ごみ置き場の自転車
小学校に入ると、近所の友達はみんな自転車を買ってもらい、どんどん上手になっていきました。
「自転車を買って」と何度頼んでも、「うちは貧乏だから」と言って、買ってくれません。
たしかに自分の家が友達の家より貧乏だということは、もうちゃんと知っていました。
大家さんが、自分の子供の勉強部屋用に作ったトタンぶきの6畳ほどの小屋に妹を含めた一家4人は、2枚のふとんに肩寄せあって寝ていたのです。
お風呂や勉強部屋のある家に住む事が、当時の私の一番の夢でした。
3年生になったある日、父がついてこいと言います。
連れて行かれたのは、ごみ置き場、今で言う不燃物の集積所でした。
そこで、父は、壊れた自転車を何台か集め、使えそうな部品を外し始めました。
なんだか恥ずかしくて、でも「やめてよ」とも言えないで、私は、ただ、父がすることをじっと見ていました。
部品を取り終えた父は、私にすこしだけ部品を持たせ、いっしょに家に帰りました。
私の目の前で、いくつもの部品は、だんだん自転車の形になっていきました。
仕上げはペンキ塗りです。
銀と青、それになぜか肌色の3色の自転車ができあがりました。
銀と肌色は、何かに使った残りだったのですが、青は、この自転車のために新しく買ってくれたペンキだったようです。
へんな自転車だとみんなから言われる前に言っておきたかったからでしょうか。
それとも、父が作ってくれたことを心のどこかで誇りに思っていたからでしょうか。
「これは、ごみ置き場から持ってきて作ったんだよ」私は会う人ごとに、聞かれもしないのに自分から言いつづけました。
それから約2年間、私はこの愛車に乗って、友達と楽しい時間を過ごしました。
ニッポン放送「高島秀武のおはよう中年探偵団」〜ちょっと言わせて私の気持ち〜 2001年8月放送
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