せまいながらも  




「せまいながらも楽しい我が家〜」

父の友人が酔っぱらって家に来ると

必ずこの歌を歌い、言った

「この家はいつもあったかくていいよなあ」



四人家族が六畳一間に寝ていた

一畳の台所、半畳ずつの玄関とトイレ

それが僕の家のすべてだった

卓袱台を出して食事し片付けて寝た

母の内職も僕や妹の勉強もそこでした

親戚が来ると七人、八人でそこに寝た

昼間は裏の機織工場から千匹の蝉の声がした

雨が降るとトタン屋根は人の声より大きく鳴った

僕は家を友達に見せたくなかった

子ども部屋のある友達の家がうらやましかった

先生の家庭訪問は気が重かった



でも家がせまかったから

家族四人はいつもいっしょにいた

父も母も温かく僕らを育ててくれた



僕もとうとう子ども部屋のある家を作らなかった

僕の娘も息子も子ども部屋を経験せずに巣立ってゆくそれがよいことかどうかわかるまで

あとまだ30年はかかりそうだ



晴れた日の夜中だけは家の周りの騒音は消えた

時々遠くの列車の音がかすかに聞こえてきた

三十年たった今も夜中に起きるとその音を思い出す

今は夜汽車の音が聞こえない場所に住んでいるが

あの頃と同じように

家族が同じひとつの部屋に寝ているのを確かめて

もう一度眠りにつく



「せまいながらも楽しい我が家」

この歌の題名が「私の青空」だと知って

うれしくなったことを思い出しながら


         岐阜県養老郡養老町第7回「家族・愛の詩」コンテストで佳作に入り、本に載りました。

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