「そういえばさー」  いつも通りの屋上で、お弁当を広げていた昼休み。  麻弓ちゃんにしてみれば何気ないんだと思う問いは、とっても突然で──とっても私 を困らせてくれました。 ===========================================================================    SHUFFLE! サイドストーリー  『 Lie on the Lie 』                           〜 芙蓉 楓 〜                          Written by けもりん ===========================================================================   「不思議だと思わない?」   「言われてみれば確かに」   「そうそう。私もずっと気になってたのよねー。なんでかなーって」   「なにか深い意味でもあるんですか?」   「別っつに昔からだしなぁ。むしろ、今更変えるのも変かとも思うんだが?」   「なに言ってるんだよ。今だからこそ変わるんじゃないか」   「そうよそうよ。ここが勝負時じゃない」   「いや、シア。勝負時ってなぁ……」   「私もそう思いますよ?稟さま。 ここで近づかなくてどうするんですか」   「親しき中にも礼儀あり。 けど、礼儀に拘って距離をおくのは、間違ってる    ってものさ。 こと恋仲に関してはね」   「いや、だからさ……」   「あ、もしかして稟くんって、変な趣味があるとかだったり?」   「変な趣味……ですか?」   「決まってるじゃない。ご主人様と呼べ〜、とかでしょ?」   「そうそう♪ さっすが麻弓ちゃん、話せる〜」   「待ておい」   「なるほど。それなら説明がつくか」   「だから待て」   「ええと……」   「あ、リンちゃん知らない?そういうの。 女の子の愛情を良いように利    用して、玩具にするのよ」   「え、いえ、あの……」   「で、奉仕とかなんとかって言って、色々辱めるの」   「稟さまっっ!!?」   「うわー。ひどーい。それじゃ楓ちゃん可哀想だよー」   「鬼。獣。女の敵っ!!!」   「ああ、可哀想な楓ちゃん。辛かったら、いつでも俺様の腕に飛び込んで来て    良いからね? 傷ついた君を癒してあげるよ」   「だーっ!!お前ら好き放題言いやがってからにっ!」   「逆上するとはますます怪しい──っタンマタンマぁたたたっっ──イヤぁ〜    〜乙女の純潔大ピンチぃたたたっ────」   「我が奥義『ウメボシ拳』を食らって尚それだけのへらず口が叩ければ、容赦    は失礼というものだなっ」   「ウソ、冗談、口から出まかせ──ぃたぁぃ〜──ごめんってばぁ」   「ごめんで済んだら警察は要らないってのは、実に名言だとは思わないかね?    え?麻弓=タイム君」   「ああっ!? 楓ちゃんだけでは飽き足らず、麻弓ちゃんまでテゴメ──な〜    んてわけないよね。愛しの稟くんだもん♪ だから、これ以上こっちに来る    のはやめようね? ほらほら、そんなに手を固く握ったりしないで、もっと    リラックスリラックス♪」   「いや、気をつけてはおいたほうが良いと思うけどね──と、冗談に決まって    るだろ? 俺達の仲なんだから、それぐらいはわかってくれるよな」   「そうそう。もうすこしで危うく愛玩具にされるところ──あ、いや、嫌です    ぜ旦那?真に受けちゃ。あっしは心底反省してやすぜ? お〜痛てて……」   「ってわけだ、ネリネ。麻弓のやつ、わざとらしく頭摩ってやがってるだろ?」   「……」   「……わかったら、その物騒な光球はしまってくれよな?」   「…………」   「……なっ?」   「……………………はい」   「さんきゅ──って、なんでこっちに打つんだよっ!!うわっ──」   「わ〜。リンちゃんやるぅ〜♪ 土煙モックモクだね」   「味方でほんっと良かったわ。結構大きな穴空いたんじゃない? この感じ    だと」   「あれも愛情表現かと思うと、羨ましくもあるけどね」   「んなら、おまえが食らってみろっての」   「あれ?なんだ稟。無事だったのか?」   「間一髪避けたからいいようなもんの、当たったら大惨事だぞ?この威力じゃ。    あー、髪の中コンクリだらけになっちまった」   「な〜んだ残念。てっきり逝ったかと思ったのに」   「最小出力ですから。まともに当たっても、2〜3日気を失うくらいかと」   「ほら。やっぱり愛が故の鞭じゃないか。謹んで当たらせていただかなきゃ、    男じゃないってもんだよ?稟」   「だから、それならお前が当たれっての!」   「真に残念ながら、俺様にはその資格はないらしいのさ」   「ったく。調子の良い……おい。 シア……なにやって──」   「私だって負けないんだからっ!」   「って、それさっきのより随分とデカイ──おい、待て。話せばわかる!」   「ちゃんと当たってあげるんだよね? 男なんだから」   「麻弓っ、んな無茶なこと言うな!」   「……稟。君の眩しかった勇姿は、決して忘れないよ」   「これで世界も救われるわ」   「だからお前ら、人を勝手に逝かせるなって」   「稟くん、受け取ってね?私の愛っ! ええいっ、いっけぇ〜〜!!!」   「押し売り反たぁい──っぶね〜〜!」   「あ〜っ! なんで避けるのよっ!!」   「避けるって!」   「な〜んだ」   「ちぇっ。面白くないなぁ」   「好き放題言いやがって……。ネリネとシアもやり過ぎだっての。……うわ…    …校庭、クレーターになってるし……」   「……ごめんなさい。稟さま」   「あ、あははは……。またお父様達呼ばないとね、リンちゃん」   「そ、そうですね」   「下の階が滅多に使わない特殊教室だったから良いものの、一歩間違えれば大    惨事だぞ?」   「……じゃ、校庭は?」   「……」   「で? ……うわ……なにアレ……」   「……麻弓」   「…………ううん。なにも言わなかったわよ?」   「だよな」   「もちろん」   「麻弓屋、そちも悪よのう」   「いえいえ。土見様には及びますまい」   「「ふっふっふ……」」   「ご覧、ネリネちゃん。あれが人間界名物の腹黒悪巧みさ」   「は、はぁ……。本当に大丈夫なんでしょうか……」   「だ、大丈夫大丈夫。なにかあったら、全部稟くんのせいにするから♪」   「それは名案だね」   「よろしくお願いします。稟さま」   「……はぁ……」   「いよっ、旦那。モテる男はニクいねぇ、辛いねぇ。その草臥れたため息が、    またなんとも」   「主犯格がなにを言うか」   「……そうやって濡れ衣を着せて、言いなりにしようってことかしら?」   「断じて違う! せっかく収まったんだから蒸し返すな、バカ。……そこの二    人も、ノリで魔力を出さないように。 この世の地獄が拡大するだろ」   「な〜んだ。ばれちゃた」   「今度は外さないつもりでしたのに」   「……女って怖いな、麻弓」   「いや、私に振られても」   「あそこのメデューサ達が睨んで来たら頼むぞ?」   「……盾にしようと?」   「当然。誰のせいでこうなったと思ってるんだ?」   「さあ。少なくとも私じゃないわね──っいたぁ〜〜。なんで殴られなきゃ    いけないのよ! それもグーでっ!」   「なに。盾の頑丈さを調べただけだ」   「だから、なんで私が土見くんの盾にならなきゃいけないわけ?」   「きっかけはお前だろうが。ええと──」   「楓ちゃんにだったよね」   「そうそう。変なこと聞きやがって」   「別に変じゃないわよ。一般的な疑問じゃない」   「そうかぁ?」   「ね、シアちゃん?」   「ええっ、私っ!? う、うん。そうだよね。不思議だよね? リンちゃん?」   「そ、そうですよね。普通はもっと、なんと言いますか──緑葉さん?」   「ま、でも、確かにそうだぞ?稟。 冗談はさておきね」   「そんなもんかなぁ。どうなんだ?」   「えっ? え……えっと──な、なんでそこで私に振るんですかっ!?」  そのたらい回しは、なんと私まで辿り着きました。てっきり樹くんで止まるかと思っ ていた私は、思わず慌ててしまいました。   「なんでって、楓が一番の当事者じゃん」   「そ、それはそうですけど、なにもこんな急に……」  すぐに話が逸れたようなので大人しくしていたのに、やり過ごす作戦は失敗の模様で す。ええと……どうしましょう。もう少し考える時間があると良いのですけど……。   「? 別に急にってこともないだろう?」   「はっは〜ん!? あっやしいなぁ〜。慌てちゃったりして。そういえば、さ    っきからずっと黙りだったし。やり過ごそうと思ってたんじゃない?」   「これはなにかありますね……」   「事と次第によっては、稟にはやっぱり悔い改めてもらった方が良いかもね」   「怖くないから、正直にシアお姉さんに話してみようね〜♪」   「あ、私は言わないと怖いからね」   「いや、だから、聞くなら楓だろうが。正直もなにも、俺は知らないんだって。    にじり寄るだけ無駄だ、無駄」   「だって、楓を苛めるわけにはいかないもの」   「をい」   「美しい女性は守るものっていう相場は、、古来より決まってるんだぞ?」   「そうそう。恋人の十人や二十人守れなくっちゃ♪」   「脅されてるのかも知れませんし……。あられもない写真とかで」   「「「「「えっ!!?」」」」」  みんなと一緒に、思わず私まで声をあげてしまいました。その言葉がネリネさんから 出たことと、まだ誤解が解けていなかったことに、ビックリしてしまったのです。  いけないと思って、慌てて口を手で塞いで一歩下がります。ここで目立ってしまって は、せっかくまた逸れつつある話の筋を引き戻してしまいそうです。  けど────   「えっ……と? そ、そういうものじゃないんですか?愛玩具って」     「ぅをい」   「なによ」   「自分のやったことには責任持てよな」   「そんなこと言われたって、どうしようも──あ、そっか」   「……待て。まさか──」   「うん。真実にしちゃえば、別に問題ないでしょ?」   「つ ま り。麻弓=タイムさんは、栄えある雌奴隷一号になることを嘱望して    いると?」   「絶・対・嫌」   「じゃあなんとかしろってんだ!!このっ」   「ぁいたたあっ──ぼ、暴力反対っ!」   「あの……もしかして……」   「う、うん。テゴメとかっていうのも冗談だから、真に受けないようにね?リンち    ゃん」   「さすがにそんなひどい奴じゃないしね。稟は」   「そ、そうなんですか……。稟さま、ごめんなさい。てっきり本当かと……」   「いや、ネリネは悪くないぜ? 悪いのは──」   「痛い痛いっ──やっぱり土見、私をどうにかする──いったぁ〜〜〜っ!!」   「ま、その辺でやめておいてあげたら? やり過ぎると、後々学校中にあらぬ    噂が立つハメになるかもよ?」   「い、今なら特別感謝出血大サービスで、仕返しはしないであげるからぁ〜    っ!」   「ふんっ。──まあ、ここはネリネに免じて許してやろう」   「っ〜〜〜〜〜〜ぅっっ!」   「けど、楓」  あ──やっぱりですか。   「ホントは、なにか訳があったりとかするのか?」  そうなんじゃないかなとは思ってましたけど、やっぱり稟くんなんですね。最後にわ たしを困らせてくれるのは。   「えっと……」  でも、大丈夫。こんどは慌てません。口を塞ぎながら、答えは必死に決めましたか ら。   「「「「ふんふん」」」」   「そ、そんなに注目しないでください……」  いえ。答え自体は最初から決まってはいたんです。   「つまらないですよ?」  決まってなかったのは、サラリと言ってしまう覚悟と、心構えでした。   「さっき稟くんが言った通りですから。 今更変えるのも調子狂っちゃいそう    ですし」  不自然だと、稟くんに気づかれないように。   「そうだよなぁ」   「ええ。 昔から稟『くん』でしたからね。 それが当たり前になっちゃっ    てます」  嘘だって見破られないように。   「そんなもんかな」   「逆に不自然な気がするんですよ。敬語じゃないのも」  幸い、樹くんの問いにも、上手く苦笑いを作って答えられたと思います。   「それに──」  けれど、あんまり追求されてしまうと、ボロが出そうで怖いです。  なので、稟くんに一肌脱いでもらうことにします。さっきから、ちょうど良い話題も 出ていることですし。   「──しっかり躾けられてますから」   「「「「「────!!!!!?」」」」」  にっこりと笑顔を作る私に、息を呑む気配が四つと愕然とする気配が一つ。一つだけ のが、もちろん稟くんです。   「裏は……取れたわね」   「……見損なったよ。稟」   「まっ──! おい楓っ、お前なんてことを──っ!?」  シアさんとネリネさんの手に光の玉が膨らんでいく様を見て、稟くんは身の危険を感 じたみたいです。問いただすのを諦めて、校舎へのドアに向け一目散に駆け出しまし た。   「あ、待ちなさいよっ!」   「稟、逃げるのは良くないぞ?」  まず麻弓ちゃんと樹くんが、後を追いかけます。   「………………」   「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」  続いて、押し黙ってるネリネさんと、対症的に唸っているシアさん。二人とも魔力の 玉はどんどん大きく……これは確かに、逃げた方が正解かもしれません。   (や、やりすぎたでしょうか)  屋上に一人残された私は、浮かぶ苦笑いのまま、みんなが消えた扉を眺めました。稟 くんもですけど、校舎がなくなっちゃわないかも心配になってきます。   (うまく逃げてくださいね。稟くん)  帰った後のことを思うと、不安だったりもします。でも、稟くんは優しいから大丈夫 だと思うことにします。けれど……少しくらいはお詫びをしないとですね。それと── お礼を。   「知られたくないんですよ、まだ──稟くんには」  麻弓ちゃんに、樹くん。それに、シアさんとリンさん。実はみんなになら、知られる のは構いません。  でも、稟くんにだけは知られたくなかったんです。   「ささやかな夢なんです」  だから、もう一つ嘘をついて、稟くんが逃げなくてはならないようにしてみました。 それと、出来ればみんなもいなくなってくれたらと。  結果は上々でした。こんなに上手くいくとは思ってませんでした。これも稟くんの人 望(?)のお陰でしょうか。  ホッと一息ついて、空を見上げます。  秋の空は、蒼一面。爽やかな風が、そこを通り過ぎていきます。  その風に乗せるように、私はゆっくりと呟きました。もう少しだけ預かっていて下さ いと、高い高い空にお願いをするように。   「いつか──」  そう、いつかです。  いつかその時が、本当に自分で自分を許せるようになる時が来たら。   「──稟って呼んで、普通に話しかけますから。もっと恋人っぽく」  最後に残したその戒めから、私を解き放ってあげたいと思ってます。  それまでは──もう少しだけ嘘をつかせて下さいね、稟くん。                                     Fin. ==============================================================================              SHUFFLE!は Omegavision の著作です。              けもりん は Omegavision とは一切関わりはありません。 ============================================================================== -----------------------------------------------------------------------------  けもりん   URL http://www2.tokai.or.jp/kemo/   mailto kemorine@tokai.or.jp  無断での転載はご遠慮くださいませ〜。……念のため。(笑