「なあ・・・」
「何だね?」
「俺はこれからどうなるんだ?」
「ふむ・・・」
「・・・別に、知ってどうこうってことはないさ。ただ、興味があるだけだ」
「君にとっては、あまり面白いことではないが?」
「どちらにせよ、俺はこれでなくなるんだろ?」
「そうだ。そして、君の頭部に入っている生体制御回路・・・詳しくは言わないが、
まあ人間の脳に当たるものだと考えてもらえば良い・・・をストックとして回収する」
「体は?」
「肉体は、一通り解剖を行った後で各種実験が行われる」
「まあ、手っ取り早く言えば処分か・・・」
「・・・ああ。もちろんそのデータは有効に使わせてもらうがな」
「で?ストックされたその・・・生体制御回路?・・・はどうするんだい?」
「それはまだわからない。過去の例で言えば、そのまま凍結・破棄と言うのもある。
逆に、そのまま再使用されたストックもある。もっとも、パーソナルな記憶は回収前にこの装置で消してしまうが」
「俺のは?」
「君のは、新型なのでな。まだちょっとわからないのだよ。まあ、破棄ということにはならないだろうが、今後の検討しだいだ」
「そうか・・・」
「まだ、なにかあるかね?」
「再使用されたとして、今回知り合った人達には・・・・あ、いや。わかる訳ないか」
「そうだな。姿が変わった上に、今回の記憶は消してしまうし、性格といったものも新しく書き換えられるだろうからな」
チクッ
俺の中で、何かが刺さるような感覚があった。
けど、些細なものだ。
しかも、もうこの肉体は用済みなのだから、いまさら報告することもないだろう。
問題があったなら、解剖のときにでもわかるはずだ。
「それじゃあ、作業に入るけど良いかね?」
「ええ。時世の句を詠む訳でもないですから」
「詠みたいなら詠んでも構わんが?」
「後に残るものでもないでしょう?」
「研究の資料としては記録される」
「それはなんだか味気ないな」
「まあ、私もそう思うよ」
「じゃあ、そろそろお願いします」
「ああ。お疲れ様」
教授が離れてからしばらくして、モーターの作動音がする。
頭の方から銀色の蓋が降りてきた。
俺は目を閉じる。
これで俺の役目は終わりだ。
残念ながら、俺は感情というものを理解することはできなかった。
もしもう一度、俺ではない俺が創られるなら、そのときは理解できることを願う。
ガチャン
金属がぶつかり合う無機質な音が響く。
完全に蓋が閉まったらしい。
俺は目を開けた。
カプセルの中は、薄っすらと蒼く明かりがともっている。
きっと、生理的に安らかな気分になるようにだろう。
シューッと、気体が送り込まれてくる音が聞こえた。
おそらく麻酔のガスか何かなのだろう。
俺はまた目を閉じた。
「茅乃・・・」
そして、その名前を呟く。
結局、はっきりと別れを言うことはできなかった。
それと、白倉からカメラを取りかえす約束も果たせなかった。
せめて、二人でとった写真だけでも渡したかった。
茅乃が、いつ俺がいなくなったことに気がつくかわからないが、そのときは悲しむのだろう。
よけいなお世話かもしれないが、茅乃の悲しみが写真を見て少なくなればと思っていた。
しかし、それも果たせなかった。