どのくらい経っただろうか。

泣きじゃくる美月の頭をただ撫でていた。

言葉を交わすこともなく。

その必要もなく。

それだけで十分だった。

  「くしゅん」

そんな時間が、美月のくしゃみで途切れた。

  「おっと・・・、さすがに寒くなって来ましたね・・・」

  「うん。そうだね」

ずるずる。

美月が鼻を啜る。

  「ああ、もう。はしたない。千年の恋も冷めてしまいますよ、美月」

  「えへへ・・・」

  「『えへへ』じゃありませんよ、もう。まぁ、私の恋は千年どころではないので良いですけど」

すっかりいつもの美月に戻ったようだ。

私も嬉しくて、ついついのろけてしまう。

  「ふふっ。ありがとっ、悠志郎」

  「さて、どちらにせよそろそろ戻りますか。随分と時間も経ってしまいましたし」

きゅぅぅるぅぅ。

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

その音に顔を見合わせる。

  「はははは。美月のおなかも帰りたがっているようですしね」

  「ふか〜〜〜っ。よくも笑ったわね〜〜」

口では怒っている美月も、顔は笑い転げていた。

  「そうそう、鈴香さんがご飯できてるって言ってましたよ」

  「わ〜い。なんだろっ」

  「なんでしょうねぇ。ま、でも先にお風呂ですか。随分と汚れましたしねぇ」

見れば、美月も私も、着物はすっかり土にまみれていた。

  「うん。体も冷えたし」

  「それにしても・・・。いやはや・・・」

  「どうしたの?悠志郎?」

  「いえね、この着物では・・・鈴香さんになんと言われるか・・・。時間も経ってますし・・・」

  「あ・・・。あははははは。まあ、こんな所でしちゃった・・・・・・」

言葉の途中で美月が凍りつく。

  「あ・・・ああ・・・っ。あうぅぅぅぅっ」

「どうしました?美月?」

月明かりに照らされた美月は、真っ赤だった。

そして、

  「いやぁぁぁぁぁっ。よく考えたら、ここは父様と母様と柚鈴の前じゃないのぉぉっ」

  (ははぁん。そういうことですか)

その言葉で美月のいいたいことがわかった。

  「そうでけど、それが?」

わざと聞いてみる。

  「私、みんなの前で、あんなこと、あんなこと・・・ああっっ」

  「なんだ。そんなことですか」

  「そんなことって・・・。まさか悠志郎、気がついてっ」

  「ええ。初めっから。だから美月もあんなに燃えていたんだとばっかり・・・」

からかい半分の言葉をかけると、目の前で殺気が膨れあがるのがわかる。

  (ふふふっ。そうですよ。美月はそうでなくては)

思わず笑みがこぼれる。

それがさらに油を注いだのか、殺気はさらに膨れあがった。

  (そろそろ・・・ですかねぇ)

来たるべき大噴火に備えて身構える。

そして、

  「ふ〜〜〜〜〜〜か〜〜〜〜〜〜〜っ。死なすっ、絶対死なすっっっ」

  「はははははっ」

噴火を見届けて、クルリと背を向ける。

そして全力で駆け出す。

  「こらぁぁぁぁぁっ!逃げるな悠志郎っっ!!!」


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