君は毎日包丁を研ぐ
切れ味が鋭ければ鋭いほど
野菜や魚たちは
その真の旨味を引き出され
食べる人の舌ばかりか
胸まで幸せにする
僕は毎日言葉を研ぐ
切れ味が鋭ければ鋭いほど
事実や心たちは
その真の意味を引き出され
詠む人の舌ばかりか
胸まで幸せにする
時に君の指を傷つける君の包丁は
人を殺せるほどだから
こんなに薄く野菜の皮をむき
舌ざわりのいい刺身を切りそろえられる
いつも僕の胸を血だらけにする僕の言葉も
人を傷つけていないかと危ぶみながら
でも
誰かの悲しみの皮をむき
見おとされたやさしさを切りそろえたいと思う
君は毎日包丁を研ぐ
僕は毎日言葉を研ぐ
掲載「文芸やいづ」