T型糖尿病 病気を理由に「採用見送り」

「この病気は神様からの贈り物です。こんなに多くの仲間に会えて、小さな子どもたちのお世話もさせてもらえるんですから。」

 T型糖尿病患者、Aさん(19)の言葉は明るい。

 T型糖尿病の患者と家族の会の「静岡県つぼみの会」は毎年夏に、糖尿病の勉強やイベントを通じ親睦を図る2泊3日のキャンプを開催している。今年から大学生の齊能さんは、お世話役として参加した。

 糖尿病は中高年が生活習慣の乱れから(すべてがそうではないが)、栄養の吸収を助けるインスリンの効き目が悪くなる病気として知られているが、正確にはそれは「U型糖尿病」として分類されている。

 「T型糖尿病」は、原因は未解明だが、例えば、風邪をひいたときに細菌が膵臓に入り込み、インスリン分泌細胞を破壊するために起こる。赤ん坊から思春期を中心に、日本では10万人に1.5人が発症する。

 インスリンがないと、ブドウ糖を体内に取り込めないため、患者は、1日4回のインスリンの自己注射を生涯打ち続ける。そして、インスリンが効きすぎると、今度は低血糖を起こし、だるさや吐き気などに襲われるため、常に甘いお菓子を用意しておく必要もある。

 自己注射と間食。これを同級生の前で行なうことに抵抗はないのだろうか?

 高校2年生のBさん(4歳で発症)は、病気は低血糖も含めてもはや日常の一部であるという。
「小学生なら自己注射は、友だちにはあたりまえの光景だけど、高校でも同じでした。私は初めから同級生の前で『打つよ』といって自己注射したけど、案外興味もつ人っていませんね。」
「私なんか逆にお菓子あげて喜ばれていましたから(笑)」(Aさん)

 同会独特の明るさが2人を含めた若者をオープンにさせているのかもしれない。ただ一方で、AさんやBさんは、他の会の集会で、病気を隠している子どもたちにも出会っている。

 その子どもたちの将来待ち受けている問題のひとつに「就職拒否」がある。

 Cさん(20台女性。関東)は数年前、T型を理由に某企業から採用を見送られた。Cさんは、ならばこの病気のために働こうと一念発起。看護学校に入り、現在は看護婦として活躍する。
「この病気は自己管理さえしっかりしていれば普通に暮らせるんです。病気を理由の不採用はあまりにも不条理です。」

 東京都文京区に事務所がある、小児糖尿病患者と親の会である「つぼみの会」(静岡とは別団体)代表のDさんは、「そういう就職拒否は山ほどあります。それまで病気を隠さなかった人も、就職のときは隠したり、隠す理由はないと公表しつづける人も、20も30も面接を受けてやっと入社できるほどです」と語る。

 それでも「つぼみの会」のように、各地に散在する児童患者と親の会による啓蒙活動や、マスコミの報道の効果で10年前と比べるとT型への理解は、学校でも企業でもはるかに進んでいるという。

 だが、こつこつと積み上げてきたその理解が、ほんの1日で誤解を招くこともある。

 今年、人気テレビ番組「伊東家の食卓」で「最近は、食生活の乱れから子どもにも糖尿病が増えている」との説明が全国に流れた。この放送内容に、各地の患者と親の会はいっせいに抗議。後日、同番組に訂正のテロップが流れた。

 だが、Dさんは、こういう動きも世の常だと冷静に捉えている。
「だからこそ、不断の努力でもって、この病気をもっていても、尊厳あるひとりの人間として生きられることを今後も訴えていきます」
 やがて就職するであろうAさんはこう語る。
「ちゃんとした自分がいれば、無知にはちゃんと対処できると思うんです」

 T型糖尿病はU型同様に、自己管理さえしっかりしていれば、健康に暮らせる病気である。是非、そのことを理解してもらいたい。

                                                                      (フリーライター 樫田秀樹)

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