中庭U


中庭に起つ樹よ
お前に自由はない
たまたま そこに流れる人の目に触れ
たまたま そこに降り立つ鳥と会話しても
彼らが去って行った後
お前がそこを立ち去ることはできない

中庭に建つ樹よ
お前に未来はない
青空は四角く切り取られ
そよ風はわずかな距離を進むだけ
囲われた自然は誰かが計算しつくしたもの
お前には、見えない明日は来ない

中庭に立つ樹よ
お前に博識はない
知っている世界がすべてだと思うのか
知っていてあきらめてしまうのか
知ることの愚かさを嘲笑うのか
知らないということに幸せを求めるか

中庭に経つ樹よ
お前に迷いはない
落ちてゆく葉が朽ち、根に吸い込まれ
無限の命が繰り返される
中庭として切り取られた瞬間を
永遠のように感じながら
生きてゆくのだから


         掲載 『文芸やいづ』


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