「わかりました」
思いもかけない梓の言葉に、私は顔を上げた。
梓の横顔を、一歩後ろから見る。
「みさきを・・・よろしくお願いします」
(え・・・梓?)
一歩下がって梓が私の横に立つ。
そしてそっと囁いた。
「ほら、みさき!」
「え・・・あ・・・でも・・・」
突然のことだったので、言い訳が思いつかなかった。
戸惑って、私は言葉に詰まる。
そんな私を見て、梓は満面に笑みを浮かべた。
そして、
「ボクの分も・・・がんばれ!」
そう言って私の背中に廻した手に、力を込めた。
その手に押されて、私は一歩を踏み出した。
そしてそこには。
裕樹先輩が優しい目をして、私を待っていた。
私を見つめて。
「話があるんだ」
だから私は、先輩のその言葉に頷くことしかできなかった。
そして、梓の手の感触がまだ残っている背中に、梓が走り去る気配を感じた。
(ありがとう)
振り返らずに、私は遠ざかる梓の足音に感謝した。
だから明日の朝、私も笑って梓に会いたいと思う。
それが梓への一番のお礼になると思うから。
私は先輩の後ろを歩き始めた。
その背中を見つめながら。
二人分の想いを込めた視線で。
背中を押す力
Fin