笑顔
「つきあってもらえないかな?」その言葉は私にとっては思いがけないものだった。
そんな事あるわけないと、そう思っていた。
まさか私なんて。
自分でも可愛いだなんて思ってもないし。
むしろはっきりと可愛くないと思ってる。
そんな私に・・・。
しかも彼は・・・橋本君は・・・私が密かに想いを寄せていた相手だから。
とても嬉くて。
「・・・どうして・・・私なんか・・・」
つい出てしまった言葉。
「笑顔が良いなって。いつも笑顔で。いきいきしてるから」
聞かなければ良かったのかもしれない。
知らなければ幸せになれていたかもしれない。
「・・・そう・・・なんだ・・・。そっか・・・。笑顔・・・か・・・」
とても残念だった。
笑顔でいるのは訳があったから。
本当にいつも笑っていたわけではないから。
無理にって程ではないにせよ意識的に笑顔を作っていたから。
笑っている私は本当の私ではないから。
あれは・・・もう何年前なのだろう。
そのころよく遊んでいた隣の男の子。
まだ小学生だった私は彼のことが好きだった。
彼も私のことを少なくとも嫌いではないと、そう思っていた。
でも。
そうじゃないのが分かったのは、私が引っ越す日の前日。
ダメかもしれないけど。
そう思いながら、それでも勇気を振り絞って言った言葉に・・・彼は・・・。
確かに・・・可愛いなんて自分でも思ってなかったけど。
そこまで酷く言わなくても・・・ってそう思った。
だから、せめてこれからはいつも笑顔でいようって。
可愛くないのは仕方ないにしても、せめて明るくしていようって。
そう決めて。
そう自分に言い聞かせて。
「橋本君は・・・きっと私のこと・・・好きじゃないよ」
せっかくのチャンスだけど。
「私のことが・・・好きなわけじゃないよ」
恋人は欲しいけれど。
「だから・・・」
橋本君の目に映っているのは私じゃないから。
「悪いけど・・・付き合えない」
断ることにした。
素の私でいられないなら、きっとうまくいかないから。
隣にいても幸せだと思えないだろうから。
きっといつか。
笑顔の裏の私に、気がついてくれる人がいることを願って。
今は。
夏の暑い教室でした。