背中に

今日 家を出て行く子の背中に
十数年分の思い出が
色を変え 形を変え
音を立てているのかと思えるほど
めまぐるしく よみがえる

一度振り向いた子の目にも
同じ思い出が映っているだろう
けれど

子の持つ思い出は
まるで木の根から吸い上げられ
ぐんぐん伸びる幹や枝に使われる
養分のように形をなくしていく

そして
親の持つ思い出は
やせていく幹の中で右往左往しながら
毎年 繰り返し繰り返し おなじみとなって
季節の訪れとともに心に灯る

「今、無事に着いたよ」
そんなふうに初めての電話が鳴るまで
親はじっと陽だまりの中で
最初の実の皮をむく


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