「白銀の世界へ」 バス停を降りるとそこは一面、銀色の世界だった。 『・・・寒い!』 しかし、こんな事は俺の旅にとっては当たり前の事だった。 俺の名前は国崎往人。物に触れずに動かすことの出来る法術の使い手だ。 色々な街を回っては法術を使って芸をして来た。 ある目的の為に他のものを犠牲にして・・・。 『さてと・・・』 俺はひとまず人通りが多くて少し広めの場所を探した。 自分の芸を疲労するためだ。 俺は白い息を吐きながら芸を疲労できる場所を探していた。 しばらく歩いただろうか、商店街らしき場所を発見した。 今日は日曜日だったので人通りが多かった。 『よし、ここにするか!』 俺はポケットに詰め込んであった人形を取り出した。 『さあ、国崎往人様の人形劇を始めるぞ〜さあさあ、お立ち寄り!』 俺は道路に人形を置き、その人形に向かって念を込めた。 ───歩け! と。 ピョコ!トコトコトコトコトコトコ、ポテッ。 人形を本物の人間のように動かすと辺りからは歓声があがる。 久々の好感触に俺は満足感に満たされていた。・・・・はずだった。 歓声は上げていた客も足早に去って行ってしまう。 『なっなぜだ!』 俺は独りで叫んでいた。 すると不意に声をかけられる。 『不思議だねぇ。でも不思議だけど面白いて言うのとは違うかな』 グサッ!! その不意にかけられた声に俺は相当なダメージを受けた。 『なんだと!!』 バッと後ろを振り向きながら俺は叫んだ! 『うぐぅ〜そんなに怒らないでよ』 振り返った先にはタイヤキを美味しそうに食べている少女がいた。 『俺の芸のどこが面白くないんだ!!』 『うぐぅ、だから怒らないで!だってその人形劇、オチがないんだもん』 グサッ!! 前にしばらく世話になっていた家の母親にも言われた。 ・・・ 嫌な事を思い出してしまった。 ポカッ! それもこれもこいつが悪い! 頭より先に体が動いてしまった。 『うぐぅ〜なんで殴るんだよ〜』 涙目になりながら叩き返してくる。 『お前が悪い。今までこの芸で生きてきた俺のプライドをお前は一気に傷付けたんだ!』 俺の人生が再び否定された気分だった。 『じゃあな!』 俺はさっさと別の場所に行くことにした。 『ちょっとまってよ〜』 後ろから何か聞こえてくるが気にしないでおこう。 『さてと、だいぶ暗くなったし今日の寝床でも探すか』 この街で寝たり出来る場所といえばやっぱり学校か。 この時期、寒いだろうけどそんな事をいちいち気にしてはいられない。 『服を着込んで耐えるしかないな・・・』 そう決心すると俺は昼間見つけておいた学校へと急いだ。 しばらく歩いただろうか。学校が見えてきた。 と同時に、 ───パリン!!ガシャン! 窓ガラスが割れる音だ。 『なんだ!?』 俺は学校へと走り、唯一開いていた窓から校舎へと入った。 すると、そこには腰に剣を帯びる少女が立っていた。 『何をしてるんだ!?』 『・・・・・・・・・』 返事が無い。 しかし、こんな夜に女独り、しかも腰には剣を帯びている。 ほっておけと言うほうが無理ってもんだ。 『お前は誰なんだ!?』 『・・・・舞・・・・』 『舞か。舞は何をしていたんだ?』 『・・・戦っていた・・・』 『はっ??』 『・・・私は、魔物を討つ者だから』 やっと反応があったかと思えば意味がわからない。 『それはどう意味なんだ!?』 『・・・・・・・・・』 返事はない。 これから舞と名乗る少女は俺の質問にも何も答えずに剣を持って走って行ってしまった。 『・・・ここで寝るのは止めておいた方が良いかもな・・・』 俺は仕方が無く、学校を後にした。 『一体なんだったんだ。女の子が剣を持って夜の校舎で何してるんだ』 俺は不思議に思いつつも学校を後にした。 翌朝。 『・・・寒い!!結局、公園のベンチで寝てしまった・・・』 真冬に公園のベンチで野宿など自殺行為だ・・・でもこう言うアクシデントには慣れていた。 『さて、今日も頑張るか!!』 これからまた人形劇で金を稼がないといけないんだ。朝からクヨクヨはしていられない。 気合を入れ直し、俺はベンチから立ち上がった。 辺りを見回してみると、少女がベンチでスケッチをしていた。 この寒い中よくやるなと思いながら少女の後ろに周りスケッチブックを覗いてみる。 『・・・・下手だな』 俺は思わずそう口にしてしまった。 『誰ですか!?』 スケッチをしていた少女は俺のほうを向く。 そして睨まれた。 『すまない。つい本音が出てしまった。』 (って逆効果じゃないか!) 『そんなこという人、嫌いです!』 やっぱり怒っている・・・。 『本当にすまない。お詫びと言っては何だが良い物を見せてやる』 俺はそういうと、ポケットにしまってある相棒を取り出した。 そう、人形だ。 俺は彼女の前で人形劇を疲労した。 彼女は終始、ポカンと口を開けて俺の人形劇に見入っていた。 『・・・凄い。手品ですか?』 『手品じゃない。俺は法術の使い手なんだ。物に触れないで動かす事が出来る』 『そうなんですか〜凄いですね』 どうやら彼女は機嫌を直してくれたみたいだった。 『さてと、じゃあ俺は行く』 『あっ、ちょっと待ってください』 歩いていこうとする俺を少女は引き止めた。 『なんだ?』 『また明日、見せてもらえませんか?』 『別に良いが。またここに来ればいいのか?』 『はい!』 彼女は嬉しそうに笑いながら返事をした。 ───昼 『さてと、また芸が出来そうな場所を探すか』 この街に来てまだ一日しか経っていなくてどこに何があるかもわからない状態だった。 俺は街を歩き回ることにした。 30分後・・・ 『・・・限界・・・腹減った』 昨日から何も食べていない。 俺は空腹になると全くやる気がなくなってしまう。 仕方なく商店街で何か食べる事にした。 一つの店を見つけるとそこに入り席についた。 『ラーメンセット!!』 俺はそう注文すると食べ物が運ばれて来るまで自分の席の周りを見ていた。 大人数で楽しそうに雑談している女子高生。 お互い見詰め合っているカップル。 (いろんな人がいるな。ここだったら稼げるかな) と、俺は人形劇をしようか考えていた。 するとひときわ大きな声が聞こえてきた。 『イチゴサンデーおししいよ〜。後2杯は食べられるよ』 男女二人ずつの4人組。 その中の青色の髪をした少女がイチゴサンデーを食べている。 他の3人はその姿をただ呆れた様子で見ているだけだった。 『名雪、そんな甘い物よく食べられるわね』 『そお?おいしいよ〜』 『水瀬はホント甘い物好きだな』 『うん。すっごく好きだよ』 『本当、イチゴジャムといい名雪は甘い物好きだな』 『うん、イチゴジャムがあればご飯3杯は食べれるよ』 ぞーー・・・ 背筋が凍る思いだった。 その時、テーブルにラーメンセットが運ばれてきた。 ・・・・・・食えるかな・・・ ───夕方 商店街を歩いていると見覚えのある少女を見つけた。 『舞。何してるんだ?』 『・・・・・・・・・』 昨日、夜の校舎で出会った不思議な少女に俺は再会していた。 しかし相変わらず返事は無い。 すると俺たちの後ろから女の声が聞こえた。 『ごめ〜ん、舞。待った?』 『・・・・大丈夫』 舞の友達だろうか。 と、舞の友達らしき人物は俺に気がつく。 『?舞のお友達ですか?』 『昨日、会ったばかりだ』 『そうなんですか〜倉田佐祐理です。よろしくお願いします』 『ああ、こちらこそ。俺は国崎往人だ。佐祐理でいいか?』 『はい。年上のお兄さんですし。では往人さんと呼ばせていただきます』 倉田佐祐理と名乗る彼女は元気でいつも笑っている。 無愛想な舞とは正反対だな。 『ああ、そうだ。二人に俺が素敵な芸を見せてやろう』 そう言うと俺はこの街に来てから一銭も稼いでいない相棒をポケットから取り出した。 そしていつもの様に人形に念を込めた。 人形はムクッと起き上がるとトコトコと二人の周りを歩く。 『どうだ?これが俺の芸だ』 『はぇ〜すごいですね〜。すごいね〜舞』 『・・・・はちみつくまさん』 佐祐理も舞も俺の人形に釘付けだ。 『仕掛けは無いんですか?』 『ああ、種も仕掛けも無い、一種の魔法だ』 『はぇ〜ホントにすごいですね〜』 そう言うと佐祐理は何かを思い付いたように俺に話しかける。 『明日、またお会いできませんか?』 『ん?ああ、別にいいが』 『では明日、またここに同じ時間にお会いしましょう』 『わかった』 俺がそう言うと舞と佐祐理は俺に別れを告げ帰って行った。 (舞が言っていた【はちみつくまさん】ってなんなんだ) 不思議だったが分かるわけも無く俺は歩き出した。 ───夜 『・・・結局、今日も駄目だったか・・・』 俺はうなだれながら昨晩、野宿をした公園へと来ていた。 金も稼げず、寝床も見つからなかったのだ。 (昨日、ここで寝ても生きてたし今日もここで寝るか) 俺は仕方が無く、服を着込み公園のベンチへと横になった。 翌朝、寒さに耐え切れずに俺は目を覚ました。 『はい』 すると横に座っている少女が缶コーヒーを手渡してきた。 『ありがとう』 この寒さに缶コーヒーの温かさは天国だった。 と気が付けば缶コーヒーをくれたのは昨日、この公園でスケッチをしていた少女だった。 『もう来てたのか』 『はい。でもこんなところで寝ていたら風邪引きますよ?』 『大丈夫。慣れているから』 そう言うと俺は缶コーヒーを一気に飲み干した。 『さてと、じゃ昨日の頼まれていたし缶コーヒーも貰ったから芸を見せてやる』 そう言うと俺は彼女に人形劇を見せてやった。 やっぱり彼女は終始ポカンと口を開けていた。 『やっぱりすごいですね〜そんな不思議な力、私も欲しいな』 『そればっかりは無理だ』 『そうですよね〜・・・』 彼女は悲しそうな顔をしていた。 『ま、俺がこの力を持っている事自体が不思議だ。自分でもなぜかわからない』 『そうですね』 彼女は笑っていた。 『そういえばお名前聞いていませんでしたよね』 『国崎往人だ』 『美坂栞です。今日はありがとうございました』 『いや、こちらこそ礼を言う。缶コーヒーありがとう』 『はい!』 『じゃあ、俺は用があるから行く』 『はい、わかりました』 俺は栞と分かれて商店街へと向かった。 腹が減ったからだ。 昨日と同じ店でラーメンセットを食べていた。 するとやっぱり昨日と同じようにイチゴサンデーを美味しそうに食べる少女がいた。 (確か・・・名雪って名前だったな) 今日は女の友達を二人だった。 『相変わらずよく食べるわね〜それ2個目でしょ』 『だっておいしいもん。香里もどう?』 『遠慮しておくわ』 『おいしいのに〜』 (よく食べるな。甘い物ばかり食べていると太るぞ。今時の女子高生はそんな事気にしていないのか?) 結局、イチゴサンデーを2個食べると彼女たちは帰って行った。 さて、俺もそろそろ行くか。 今日は約束もあるからラーメンセットを食べると足早に店から外へ出た。 『こんにちは。往人さん』 そこには舞と背中に妙なものを背負っている佐祐理がいた。 『・・・・なんだそれは?』 『?これですか?アリクイのぬいぐるみです』 嬉しそうに笑う佐祐理。 舞は相変わらず無表情だった。 『実はお願いがあるんですよ』 そう言うと佐祐理は背負っていた馬鹿でかいアリクイのぬいぐるみを俺へと渡した。 『昨日の魔法でこのアリクイさんを動かして欲しいのです』 『・・・・』 絶句する。 こんな馬鹿でかいのを動かそうと思うと相当の精神力を使う事になるだろう。 それに腹も減る・・・ 出来ればお断りしたいのだが目の前で満面の笑みを見せている佐祐理を見ると断れない(舞は無表情だ・・・) 『・・・わかった』 そう言うと俺は全神経を集中してアリクイに念を送った。 ・・・ノシッ アリクイがゆらりと起き上がる。 そしてゆっくりと歩き出す。 ノッシ ノッシ ノッシ ・・・不気味だ。道行く人もなんだなんだとこちらを見ている気がする。 『あはは〜可愛いね〜舞』 『・・・はちみつくまさん』 これを可愛いと思うやつがここに二人。 それにしてもまた【はちみつくまさん】って言ったな。 『・・・ハァハァハァ。満足か?』 流石に疲れた。 『はい!ありがとうございました』 見ると佐祐理は本当に嬉しそうだ。 『本当は舞が見たいって言ったんですよ』 (えっ!?そうだったのか) 『だったら何で舞は無表情なんだ?』 『・・・・』 返事なしっと。 『これでも舞は喜んでるんですよ〜ねっ舞』 『・・・はちみつくまさん』 『ほら〜』 手をパチンと叩いて嬉しそうに笑う。 『そうか。喜んでくれているのならそれでいい』 相変わらず謎の多いやつだな、舞は。 でも佐祐理は舞と一緒にいて楽しそうだから本当の親友なんだろうな。 ───親友・・・か。旅をする俺にとって親友は必要ない。 すぐ別れる事になってしまうから作ろうともしなかったな。 『・・・じゃあ、俺は行くぞ』 『あっわかりました。今日はありがとうございました』 二人に別れを告げると独り商店街を歩いていた。 ボ〜っと佐祐理と舞の事を考えていた。 見た感じ、正反対の二人、それでもお互いの事を分かり合っているに違いない。 俺は二人が羨ましかった。 今まで旅をして来た俺にとって【親友】と言うものはいなかったからだ。 幼い頃は母さんと二人旅立った。 友達はいなかったが母さんがいてくれて俺は何も寂しいと感じなかった。 しかし・・・母さんは突然俺の前から姿を消した。 それ以来、俺の旅は独り旅となった。 ある街で人形劇をしては稼ぎまた違う街へと旅立つ。それの繰り返しだった。 短い期間しかいない街で【親友】を作る事は出来なかった ───逃げていただけなのか? 俺は【旅】を理由に親友を作る事から逃げていたのかもしれない。 しかし俺の旅の目的は・・・それは一つの街に居座っていては決して成し遂げられない目的。 ─── 俺はどうすればいい・・・ そんな答えの出ない自問自答を繰り返したまま俺はいつもの公園で眠ってしまっていた。 翌朝、目覚めは悪かった。 昨日の答えも出ていない・・・。 今日は何もやる気にならなかった。 『おはようございます』 と、不意に聞き覚えのある声が聞こえる。 栞だ。 『・・ああ、おはよう』 『元気ないですね。どうかしました?』 『いや・・・』 俺は何も答えない。 そして沈黙が訪れる。 ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・ ・・ ・ ・ ・ 『・・・なあ』 沈黙を破ったのは俺だった。 『はい、なんでしょう?』 『・・・栞には親友と呼べるやつはいるか?俺には・・・いないんだ・・・』 『・・・私にもいませんよ』 悲しそうにそう呟く。 『・・・すまない・・・』 『謝らないでください。それにしても往人さんにはどうして親友と呼べる人がいないんですか? そんな不思議な力を持っているのに』 『・・・俺は旅人なんだ。人を探している。 だから同じ街に長い間、居座ることは出来ない。この街に来たのも偶然なんだ』 『そうだったんですか。でも短い間でも親友がいれば楽しいはずですよ。 別れる時は辛いかもしれませんが・・・』 『・・・・・・』 俺は無いも答えない。 代わりに栞に聞いてみた。 『こんな事を聞いていいか分からないが、栞には・・・どうして友達がいないんだ?』 『実は・・・私は生まれながら体が弱いんです。だから学校も行けません。いつも家で独りぽっちなんです』 (そういえば本来なら今は学校の時間だ) 『そうなのか。でも体が弱いんだったら家で休んでないといけないだろ』 『そうですよね。でも家の中では出来ない事が多いですから・・・』 それだけ言うと栞は俯いてしまった。 ───俺の旅の目的。【ある人探し】そしてその人を救ってやる事。 それなのに俺は何をしている。 目の前には友達を作りたくても作れない少女がいる。 友達と別れるのが嫌で友達を作る事から逃げていた自分がいる。 今この子を、独りという寂しさから救ってやりたい。 『なぁ、栞。栞が独りで辛くなったらここに来い。俺はここにいる。俺は栞の友達だ。 でもいつかは旅立ってしまうがそれでも構わないか?』 『・・・はい!別れる事は辛いかもしれないですけど、やっぱり独りぽっちは嫌ですよね』 ゆっくりと顔を上げて笑顔で栞は答えた。 目には涙ぐんでいるようだった。 『よし!じゃあ俺は芸をしに行ってくる。栞はどうする?』 『私はここでスケッチをしています』 『そうか。今のままじゃな(苦笑)練習しないと』 『・・そんな事言う人、嫌いです!』 『冗談だ!じゃあ、またな!』 『はい』 ベンチから立ち上がり歩き出した。 その後ろ、笑顔で手を振っている栞がいた。 ───俺の旅の目的【人探し】一つの街に長い間居座れない俺の旅。 親友を作る事から逃げていた自分がいた。 だが今は違う。 同じ境遇の親友がいる。 そして今なお、どこかで俺の助けを必要としている人がいる。 俺はその人をずっと昔から探している。 この地球上のどこかにいる少女を・・・ 俺がこの街に来て1ヶ月程過ぎた頃だった。 いつもの公園に行くとそこには栞ともう一人、俺の知らない少女が立っていた。 (ん?どこかで見たことがある気がする) 二人の会話が聞こえる場所まで気付かれないように移動する。 ・・・・ ・・ ・ ・ 『またこんなところにいたの?家にいないと駄目っていったでしょ!』 『・・お姉ちゃん・・・』 (栞の姉さんなのか。姉がいたとは聞いてないな) 『お姉ちゃん、どうして私を探していたの?前に私には妹なんかいないって祐一さんと話しているの聞いちゃったの』 『・・・確かに言ったわ。栞がいつかいなくなっちゃう。 その現実が怖くて私はあなたを拒絶した。初めからいなかったことにしようって』 『だったら・・だったらどうして?』 栞の声が震えている。 (泣いているのか、栞) 『それから私は考えたの。栞にとって何が大事なのかを。栞にとって大事なのは今生きている時間でしょ。 だから・・・だからやりなおそうって!今更、許してもらえないかもしれない。 でもあなたを拒絶していた日々は私にとっても辛い毎日だった。 だからやりなおしたいの!!』 『・・・おねえ・・ちゃん』 『栞。ごめんね』 『・・・お姉ちゃん』 それから二人は抱き合いながら泣いていた。 (栞、お前は独りぽっちなんかじゃないぞ。ちゃんとお前の事を想っていてくれる姉さんがいるじゃないか) そうしてしばらく泣いた後、二人は公園を後にした。 俺は考えていた。 もうこの街にいる必要はない──と。 栞に黙っていくわけにはいかないんで俺はいつもいる公園のベンチに書置きを残す事にした。 ───栞へ 俺はそろそろこの街から出て行こうと思う。 今までは栞を独りにしてはいけないと思っていた。 栞の悲しみを少しでも和らげられるなら俺はこの街にいる意味があったからだ。 でもお前は独りなんかじゃない。 栞の事をちゃんと想ってくれている姉さんがいる。 この間、公園で栞と姉さんのやり取りを偶然見てしまった。 栞の姉さんは確かに栞を拒絶していたかもしれない。 でもそこにはやっぱり妹を想いやる気持ちがあったに違いない。 それに栞は姉さんが大好きだろ? 大好きだったら大丈夫だ。 また何度でもやり直せる。 これから姉さんと一緒に同じ時間をすごせるんだ。 栞にはもう俺は必要ないと思いこの街を出て行くことにした。 これからは姉さんと一緒に楽しく過ごせよ! それから──ありがとう。 俺は今まで友達を作る事から逃げていた。 でもそんな弱い自分を栞は変えてくれたんだ。 栞と別れる事は寂しいけど悲しくは無い。 だから後悔なんかしていない。 自分でも少しは強くなれた気がする。 これもみんな栞のおかげだ。ありがとう 最後に俺の旅の目的の【人探し】だが俺が探している人は普通の人じゃない。 馬鹿にされるかもと思って話さなかったが今なら言える。 俺が探している人は翼のある少女なんだ。 この地球のどこかでその少女も悲しんでいるんだ。 だから俺が助けてやらないとな。 体には気をつけろよ。 ちゃんと姉さんの言うことを聞くように! あっそれとスケッチの練習もしっかりしろよ(笑) じゃあ、俺はそろそろ行く。 また探している人が見つかったらこの街にも遊びに来るからな。 だから・・・ またな!! 国崎往人 翌日、栞はベンチにおいてある書き置きを見つけた。 そして涙を流しながら最後まで読んだ。 『往人さん・・・。私も寂しいですけど悲しくはありませんよ。 お姉ちゃんがずっとそばにいてくれるって言ってくれました。 それから友達も出来ました。いつもタイヤキを食べながら元気に走り回っている子です。 それからもう一人は往人さんに性格が似ている方で祐一さんって言います。 スケッチを馬鹿にされたけどいつも一緒にいてくれます。私は独りなんかじゃないですね。 往人さんも翼のある少女を早く見つけて助けてあげてくださいね』 栞は書き置きを自分のポケットへと詰め込んだ。 『お〜い、栞、何してるんだ〜早く来いよ』 『栞ちゃん、はやくはやく〜』 公園の外では元気よく栞を呼ぶ声がする。 雪を上をまるで子供のようにピョンピョン跳ねている少女とそれを呆れて見ている男。 『は〜い☆祐一さん、あゆちゃん、今行きます』 栞は涙をぬぐうと二人のもとへと走って行った。 ───私は今とても幸せです。 それもこれも往人さんのおかげです。 往人さんのおかげで私も強くなれました。 翼のある少女、馬鹿になんかしませんよ。 必ず見つけてあげてくださいね。 きっと往人さんのことをどこかで待っていますよ。 サヨナラじゃないんですよね。 だからいつかまた会いましょう。 往人さんを驚かせるぐらいスケッチを上手くなって待ってますね☆ ───二人は別れ、今それぞれ別に道を歩んでいる。 それでも二人の想いは同じなのだ。 ───また逢おう。白銀のこの場所で。 ─Fin─ <あとがき> 記念すべき(?)2作品目 本当はキャラ一人一人を往人に絡ませたかったんですけどね。 なかなか良いストーリが浮かばない(涙) お気に入りの栞重視です(苦笑)