「せんぱいっ、おはようございます!」

「おう」

変わりばえのしない朝の風景。

朝靄あさもやもなくただ澄みわたる空気。

新しい季節の街並を彩る桜色の木々。

そして・・・。

「今日は恋愛運が最高だったんですよ。なにかいいことがあるといいですよねっ!」

小さい頃からずっと変わらず隣にいるコイツ。

「でも今日小テストがあるんですよー。やっぱり学生にとって逃れられない運命なんですかね?」

俺は高校を卒業し、大学生となった。

「はっ、ひょっとして私と先輩もやっぱり運命の荒縄で・・・きゃっ!」

学校は変わってもこうやって無理してでも途中まで一緒に行くようにしている。

「・・・って先輩!なんか反応してくださいよう!」

「あ゛ー!なんなんださっきから」

「せっかく私が先輩に対する想いのほどを打ち明けているのに聞いてくれないんですもん!」

「あー、聞いてる聞いてる」

「では、先ほど私がしゃべっていたことを簡潔に述べてください」

「『カップ』は英語だけど『コップ』はオランダ語なんだぞ、知ってるか小町」

「うわー、今までの展開を全てゲットアウトさせて無理矢理イニシアティブを取ろうとしてますよこの人」

チッ、コマネチの分際で。

むにー。

「ひ、ひゅいまひぇん、ひゅいまひぇん」

「ふーむ、謝罪の規定水準まで3ポイントほど足りなかったがまあ許してやろう」

「わーい、先輩に許されちゃったー・・・あれ?」

さて、学校行くか。







雪村コネチカット誕生日記念SS



                               naturally ours

                          -Sei sempre nei miei pensieri e nel mio cuore..-


                                                                written by woody
                                                             last updated 2004/05/04






「先輩、桜の季節ですねー」

いわれて上を見上げる。

桜坂の名の通り、春には一面を桜花が咲き誇る街。

この街が俺は昔から好きだった。

「桜って好きで嫌いなんです」

小町が意味深な事をつぶやく。

「だって、綺麗だけどすぐに散っちゃうじゃないですか」

「ふむ」

「なんか悲しくないですか?」

小町の額に手を置く。

「なにしてるんですか?」

小町は顔を赤らめながら言う。

「いや、お前がまじめなこと言うから・・・ふむ、72℃は堅いな」

「そ、そんなにないべさ!」

「なに顔赤くしてんだオマエ」

「だ、だって・・・」

そういって小町は俺が小町の額に載せている手に自分の手を重ねる。

「な、なにしてんだ!!」

そういって恥ずかしさのあまり俺は思わず手を払いのける。

「あ・・・」

小町はなんともいえないような悲しい顔になる。

俺はここで自分がしたことを後悔した。

もう二度と悲しませない、と心に決めたのに。

俺は罪滅ぼしともならない、と思いながら空に浮かぶ小町の手を握った。

「え・・・」

「ホラ、行くぞ」

「あ・・・」

小町の俯いていた顔が上がり、たちまち笑顔になる。

その笑顔を見たとき、改めて俺はさっきの自分を悔いた。

そして、改めて俺は小町に心の中で感謝した。

どんなに強く当たっても、どんなに強く拒否しても、

俺をずっと見ていてくれたコイツに。

繋がった手を見て幸せそうな笑顔を浮かべる小町を見て。

俺は改めて小町の手を強く握った。









半分ぐらいまで歩いたころ。

「先輩」

小町が話し掛けてきた。

「あん?」

「先輩は実家に帰らないんですか?」

そういえば春休みも去年の冬も帰っていなかった。

どうやら小町は一度帰ったらしい。

「帰ったところで肩こり、腰痛、眼精疲労は免れん。わざわざ疲れにいくこともなかろう」

「でもおばさまが心配してましたよ」

・・・。

「・・・なんだと?もっとハッキリ言ってくれ」

「おばさま先輩のことを心配してました、マル」

「句読点は言わなくていい」

「・・・って信じてませんねー!!」

「当たり前だ。あのバカ母親にそんな甲斐性があると思えない」

「あーあ、そんな事言っちゃダメですよ。なんて罰当たりな人物なんでしょうかここの親不孝者は」

「我が人生において唯一の失敗はあの親に育てられた事だな」

「でも私の将来のお義母様ですしぃ」

「なんかいったか?」

「いえ、べつに」

「しゃーねぇ、今度ケンカでも売りにいってやるか」

「ホントですか!?」

「なんではしゃいでるんだよ・・・」

「あの・・・」

なにか言いたげにしている小町。

「なんだよ」

「あの・・・えっと・・・」

小町は不安げな顔でこちらをうかがう。

「なにか言いたいことがあるならスパッと言え、スパッと」

俺は剣を振り下ろす仕草をする。ライク佐々木小次郎。

「そのときは・・・私もご一緒、して・・・よろしいでしょうか?」

「・・・は?」

「あ、の・・・いえ、やっぱなんでも、ない、です・・・」

小町が寂しそうな顔で前を向いて先を歩いていってしまった。

「おい」

俺は無意識のうちに小町を呼んでいた。

「・・・はい?」

覇気の落ちた声で小町が答える。

「最近の雫内は再開発のあおりが激しくていくら歩くGPSの舞人様でも歩きにくい」

小町が体をこちらにゆっくりと向ける。

「俺様の案内をするというのなら特別に連れて行ってやってもよかろう」

「・・・ホント、ですか?」

小町が驚いた顔で聞く。

「ふ、ふん。平成を生きる侍の俺に二言はない。お前がうっかり聞いていなかったのならそれまでだ」

「聞いてました!!バッチリです!!パーペキです!!マイ脳内にエコーガンガンでMP3プロテクト保存完了です!!」

「ほ、ほら。とっとと学校行くぞ!!」

顔が熱い。

それをごまかすように早歩きで小町を追い抜こうとする。

小町の横を通り過ぎようとしたとき。


ぎゅっ。


小町が俺の腕に自分の腕を絡ませて、


「約束・・・ですよ」


そうつぶやいた。


自分の胸に抱いている俺の腕に愛おしむかのように頬を寄せて。


「ほ、ほら!行くぞ!」

さらに顔が熱くなった気がして無理矢理腕を解いて先に進む。

「あっ・・・」

ほどける瞬間に小町が声を上げる。

でも。

小町は笑っていた。

ただ純粋な笑顔。

それはまるでひとつの約束---俺と自分を繋ぐ糸がまたひとつできたことに対する笑顔なのか。

それともただ楽しくて笑ったのか。

俺にはわからない。

でも。

「帰りなんだが今日もプロムナード前に17時に待ち合わせでいいか?」

「はい!」

俺はその小町の笑顔が嬉しくて。

思わず駆け出す。

「あっ!!ちょっと先輩!いきなり走るなんてずるいですー!!」

「へん、追いつけるなら追いついてみやがれ!バーカバーカ」

「よーし、年間100盗塁は軽く狙えるこの俊足で先輩をがっちり捕らえて見せますからね!!」

「ちなみに、チミはスカート気を付けるように」

「はわぁっ!?」





手を伸ばせば愛しい人。


ずっと俺を想ってくれた愛しい人。


もう大丈夫。


絆が一つ壊れたとしても、また作っていけばいい。


だから。


君にお願いだ。


ずっと、俺の隣にいてくれないか---。


そう言える日がいつか来る事を信じて。


こうして時間を共に過ごす。


新たな絆を作っていくために。



「小町」


「なんですか?」


だから。


今はせめて。


自分をずっと好きでいてくれたコイツに。


「好きだぞ」


せめてもの感謝と、心からの気持ちを----------。







〜あとがき〜
まずはごめんなさい、ぽぽさん。
小町の誕生日記念で公開する、とかいっておいてまったく公開するのを忘れてました。
つーことでこれを100000ヒット記念ってことにさせてください。おねがいします。
ということで。
100000ヒット、ありがとう!!



                       先輩っ、今日もお部屋に行ってもいいですか?