「傘に3人は入らんぞ」

ただでさえそんなに大きくない私の傘。

やっぱりここは私が譲った方が・・・。

「相沢さん、篠・・・有希さん。使ってください」

「バカ言うな、お前の傘だろうが。お前はいいから」

「あ」

突然有希さんが声を上げる。

「なんだ?なんかいいアイディアでもあったか?」

「ごめん、私カバンに折りたたみ入ってた」

「はよ言え!」

「ゆうちゃーん、私の傘にかむかむー」

「はぁ?」

「私とも相合傘希望ー」

「断る」

え?

相沢さん?

それって・・・。

「その折りたたみ小さすぎだ」

・・・。

期待した私がバカだったみたい。

・・・ってなにを言ってるのだろうか。

「なんか天野っちが百面相してる」

「おもしろいな、こいつ」

・・・はっ。

「うーん・・・」

なんか有希さんが私をずっと見ている。

・・・いったいなんだろう。

しばらくして有希さんが私に小声で話しかけてきた。

「ねぇ、天野っち」

「はい?」

「あたし先に帰るね」

「え!?」

「天野っち、なんかゆうちゃんと相合傘してて楽しそうだからさ」

「え?私ですか?」

「言っとくけど今日だけだからね」

「え?え?」

「次はもう譲らないからね」

「・・・はあ」

「さっきから何話してんだ?」

相沢さんがそういうと

「ごめーん、私今日用があったんだ」

「なんだよ、いきなり」

「だから先帰るねー」

「そうか」

「明日は一緒に帰ろうねー」

「はいはい」




最後に有希さんは私に小さく、


「ライバルが強いほど恋が叶ったときって幸せなんだよ♪」


と、つぶやいて去っていった。



「なんか台風が去っていったって感じだな」

「そうですね」

・・・もしかしたら私は最初から期待していたのかもしれない。

いきなり傘に入ってきたときも悪い気がしなかった。

相合傘だ、って言われたときも胸がドキドキした。

・・・はぁ。

-------やっぱり今日は厄日だ。

いい意味でも、悪い意味でも。

「お、ちょっと雨がやんできたかも」

相沢さんは傘の下から空を覗き込む。

空からはすこし陽射しも見えてきた。

私の心みたいに。

ずっとかかっていたモヤモヤがとれたみたいに晴れている私の心。

ここまできたからには本気で戦わないと。

ライバルはやっぱり多いから。



「さーて、せっかく晴れたし傘のお礼に百花屋でも行くか?」

「喜んでお供させていただきます」



これからは少し積極的になってみようかな。

もちろん私に振り向いてもらいたいもの。

やっぱりまずは。


「よしよし、よく晴れたな。いくぞ天野」

「はい、祐一さん------」





〜あとがき〜

ついに来ました。
鋼鉄の魔人、美汐編。
なんとなーくこないだと美汐の性格が違いますが、そこんとこは皆様の柔軟性でなんとか補完してください(汗)
あさってになれば更新頻度が上がるはずですので。


                              ゆうちゃん、戻るよおーっ