「慣れているから、もう平気だよ」
そう言って、顔は笑った
九歳の娘が
毎日三回 自分の手で
太ももに針を刺す
注射も慣れれば痛くないのか、と
自分の経験しないことを いつか納得していた
娘の針が皮膚で止まった
足の親指が反り返っている
他の八本はしっかり握っている
針先と肉の接点を見つめたまま
注射器を押す手は止まっている
四歳の娘に初めて針を刺した時の
思いのほかかたい肉の感触が私の手にも戻ってくる
自己注射の痛みに 「慣れ」なんてないのだ
たとえ親子でも本当の痛みは分かち合えないのか
気が付くと 娘は注射を終わり
インスリンのセットを片付けている
「ね、平気でしょ」
そう言って、顔は笑った
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