笑顔

2001/06/12

  「つきあってもらえないかな?」その言葉は私にとっては思いがけないものだった。

そんな事あるわけないと、そう思っていた。

まさか私なんて。

自分でも可愛いだなんて思ってもないし。

むしろはっきりと可愛くないと思ってる。

そんな私に・・・。

しかも彼は・・・橋本君は・・・私が密かに想いを寄せていた相手だから。

とても嬉くて。

  「・・・どうして・・・私なんか・・・」

つい出てしまった言葉。

  「笑顔が良いなって。いつも笑顔で。いきいきしてるから」

聞かなければ良かったのかもしれない。

知らなければ幸せになれていたかもしれない。

  「・・・そう・・・なんだ・・・。そっか・・・。笑顔・・・か・・・」

とても残念だった。

笑顔でいるのは訳があったから。

本当にいつも笑っていたわけではないから。

無理にって程ではないにせよ意識的に笑顔を作っていたから。

笑っている私は本当の私ではないから。



あれは・・・もう何年前なのだろう。

そのころよく遊んでいた隣の男の子。

まだ小学生だった私は彼のことが好きだった。

彼も私のことを少なくとも嫌いではないと、そう思っていた。

でも。

そうじゃないのが分かったのは、私が引っ越す日の前日。

ダメかもしれないけど。

そう思いながら、それでも勇気を振り絞って言った言葉に・・・彼は・・・。

確かに・・・可愛いなんて自分でも思ってなかったけど。

そこまで酷く言わなくても・・・ってそう思った。

だから、せめてこれからはいつも笑顔でいようって。

可愛くないのは仕方ないにしても、せめて明るくしていようって。

そう決めて。

そう自分に言い聞かせて。



  「橋本君は・・・きっと私のこと・・・好きじゃないよ」

せっかくのチャンスだけど。

  「私のことが・・・好きなわけじゃないよ」

恋人は欲しいけれど。

  「だから・・・」

橋本君の目に映っているのは私じゃないから。

  「悪いけど・・・付き合えない」

断ることにした。

素の私でいられないなら、きっとうまくいかないから。

隣にいても幸せだと思えないだろうから。

きっといつか。

笑顔の裏の私に、気がついてくれる人がいることを願って。

今は。


夏の暑い教室でした。