三月三十一日
夕の食卓には、私の大好物のおでん
春のおでんは、湯気に隠れることもなく
私が座るタイミングを分刻みで予測したように
ほどよく煮込まれている
「今日のおでんはうまいな」
「いつもといっしょですよ」
いつも うまいと感じていたが
うまいと言ったことは一度もなかったか
仕事が忙しいのをいいことに
感謝の言葉を湯気の向こうに置いたまま過ごしてきた
大根をほうばれば
それを許してくれるのか
長い時間をかけた
台所の思いが染み出てくる
季節に遅れたと言われるかもしれないが
二還り目の暦は
二人でめくっていこう