モーツァルトは存在する
しかも世界中に偏在する
奏者が心を熱くするたびに
聴者が安らぎをおぼえるたびに
ナイチンゲールは存在する
名前を忘れられた部屋にも
重労働の中でほほえむ看護者の支えとなり
そのぬくもりは白いベッドに伝わる
祖母は存在する
地域は限定されているけれど
言葉で私に厳しさを教えた祖母は
背中で私に優しさを教えた祖母は
少なくとも私の肉体が滅びるまで
この世界で生き続けていく
誰かの心を支えている存在が
それ自身の肉体の時間を越えた時
それを私は長寿と呼ぼう
私の人生は、本当に誰かの心を救けたことがあるだろうか
そして、今、私は誰かの心を支えているだろうか
掲載 『静岡新聞』