「ちょっと、何しにきたんですか!!」

昇降口に立っている狭川先輩を見つけたボクは、叫びながら階段を駆け下りていた。

今日はいつもよりも感傷的になっているなと、自分でも思う。

先輩が何をしに来たかなんて、わかっている。

わかっているけれども、敢えて聞く。


  「みさきちゃんに話があるんだ」

その答えは、ボクの予想とまったく同じものだった。

そして、その目がいつになく真摯であることも。

だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。

先輩が、これ以上みさきを泣かせるようなことをしようとしているのならば、みさきと話をさせるわけにはいかない。

みさきは、まだ先輩のことが大好きなのだから。

これまで自分に嘘をついて良く頑張ってきているけれど、そろそろ無理が見え始めている。

さっきまでだって、ボクが話していることにはほとんど耳を貸そうとせず、誰かを探しているようだった。


誰か・・・それはみさきにとっては一人しかいない。

  (そろそろ・・・1ヶ月だもんね・・・)

みさきが俯くようになった日。

悲しみと寂しさが表情に表れていた日。

それでもその日、みさきは怒っているようには見えなかった。

どちらかといえば、混ざっていたのは諦め。

何があったのかは知らない。

ボクには教えてくれなかった。

でもそれは、きっと狭川先輩とのことなのはすぐにわかった。

先輩を問い詰めたけれど、納得できる答えは貰えなかった。

それ以来、みさきは先輩と会おうとしていない。

先輩が教室まで来てくれていても、そっちを向こうともしない。

怒っている。

ボクも最初はそう思っていた。

けれど、近頃はむしろ何かに耐えているように見える。

それが何なのか、ボクには痛いほど心当たりがある。

だからボクは、みさきから先輩を遠ざけようとしている。

話したりなんてしたら、みさきが辛くなるだけなのはわかっているから。

自分を見てくれない人の前にいることは、とっても辛いことだとわかっているから。

忘れようとするよりも、こんなにも辛いのだから。

そして、そんなみさきを見るのにはボクは耐えられない。

でも、もし。

狭川先輩が、本当にみさきのことを好きでいてくれているのであれば良いと思う。

さっき、萩谷先輩が言っていたように・・・


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