〈このSSの前に「耳かきすらっぷすてぃっく!前編」を見ることをオススメします〉


夜。

「ふはー、いい湯だったー」
「ね、兄貴」
「あん?」

空はにっこりと俺に笑顔を向けた。

「昨日のこと、覚えてるよね?」

この瞬間、顔から血の気が失せる感覚がした。
このときばかりはドタバタが避けられないような気がしてならなかった。
なぜかって?
空は結構なぶきっちょなんだよ!





なちゅ2ってやっぱいいわSS



                         the solid dream -後編-




                          -"slapstick" is the best happiness way.-


                                                                written by woody
                                                             last updated 2004/10/17







「千紗都は?」
「ちーちゃんはお風呂行ったよ」
「・・・そか」
「・・・なんでこっちを見ないの?」
「いや、べつに」
「じゃあなんで新聞で顔を隠すの?」
「いやいや、そんな」
「じゃあそろそろいいね!」
「な、なにを!?」
「な、なんだよ。なんでそんな声が大きくなるの?」
「い、いやなんでもない」
「・・・」
「・・・」
「やっぱりボクじゃイヤなん」
「そんなことないよ!ただ・・・」
「ただ・・・?」
「空がちょっぴり不器用なのがちょっぴり不安かなぁ、なんて・・・」

・・・。

「うあぁん!やっぱりイヤなんだ!!ちーちゃんだけズルいよぉ!」
「わかった!わかったから!」
「ぐすっ・・・いいの?」

こくこく。
俺は軽く引きつった笑顔で空の言葉にうなずく。

「えへへー、頑張るね!」
「お、おう・・・決してムリはしないでくれな」
「うん!」

その笑顔と明るい返事になぜか不安が拭えなかった。

「はい、どーぞ」

昨日と同じ構図で空は座って太ももをぺちぺち、と叩いた。

「お、おう」

俺はゆっくりと寝転がる。
まるで罪人が命乞いに悪あがきでゆっくり死刑台にのぼるような心境。
しかし頬が太ももに触れた途端、どこか落ち着く気分になれた。
昨日もやわらかかったけど、空のもやわらかかった。

「はい、いくよー」
「おう・・・」
「動かないでねっ」
「あいよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・?」
「・・・」
「・・・空?」

そして上を見上げた瞬間。
ぷるぷるぷる。
空の手が激しく震えていた。

「ひゃあぁぁ!」
「ちょっと兄貴!動かないでよ!」
「そんな手を見て動かずにいられるかぁ!」
「む、武者震いだよっ」
「誰と戦う気だっ!?」
「大丈夫だから!はい!」

と、俺の頭が再び空のももに乗せられた。

「今度こそ大丈夫だろーな・・・」
「もちろん。ちょっとした冗談だよ」
「・・・」
「ほ、ほら。いくよ!」

こりこり。

「ひぅ」
「ど、どう?」
「あ、ああ・・・大丈夫」
「ん、よかった」

くりくり。

「ほぅ」

空もだいぶ慣れてきたようで変な力が抜けてきた。

「ん、ほんとに気持ちいい」
「とーぜんだよ。はい逆側向いて。」
「おう」

空の方を向く。
千紗都とは違った雰囲気と匂い。
また眠ってしまいそうになる。
懸念したようなことにならなくてよかっ・・・
「くーちゃーん!お風呂出たよー!!」
「ひぁぁぁ!」

ぐりっ!

「!?」

・・・。
・・・。
・・・。

「いてぇぇぇ!?」
「ごごごごごめん!」

辛うじて綿棒は耳の縁をこすった。

だけどやっぱり・・・
「イタイぃぃぃ!」
「ああ・・・兄貴大丈夫・・・?」

空はそう言った後くるっと向きを変え、

「ちょっとちーちゃん!!!?」
「だってー、くーちゃんばっかりでうらやましかったんですもん」
「ばっかり、って昨日さんざんちーちゃんがやってたんじゃないかぁ!」
「それでもうらやましかったんですー」
「・・・なんかちーちゃんお酒臭くない?」
「冷蔵庫に兄さまのお残りがあったのでいただきましたー」
「バカ!何考えてんだ!」
「そうだよ!何してるんだよ!」
「空も言ってやれ言ってやれ」
「勝手に兄貴と間接キスしてないでよ!」
「いや、そこかよ!」
「うふふー、なんだかふわふわしますー」
「その缶はどこ!?ボクも飲むんだよ!」
「全部飲んじゃいました。兄さまのお残りならなんでもおいしかったですー」
「いつもいつもちーちゃんばっかりずるいよ!」
「・・・」

こそこそ。

「あ、兄貴!どこ行くのさ!?」
「え?あ、えーと、ちょっとトイレかなぁ」
「かなぁ、って逃げる気だったんでしょ!?」
「当たり前だ!嫌な予感がたっぷりしてるんだよ!」
「なんでさ!?さっきまで『気持ちいい』って言ってたじゃないか!」
「ぶー!!くーちゃん、『気持ちいい』って何してたんですかー!?」
「いやあのいいから千紗都は黙ってて」
「まだちゃんと終わってないよ!」
「さっき痛い思いしたからもう結構ですのでお引き取りください」
「もう大丈夫だから!ちーちゃんが邪魔したからだもん!」
「あははー、ぐるぐる回るですぅ」
「ダメだこりゃ・・・」


ふと騒動の種を見る。


言い合う二人の妹。


なんだかんだ言ってもこれが普通の俺たちの生活。

これが俺たちの幸せな生活。

昔、誰かが「普通こそ最大の幸せ」と言ったのを思い出す。

こうしてふと思ったときすごくそれを感じる。

俺たちは今「幸せ」ってハッキリ言えるから。

だから。

できるだけこんな時間がいつまでも続きますように。



「兄貴ー!最後まで耳かきさせろー!」
「今度は千紗都の番ですー!」
「もうやめてくれー!」


・・・続きますように。




〜あとがき〜
パソコンが故障し、修理までずっと時間があったので後編までノートで作れました。
ノートで作ったの初めてですよ、ほんと。
とりあえず時間待たせてしまったので急遽後編を即作成しました。
なちゅ2やっぱいいっすね。



                               兄貴ー、戻るよー。