「・・・それも、訳ありなんだね?」
「・・・はい」
「でも、もう気がついているんだろう?」
決して私に答えを無理強いすることのない言葉。
「はい」
頷きながら、とてもいい笑顔をしていると自分で思った。
「だったら良いじゃないか。これからそうすれば」
「いえ。このカメラでは・・・もう撮りませんから」
瞳は真っ直ぐ目を向いたまま。
「せっかく直ったのにかい?」
「・・・ごめんなさい。でも、これは・・・このカメラはもう返そうと思うんです」
正しい判断ではないかもしれないけど、それは私の決めたこと。
「返す?」
「はい。これは・・・借りてしまったものですから」
一年前のあのときが頭の中に浮かぶ。
「だから修理に出したんだね?」
「ええ」
「どうして・・・というのは聞くべきではないことだね」
「・・・すみません・・・・でも・・・」
「ん?」
「写真を撮ることが、心を映すことだってわかったから。だから返すことにしたんです」
店長の目をしっかりと見つめて私は答えた。
「それなら、『おめでとう』だね?」
「はい。だから・・・」
「気にすることはないさ。こんどは白倉さんのカメラで撮ったものを持ってきてくれるのを待つことにするよ」
「本当に、本当にありがとうございました」
受け取った袋を両手に抱え、大きく頭を下げる。
「ああ。お易い御用さ」
店長の目が垂れる。
その時、
「あ・・・」
自動ドアの向こう側を通り過ぎる人が目に入った。
それは・・・
「すみません。これで失礼します」
軽くお辞儀をして、私は慌てて鞄を開くと小さな紙袋を取り出した。
そしてレジに後に背中を向けて、出口に向かう。
「白倉さん!」
「はい?」
自動ドアが開くのをもどかしく待つ私の背中を、店長が呼び止める。
「頑張って」
「はい!」
顔だけ振り返った背中が暖かい言葉に押されるのを感じて、私は大きく頷いた。
外はもう、真っ紅な夕焼けに染まっていた。