あの後、白倉がカメラを持って走り出した後。
俺は茅乃残して白倉を追いかけた。
茅乃には、「取り返してくる」と言い残して。
だが、白倉は見つからなかった。
夕方まで探し回ったあげく、白倉の家に電話をすることを思いついた俺は自分の家に向かった。
そして、それがタイムリミットだった。
玄関の前には、システムの人間が待ち構えていた。
反論することもできず、そのまま俺は回収された。
白倉が茅乃にカメラを届けてくれれば良いが・・・。
(どうしてあんなこと・・・)
そう思いながら、俺はいつの間にか体中が重くなってきているのに気づく。
麻酔が効いてきているらしい。
良く考えると、足の指の先の感覚がなくなって来ている。
上手く形容できないが、痺れたようなとでも言えば良いのだろうか。
そして、その痺れが膝の上あたりまで来たとき。
突然、まぶたの裏に茅乃と初めて会った日のことが浮かんだ。
そして、また次の日、一週間後、一ヶ月後と目まぐるしく時間が進んで行く。
これが・・・良く走馬灯のようにと揶揄されるものなのだろうか。
だとしたらこれは・・・
(茅乃・・・)
記憶の中に出てくるのは、その一人だけだった。
そして、いまさらながらに気がつく。
俺が、茅乃とともにあったことに。
茅乃が、俺の存在にとって全てだったことに。
茅乃がいなければ、きっと今の俺ではなかったであろうことに。
(くそっ・・・)
俺は、今の俺の境遇を無性に残念に思った。
茅乃と会えなくなることを。
茅乃を泣かせてしまうことを。
(まけ・・・るか・・・)
だから、必死に茅乃のことを制御回路に焼き付けようと思った。
教授は消えてしまうとは言っていたが、もしかしたら残るかもしれない。
それが賭ける価値のない勝負だということはわかっている。
けれど、万が一、いや、億が一、京が一の可能性がないともわからない。
そう、俺は新型なのだから。
それに、もし完全にコントロールができるのであれば、とっくに感情を持たせることにも成功しているはずだ。
だから、俺は必死に茅乃のことを考える。
茅乃、茅乃、茅乃、茅乃茅乃茅乃茅乃茅乃・・・・・・・・・・・・・か・や・の・・・・・・・・
俺の意思が完全に消え去るまでは。
弛緩した涙腺から液体が溢れ出しているのを、麻酔にやられた頬が感じることをできないままに。
明日への一歩
Fin