鏡の空


気の早い蛙が一匹だけ

眠りから覚めた新しい土の

香りにむせたのだろうか

それとも生まれて初めて鳴くからなのか

躓くリズムで喉を震わせている

その声を待っていたかのように水は導かれ

やがて田は空を映す鏡になった

鏡の空には規則正しく苗が植えられ

雲が流れていくように

季節がゆっくりと動き出す



次の季節が待っていると知っているから

この国に住む私たちは

大事な人との約束を信じているし

勤勉に働き続けていけるのかもしれない

嬉しい人にも寂しい人にも

春は暖かく夏は眩しい

やがて鏡の空が黄金の絨毯に変われば

誰もが生きてきた自分を誇りに思い

季節が一周めぐる頃

あの時の笑いは大事な思い出に変わり

あの時の涙はリセットするチャンスを得る



歌い出した孤独な声に

あちらからも一つ こちらからも一つ

鏡の空に身を隠した蛙たちの

不思議な歌声が重なり始める

ぎこちないリズムだけれど

この春の鼓動に乗って

めぐる季節は少しスピードを上げた


         掲載 『文芸やいづ』  奨励賞


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