冬の夜の気配に覆われた更衣室。
入り口の脇に置かれているヒーターによって空気が摺られる音と、
あたしの動きに合わせて鳴る衣擦れの音が部屋を支配している。
なんの飾り気もない鉄製のロッカーの前で、腰のあたりに手を回して結び目から短く飛び出している紐を引く。
解かれたエプロンがだらしなく垂れ下がる重みが、手にしたままの紐から伝わってくる。
縦横二回ずつ折った後で、長く延びた紐をくるくると巻き付けた。
縛り上げられて皺が寄っているエプロンを、ひとまず無造作にロッカーの上に置く。
細長い扉に作られている窪みに、指を滑りこませた。
(――んっ)
いつも固く空きにくい扉を引くために、気合いを込めて力を入れる。
やや遅れて、ギバッという鈍い音と共に、ロッカーがぽっかりと口を開けた。
洋服の掛かったハンガーを中から取りだして、扉につけられたフックに引っかける。
フックの上に備え付けられている鏡には、左上から真ん中下にかけて罅が走っていた。
両袖と襟元のボタンを順に外した。
続いて胸元。
肋骨を過ぎて、おへその上。
一番下のボタンも外して、ブラウスから肩を外す。
腕を袖から抜こうと、両腕を後ろに回す。
左の袖口を右手で掴む。
その時、暖房で暖められた12月の空気の温かさが、不意に不自然に思えた。
まるで、生暖かい手で撫でられているかのように。
身震いをして、はっとあたりを見回す。
もちろん誰もいない。
それどころか、なにかが動く気配さえもあるはずがない。
「・・・・・・」
気のせいだと思うことにして、正面に向き直す。
振り返ったあたしは、ふと鏡の中に映る自分を見つけた。
左右に開かれたブラウスの薄い紅と、辛うじて中心を隠している格子模様の鮮やかなオレンジ。
天井の蛍光灯のせいで必要以上に白が強要された、あたし自身の肌。
3つの色のコントラストが、罅の向こう側にあった。
背筋にゾクッと寒気がはしる。
膝が笑うように震えだしたのも同時。
鏡に映る自分の顔で、真っ青な顔をしていることも初めて理解した。
(あ・あは・・・)
笑おうとしたのを遮って、歯もカチカチと鳴り始めた。
突然見せられた現実から目をそらすように、顔を伏せる。
けれど、その視線突きつけられたのは、あられもなくはだけたあたし。
思わず目を閉じる。
開いた胸元を閉じ込めるかのように、両腕で肩をきつく抱き込みもする。
恐怖。
そして後悔。
突如としてあたしを支配した二つの感情は、立っているのを許さなかった。
肩を抱いた両腕を膝と身体の間にたたみ込むようにして、その場にしゃがみ込んだ。
目尻には、生まれている熱い染みを感じて。
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