ジャリッ
「悠志郎さん?駄目ですよ?美月を泣かせちゃ」
玉砂利が鳴る音と一緒に、後ろの方から声。
姉様。
「あ、いやいや。これは・・・」
「いいえ。言い訳は許しません。私の大切な妹なのですから」
「と、いわれましても・・・」
「悠志郎さん!?」
「は、はぁ・・・」
「はぁ・・・。まぁ分かってくれればよいのですが。ところで、二人ともこんなところで何を?」
「願掛けをしていたんですよ」
「願掛け?悠志郎さんもですか」
「ええ。そうです。願掛けです」
「宮司なのに・・・ですか?」
「まぁ、たまには良いかと思って・・・」
「そうですか・・・。じゃあ、巫女が願を掛けても不思議じゃないですよね?」
「え?あ、ああ。別に良いかと。宮司がするぐらいですから」
「それでは、私も」
ごそごそと音がして、姉様が硬貨を取り出した。
「お賽銭・・・とは言っても、結局戻ってくるだけなんですけどね・・・」
「ぷっ・・・くっ・・・。あはははははっ」
思わず吹き出した。
まだ、涙は出ていたけど。
「もぅっ。なんですか?美月?」
「だって、あははっ。姉様、悠志郎と同じこと言ってるんだもん」
「え・・・?そう・・・なのですか?悠志郎さん」
「あ?は、いや・・・まぁ・・・言ったような言わなかったような・・・」
「悠志郎、言っていたよっ。あははははっ」
「もうっ。この子ったら。そんなに笑わなくても」
「あははははっっっ」
「まぁ、何はともあれ泣きやんだみたいですし、良いではないですか」
「まぁ、そうですわね。だめですよ?もう泣かしては」
「はい。気をつけます・・・」
「あははははっっ」
「美月さん?はしたないですわよ?それぐらいにしておいなさい?」
「あははっ・・・?あうっ・・・」
「まあまあ、鈴香さん。そんなことより願いごとを」
「あら、そうでしたわね。それでは・・・」
姉様の投げた硬貨が、鈍く光って放物線を描く。
カリン・・・カタタン・・・。
ガラン・・・ガララン・・・。
パンパンッ。
「・・・・・・」
しばらくの沈黙の後、姉様が顔を上げる。
「ところで・・・、二人は何をお願いしたのですか?」
「?!」
「!!」
私は悠志郎と顔を見合わせた。
くすりと微笑みを交わす。
そして、二人で問い返す。
「姉様こそ、何をお願いしたの?」
「鈴香さんこそ、何をお願いしたのです?」
一瞬の後、
「あははっ。内緒だよっ」
「ふふふっ。内緒ですよっ」
「くすくすっ。内緒ですっ」
夕日に染まる境内に、三人の声が重なった。
そこには影。
三つの影。
三つの・・・六人の影。
夕日の中に。