桜の川

いちばん美しい色のまま
花びらは風に舞い
行く道をさえぎるかのように
春の色で 歩む人を包んでいる

「あと もう少し」
そんなふうに欲張らない桜は
いつまでも人の心に
美しさだけを残していく

あと何回 桜を見るのだろう
残りの人生を 花見の回数で
数え始める頃には
人は もう 桜色の肌を
持つことのない哀しみを
想い出にくるんで
遠く西の空を見る

いちばん美しい色のまま
花びらは水面に落ち
川は絨毯のように
春の色を ゆったりと流していく


     『文芸やいづ15号(平成16年度) 奨励賞』

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