「ああ、わかってる。それじゃ、楽しんでこいよ」
「わかった。それじゃ」
裕樹のその声を聞いた後、俺は電話を切った。
「上手くやれよー」
切れた電話越しにエールを贈る。
(さて・・・)
そろそろ梓ちゃんもみさきちゃんに連絡を入れている頃だろう。
本当に裕樹には上手くやって欲しいものだ。
こうしてお膳立てをしてやってるのだから。
一昨日のことだ。
俺、裕樹、みさきちゃんと梓ちゃんの四人は水族館に行く約束をした。
そして、当初の企み通りに俺と梓ちゃんは当日朝にドタキャンの連絡を入れた。
俺は裕樹に、梓ちゃんはみさきちゃんに。
「ま、ベタな作戦だけどな」
いまどき引っかかるヤツがいるのだろうかとも思うが、裕樹のヤツならば引っかかりかねない。
みさきちゃんの方は、もしかしたら梓ちゃんと共犯かもしれない。
なにせ、俺に話を持ちかけてきたのは梓ちゃんだ。
共犯とまでは行かなくても、薄々気がつくぐらいはしているだろう。
急に四人で遊びに行こうなどとは、あまりにも不自然だ。
誰が考えたって二人をくっつけようとしていると考えるに違いない。
(裕樹を除いては・・・だな)
そう考えれば、みさきちゃんはわかってて乗って来たということも考えられる。
「・・・・・・」
そこまで考えて気がついた。
どうやらエールを贈る相手を間違えたようだ。
「上手くやりやがれ。こんにゃろ」
遅すぎるとは思いながらも、電話口の向こう側に向かって言い直す。
そしてベッドの上に携帯を投げつけて裕樹を羨んだ。
(けどよ・・・)
俺もベッドに倒れ込んで、携帯のディスプレイを見る。
梓ちゃんと申し合わせた時間からは、十分程が過ぎていた。
気になっていることがあった。
メモリの電話帳を探すピッピッという音が、部屋に響く。
「一応、私達も連絡を取れるようにしておきましょうか」
一昨日、そう言って教えてくれた梓ちゃんの電話番号が表示された。
(けど・・・俺からかけるべきではないか・・・)
俺の思っている通りならば、人と話したいと思える状態ではないかもしれない。
(でも、話してしまった方が良いんだぜ?)
そう思いながら、俺は梓ちゃんの名前に無言で問い掛ける。
既にLEDが消えたディスプレイには、薄っすらと名前と番号が浮かんでいた。